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サボテン

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四国八十八ヶ所霊場の第1番札所から第3番札所を
観光気分で回っていたとき、ある民家の庭先から、
1本の庭木が大きく顔を出していた。

もちろん、それだけなら、
別にどうと言うことの無い風景である。
しかし、それが自分の眼を強く惹き付けたのは、
その庭木が、巨大な「サボテン」だったからである。

その「サボテン」は、ごく普通の民家の庭先から張り出しており、
途中、幹から何本もの枝分かれ(?)をして、
それら全てが天に向かって伸びていた。
樹高は3~4mほどもあっただろうか。
それは、自分が今までに目にした「サボテン」とは違い、
繊細さなど欠片も無く、野性味に溢れた「サボテン」であった。
まるでアメリカやメキシコの荒野に生えている
「サボテン」そのもののそれは、異様な風にも感じられた。

それまで自分の抱いていた「サボテン」というのは、
植木鉢に植わった、繊細な感じの植物で、
決して、庭から生えてきて、
ニョキニョキと天に向かって伸びて行くものではなかった。
もちろん、アメリカやメキシコの荒野には、
これらの栽培品種の「サボテン」とは違う、
野生の「サボテン」が生えており、
その枝にハゲタカがとまっていたり、
その前を幌馬車が走って行ったり、
ソンブレイロにポンチョをつけたガンマンが、
「サボテン」に身を隠しながら
鉄砲を撃ち合ったりしていることは知っていたが、
それらはTVのブラウン管の中でのみ、
目にすることの出来る光景であった。
そんなハゲタカのとまっていそうな巨大な「サボテン」が、
四国・阿波のお遍路道に生えていたのである。
まさか「お遍路さん」というのは、
日本の原風景の中をのんびり歩く、牧歌的な巡礼旅ではなく、
硝煙とバーボンのよく似合う、
マカロニウエスタンな旅だったのだろうか。
…まあ、そんなわけもなく、
その先もお遍路道を歩いてみたが、
巨大な「サボテン」が生えていたのはその民家の庭だけで、
それ以降は、「サボテン」の「サ」の字も無いお遍路道であった。
ただ、自分の住んでいる地域と、
そう変わらないような田舎の民家の庭に、
アメリカの荒野に生えているような巨大な「サボテン」が、
生命力溢れる姿で生えていたというのは、衝撃的なことであった。

四国から帰ってきてからしばらく、
その「サボテン」のことは忘れていたのだが、
近くのホームセンターに入った際に、
並べられている鉢植えの「サボテン」を見て、
あのお遍路道で見た、巨大「サボテン」のことを思い出した。
ひょっとしたら、アレと同じように
庭木になるような巨大な「サボテン」を売っていないかと、
店の中を探してみると、お遍路道で見たものほどではないが、
自分の背丈と同じくらいの柱状の「サボテン」が、
大きな鉢に植えられて展示されていた。
値段を確認してみると、9900円である。
ほぼ、1万円ほどで、そこそこの大きさの
アメリカ・メキシコの荒野風の「サボテン」が購入できるわけである。
ただ、気になったのは、その「サボテン」が
鉢植え状態で販売されていた点である。
これをお遍路道の「サボテン」の様に、庭に植え付けたとして、
しっかりと根付き、大きく育ってくれるのだろうか?

「サボテン」というのは、サボテン科に属する植物の総称である。
そのほとんどが多肉植物であるため、
「サボテン」が多肉植物の別名のようにいわれることがあるが、
実際には、サボテン科以外の多肉植物は、「サボテン」ではない。
いや、そもそも多肉植物って何だよ?と思っている人もいるだろう。
定義の上では、葉や茎や根の中に水分を蓄えた植物、というのが
多肉植物ということになっており、
リュウゼツランやアロエなども、これにあたる。
その多肉植物の中でも、「サボテン」の種類は多く、
実に5000~7000もの種類があるため、
「サボテン」と他の多肉植物を、分けて分類することもある。
多肉植物が、水を体内に溜め込むようになったのは、
その生育環境が影響していると考えられる。
南北アメリカの乾燥地帯を原産地とする「サボテン」は、
その乾燥から身を守るために、葉の表面積を減らし、
「刺」へと変化させていった。
これにより、昼夜の気温差によって生じる露が、
葉の表面に留まる事なく、地面に流れ落ち、
それをそのまま根で吸収することが出来る。
さらに普通の植物は、昼間、光合成を行なうことによって
栄養を作り出すのだが、その際、酸素を放出するために
気孔を開かなければならない。
乾燥地帯でこれをすれば、気孔から水分が奪われてしまうため、
「サボテン」は光合成を、夜、行なうようになった。
……。
いや、夜には「光」がないから、光合成できないじゃないかと、
思う人もいるだろう。
実は夜であっても、光合成は行なうことが出来る。
恐らくは月の光や星の光、夜明け前や日暮れ後の
わずかな光を用いるものと思われるが、
これらは昼間の太陽の光とは、比べ物にならないため、
光合成の効率は格段に落ちてしまう。
そのため、「サボテン」の光合成の速度は非常に緩やかであり、
それにともなって、「サボテン」自身の成長も、
非常に緩やかなものとなっている。

「サボテン」が日本に伝えられたのは、
16世紀の後半とも、江戸時代ともいわれている。
恐らくは17世紀の初頭前後に、
日本に持ち込まれたものと思われる。
「サボテン」という名前の由来については、
その切り口を畳の汚れに押し付けて、その汚れを落としたため、
石鹸の意味である「シャボン」が変じ、「シャボテン」となり、
さらにそれが変化して、「サボテン」となった。
「サボテン」を「シャボテン」と呼ぶのは、
かなり近代まで続けられており、
1960年代では、まだ「サボテン」を
「シャボテン」と表記することもあったという。
正式な名前は「サボテン」であり、
これを「シャボテン」と呼ぶのは、
「鮭(サケ)」を「シャケ」と呼ぶのと同じだ、ともいわれる。

さて、日本では主に観賞用として、
植木鉢などで栽培されている「サボテン」だが、
実は食べることも出来る。
あんな刺だらけのものを、どうやって食べるんだ?
と思われるだろうが、同じ多肉類であるアロエなども、
ヨーグルトなどに入れて食べられていることを考えれば、
それほど突飛なことでもないだろう。
ウチワサボテンなどは、刺を抜いた後で、そのまま焼き、
「サボテンのステーキ」とすることもある。
食べた人の体験談を読んでみると、
わずかに酸味があり、オクラに似た食感で、粘りがあるらしい。

我が家の庭にも、「サボテン」の苗を植えて、
ひとつ、大きく育ててみたいという気持ちもあるのだが、
さすがに食べてみようという気には、ならない。

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