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内田康夫、没

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前回の記事では、我が家の畑に大量に残っていた大根を処理するべく、
その葉を刻んで塩で揉み、天日で干して、即席の「菜飯のもと」を作った、
という所まで書いた。
本来であれば、今回はその続きとして、残った大根部分を
沢庵漬けへと加工していく様子を書くつもりでいたのだが、
つい先ほど、ショッキングなニュースが入ってきたので
今回は予定を変更して、こちらのニュースを取り上げてみたいと思う。

「内田康夫死去」というニュースが入ってきた。

ちょっと、ニュースサイトに載っている記事を書き出してみよう。

『名探偵・浅見光彦シリーズで知られる人気作家・
 内田康夫(うちだ・やすお)さんが13日、敗血症のため
 東京都内の病院で死去した。83歳。』

数年前、「浅見光彦最後の事件」と銘打った「遺譜」が刊行され、
永遠の33歳と言われていた浅見光彦が34歳となり、
この超人気シリーズが完結した。
シリーズ完結編ということで、これまでのシリーズに登場していた
ヒロインたちがまとめて登場し、いよいよ浅見光彦も年貢の収め時か?と
話題になった。
作者である内田康夫によれば、
時系列上、この話以降の物語を書かないというだけで、
これまでに語られていなかった事件を発表するという形で、
ペースは落ちるものの、これからも新作はリリースしていく
ということであった。
その作者の言葉を裏付けるかのように、毎日新聞紙上にて
シリーズの最新作「孤道」が連載されており、
ファンはほっと胸を撫で下ろしたのであるが、
2015年7月、作者である内田康夫が軽度の脳梗塞を発症し、
彼が入院することになったのを期に、連載が終了してしまった。
後日、作者の回復後に続きを書き下ろして、
完成品として刊行するという話であったのだが、
作者の回復が思わしくなかったのか、2017年の3月には
正式な休筆宣言が出され、「孤道」については完成部分のみを
刊行するということになった。
さらに、この「孤道」の続きに関しては、
一般から広く公募して、その中に面白いものがあれば
それを完結編として刊行すると、発表された。
(この「孤道」の続きの募集に関しては、
 今年の4月末日が締め切りとされており、そこからの選考作業を経て
 秋に「完結編」が刊行されるという予定であった)
「孤道」の続編の応募期間はまだ1ヶ月以上残っているので、
いよいよこの「孤道」は、未完成のまま、
彼の最後の作品ということになった。

自分がこの内田康夫という作家の作品に出会ったのは、
それほど古いことではなく、ほんの10年ほど前のことである。
厳密に言えば、本と出会ったわけではなく、
ゲームソフトとして発売されていた「浅見光彦」シリーズを
プレイしたのが、そのきっかけである。
そこから「浅見光彦」シリーズに興味を持ち、
100冊近く刊行されていたシリーズ作品を図書館から借りだしてきて、
むさぼるように読破していくことになるのだが、
ここまで大量のシリーズ作品を読むというのは、
自分としても初めてのことであった。

「旅情ミステリー」「旅情サスペンス」など、
大々的に「旅情」を謳っているだけのことはあって、
日本国内津々浦々、はては外国まで舞台に(主に浅見光彦シリーズ)
なっていたが、それぞれが非常に細かく取材されており、
現地の、それも郷土史家ぐらいしか知らないほどのネタを掘り起こして、
作品の中にこれを取り込んでいた。
さらに毎回、「折角、本を読むんだかから、
ちょっと賢くなった気になってもらいたい」と言う作者の言葉通り、
普段生活している中では、ちょっと見落としている様な雑学を、
トリックなどにかこつけて、使っているのも面白かった。
そういうちょっとした雑学から来る「思い込み」の様なものが、
トリックの核になっていることが多かったため、
物語の中の登場人物たちは、わりと自然な感じで動いていて、
ドラマとしての不自然さがなかったのも、彼の作品の魅力だった。
彼の作品を読むまで、ミステリーというのは不可思議な死に方や、
大仰なトリックが無いと成り立たないのでは?と思っていたが、
彼の作品を読んで、そういう思い込みはきれいに払拭された。
要は、人が死ぬなり、いなくなるなりして、
その原因が分からなければ、それだけでミステリーに成り得るのだ。
(まあ、彼の作品の中にも不可思議な死に方や、
 大掛かりなトリックを用いたものもあるが、非常に数が少ない)

トリックなどに力を入れない分、彼が注力したのは
魅力的なキャラクター作りや、それを使った人間的なストーリー展開だ。
それは、彼の代表作でもある「浅見光彦」シリーズでなどで顕著である。
よく、魅力的なキャラクターがいれば、
後は勝手にストーリーが出来上がる、なんていうことをいう人がいるが、
内田康夫の作品は、まさにその典型であった。
日本全国を旅して歩く、フリールポライター・浅見光彦。
彼の兄で、警察庁の刑事局長を務める浅見陽一郎。
2人の母親で、光彦にとって頭の上がらない存在である母・雪江。
光彦を「坊ちゃま」と呼ぶ、お手伝いの須美子。
シブちんで、お調子者の「旅と歴史」編集長。
そして軽井沢に住む売れっ子ミステリー作家・内田康夫。
どれもドラマなどではお馴染みの顔ぶれだが、
その中でも異彩を放っているのは、作者である内田康夫自身が
堂々と自分の作品内に登場して、浅見光彦と共演している所だろう。
浅見家の人々からは「軽井沢のセンセ」と、
一種の疫病神の様に見られながらも、
何かにつけて浅見に連絡を入れ、事件や厄介ごとを持ち込んでくる
トラブルメーカーである。
自分自身をやや露悪的に表現し、作中に登場させている所から
どことなく、彼の人間性が伺える様な気がする。
(もちろん、内田康夫は作中でも重要な登場人物でもあるので、
 テレビドラマなどにも普通に登場してくる。
 内田康夫本人が演じることはほとんど無かったようだが、
 内田康夫がドラマにちょい役で登場することはあった)

自分のミステリー歴(というほど、色々なシリーズを
読んでいるわけでもないが……)の原点であり、
決して外すことの出来ない作家であった内田康夫。
昨年、休筆宣言が出された辺りから、体調は思わしくなさそうで、
なんとか回復して執筆活動に復帰されることを祈っていたが、
結局、その願いが届くことはなかった。

今はただ、安らかに眠られることをお祈りする次第です。

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