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仮名手本「忠臣蔵」~その2

更新日:

前回、仮名手本「忠臣蔵」の「仮名手本」の部分について書いた。

いろいろと考察をしたが、「忠臣蔵」のストーリー部分については、

全く触れなかった。

今回はこの仮名手本「忠臣蔵」の、ストーリーについて書いていきたい。

さて、「忠臣蔵」の登場人物といえば、一体誰を思い浮かべるだろうか?

大石内蔵助。

浅野内匠頭。

吉良上野介。

この辺りが、パッと思い浮かぶのではないだろうか。

しかしここに挙げた人物、誰1人として仮名手本「忠臣蔵」には出てこない。

は?

これ「忠臣蔵」の話でしょ?

この人たちが出てこなくてどうすんの、と思われるだろうが、

本当に誰1人出てこないのである。

もっと言ってしまえば、「忠臣蔵」は江戸元禄年間に起こった、

「赤穂事件」をモデルにして作られているのだが、

この仮名手本「忠臣蔵」の舞台は、室町時代なのである。

ではここで、仮名手本「忠臣蔵」に出てくる登場人物を挙げてみよう。

大星由良之助。

塩冶判官。

高師直。

……。

誰だ、お前ら?と突っ込みたくなる。

しかしよく見てみると、この3人のうち「大星由良之助」は

「大石内蔵助」に似ていないだろうか?

そう「大星由良之助」は、「大石内蔵助」をもじって作られた、

架空のキャラクターなのである。

役職は、赤穂藩の筆頭家老。

「大石内蔵助」と同じだ。

しかし、ここで疑問が浮かぶ。

室町時代なのに、赤穂「藩」?

「藩」って、江戸時代のものじゃないの?と思うだろう。

実は江戸時代にも「藩」という呼称は一部の人間しか使っておらず、

一般的には「~領」という風に呼ばれていたのだ。

現在のように、「~藩」という呼び方をされるようになったのは、

藩制度の崩壊した、明治時代以降のことである。

実に皮肉なことだ。

話を戻すと、室町時代に「藩」というものは存在しておらず、

この仮名手本「忠臣蔵」の舞台となる、室町時代初期には、

赤穂を含む、播磨・備前・美作は赤松氏の領国であった。

詰まる所、仮名手本「忠臣蔵」で語られる室町時代は、現実のそれではなく、

架空の「室町時代」ということになる。

さて、大星由良之助については、大石内蔵助をモデルにした

キャラクターであることが明らかになったが、塩冶判官と高師直については、

一体誰がモデルになっているのか?

実は上に書いた通りで、塩冶判官は浅野内匠頭、高師直は吉良上野介の役割を

与えられているキャラクターである。

全然、名前が違うじゃないの、と思われるだろうが、それもそのはず、

この塩冶判官と高師直は実在の人物である。

両人とも室町時代初期の人物で、この2人の間にも因縁がある。

一説によれば、美しい塩冶判官の妻に横恋慕した高師直が、

塩冶判官を罠にかけ、謀反の疑いをかける。

塩冶判官とその妻子は、密かに京を脱出して領国の出雲に向かうが、

その途中、播磨国蔭山(兵庫県姫路市)で妻子は追手に追いつかれ、

自害してしまう。

塩冶判官自身は無事に出雲まで逃げ延びたが、妻子が自害したことを知ると、

「もはやこれまで」と、自らも命を絶ってしまう。

このエピソードと、「赤穂事件」をミックスして作られたのが、

仮名手本「忠臣蔵」なのである。

塩冶判官の「塩」は、浅野内匠頭の領国・赤穂の名産、

高師直の「高」は、高家筆頭・吉良上野介の「高」をそれぞれ暗示している。

ちなみにこの塩冶判官と、高師直以外の人物のほとんどは、

「赤穂事件」の関係者をもじって作った、架空の人物になっている。

ストーリーは我々の知る「忠臣蔵」に、酷似している。

もっとも、赤穂浪士が討ち入る高師直の屋敷は、京でも江戸でもなく、

鎌倉ということになっている。

さらに我々の知っている「忠臣蔵」だと、討ち入りの後、

四十七士が切腹するまで、描かれることが多いが、

仮名手本「忠臣蔵」では、討ち入り後、屋敷を出ようとした所で、

高師直の腹心に遭遇、これを斬って話が終わっている。

この仮名手本「忠臣蔵」を見ていると、

当時の劇作家たちが、実際の事件を、

いかに工夫して、モチーフにしていたかがわかる。

わざわざ時代を変え、登場人物の名前をもじり、物語を作り上げる。

しかし、落ち着いて見てみると、何というか随分ギリギリの所を、

攻めている感じだ。

見る人が見れば、というより、誰が見ても一目瞭然なほどに、

「赤穂事件」をモチーフにしている。

これは当時の検閲体勢が甘かったのか、

それとも「赤穂浪士」たちへの、庶民の思い入れがあったからだろうか。

よくよく考えてみれば、「大石内蔵助」が「大星由良之助」になっているのなら、

タイトルは仮名手本「忠臣由良」ではないだろうか?

小さな「謎」を残したまま、考察を終わる。

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