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民明書房

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一般的な価値観からすれば、
「嘘」はよくないものとされる。

我々は、子供のころから正直であることを良しとされ、
嘘をつくことを悪いこととして教育される。
童話「狼少年」の話などは、その最たるもので、
普段、嘘ばかりついていた少年が
肝心のときに本当のことを言っても、誰にも信じてもらえず、
結局は命を落とす。
この話は、嘘をつくことへの強烈な戒めとなっている。

「嘘」というのは、犯罪にも関わってくる。
「詐欺」というのは、そのまま「嘘」そのものが
犯罪のキモであるし、
「誘拐」などでも、子供などを攫う際には
「おじさんはお父さんの友達だよ」とか、
「お母さんが事故にあったから、病院に行こう」など、
「嘘」をついて、行なわれることがある。

「嘘」というものが忌避される反面、
一般社会に容認されている「嘘」もある。
例えば、小説やマンガなどの創作物は、
「創作」という名の、一種の「嘘」である。
これらには、現実にあり得ないような
あからさまな「嘘」もあれば、
ひょっとしたら、本当にそうなんじゃないか?
と感じてしまうほど、真に迫ったものもある。
「創作」の世界では、より真実味のある嘘の方が、
リアリティがあるということで、評価が高くなるようである。
また、奇術師などが行なう「手品」も、
一種の「嘘」であるともいえる。
奇術師たちはそれぞれ工夫を凝らした仕掛けを持って、
観客たちを騙し、奇跡を見せる。
もちろん、観客たちも「それ」が嘘であることは知っていて、
必死になってその「仕掛け」を見破ろうとする。
しかし、結局は奇術師の掌の上で思うように翻弄され、
まんまと騙されることになる。
これなども、その「嘘」が大胆で、
かつ精妙であればあるほど、奇術師の評価は高くなる。

こういう、いわゆる許される「嘘」の中で、
もっとも記憶に残っているのが、「民明書房」である。

この名前を聞いて、あー、あれか、と思う人は
30〜40代ぐらいの男性ではないだろうか?
一般には全く知られていない出版社で、
知らない人は全く知らない。
本屋に尋ねてみても、全く首を傾げられるか
あるいは苦笑いされるのみである。
出版物が多岐に渡っており、そのどれもがかなり「怪しい」。
全盛期の週刊少年ジャンプを読んでいた人たちは、
(つまりこれが30〜40代の男性となる)
すべからく「民明書房」を知っているが、
別に「民明書房」が
週刊少年ジャンプを発行していたわけではない。
週刊少年ジャンプを発行していたのは、
大手出版社の集英社であり、「民明書房」とは何の関係もない。
いや、関係ないともいえない。
「民明書房」とは、週刊少年ジャンプの全盛期、
これに連載されていた「魁!男塾」の中に登場した、
架空の出版社なのである。

「魁!男塾」は、1985年から
週刊少年ジャンプに連載されていた、
宮下あきらによる少年マンガである。
劇画調の、極めて濃いタッチの作品だったが、
連載当初は「男塾」の塾生たちがドタバタと暴れ回る、
ギャグマンガであった。
しかし「キン肉マン」や「DRAGONBALL」が
そうであったように、
やがてストーリーはバトルものへと変わっていく。
同じ「男塾」内での1号生と3号生の戦い、
「男塾」と他団体との戦いが繰り広げられる。
「魁!男塾」が「キン肉マン」や「DRAGONBALL」と
違っていたのは、そのバトルスタイルで、
「男塾」のそれは、敵味方ともに中国拳法や、
それに類似した怪しい格闘技を主体にしていた所である。
敵にしろ、味方にしろ、何やら怪しい技を繰り出すと、
途端に仲間のキャラクターが、
「ぬうっ、あれは……!」
「知っているのか?○○」
「あれぞ、世に聞く〜〜」
と、その怪しい技についての解説をはじめる。
その際、マンガの中で
その技について、書籍からの引用が載るのだが、
このとき、頻繁に引用されていたのが
「民明書房」の本であった。
もちろん、引用されていた書籍は何も「民明書房」だけでなく、
それ以外にも「太公望書林」や「曙蓬莱新聞社」など、
字面だけ見ても、いかにも厳めしい出版社名が並ぶ。
それぞれの出版社から出版されている書籍が、
マンガの中で毎回のように引用され、
敵の怪しい技を解説していた。

このマンガの中で頻繁に引用される「民明書房」というのが、
実際には存在しない、全く架空の出版社であった。
「民明書房」だけでなく、
「太公望書林」や「曙蓬莱新聞社」など、
このマンガに出てくる全ての出版社と書籍は、
作者による創作で、マンガの中に出てくる怪しい技に
説得力を持たせるための「嘘」であった。

この「引用」というやり方のせいか、
それとも、その架空の書籍の内容が秀逸だったせいか、
読者の中には「民明書房」が、実在の出版社であると
信じ込んでしまっている人間もいた。
実際に、本屋を回り「民明書房」の書籍を
探しまわる人間もいたという。
物語の中の、それも本筋には全く関係ない、
一コマ、二コマの引用を、全く実在のものだと
信じ込んでしまったのである。
「男塾」のストーリー自体が荒唐無稽なものであり、
その中で取り上げられた「民明書房」の引用も、
結構ムチャクチャで荒唐無稽なものであった。
しかし、荒唐無稽であったにもかかわらず、
「民明書房」の方は、真実として受け入れる人がいた。
これこそ、作者・宮下あきらの
恐るべき手腕といわねばならない。

その荒唐無稽な「民明書房」のネタを挙げてみよう。

・甲冑軍隊蟻……かちゅうぐんたいあり。
        全長2㎝ほどの蟻で、
        砂漠のピラニアと呼ばれる。
        100匹いれば、3分でラクダを
        白骨化するという。
        しかし、2㎝の蟻100匹が
        どんなにがんばっても、
        物理的に不可能である。

・凶解面昌殺……きょうかいめんしょうさつ。
        服を後ろ前逆さまに着て、相手の隙をつく技。
        まるでドリフのコントである。
        この技を使ったのが李莢振(りはしふる)。
        リバーシブルの語源だと言う。
        もちろん、そんなわけがない。

・疆条剣…………きょうじょうけん。
        針のように細い剣で、敵の急所を突く。
        これを完成させたのが邊針愚(へんしんぐ)。
        フェンシングの語源である。
        もちろん、そんなわけがない。

・趨滑襲…………すうかっしゅう。
        中国明代に室内専用に考案された。
        刃のついた特殊ゴムをラケットで打ち、
        床・天井・壁に反射させ、敵を狙った。
        現在の室内競技・スカッシュの原型である。
        もちろん、そんなわけがない。

いくつか取り上げてみたが、大方この調子である。
様々な現代競技、現代語の起源を中国等に求める傾向があり、
ゴルフの起源を中国であるとして、
突っ込みのハガキを貰ったことは、よく知られている。

「魁!男塾」において、欠かせぬものになった感のある、
「民明書房」という「嘘」。
以降のシリーズでも頻繁に登場し、ファンを喜ばせた。

作者の宮下あきらは、まさに創作的「嘘」の達人である。

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