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植物 雑感、考察

ヒシモドキ

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By: othree

一般的に、「○○モドキ」のように
「モドキ」という言葉のついているものは、
オリジナルの「○○」に劣る、という風に評価される。
しかしこれは、あくまでも人間視点での有用性などを
勘案した結果なので、実際に「モドキ」が
オリジナルに劣るとは限らない。

今回のテーマである「ヒシモドキ」は、
前回のテーマであった「ヒシ」の「モドキ」ということになる。
葉が「ヒシ」に似ている所から、
「ヒシモドキ」と名付けられた。
つまり、「ヒシモドキ」は「ヒシ」の劣化コピーのように
捉えられてしまっているのである。
なぜ、どちらも似たような植物であるのに、
「ヒシ」はオリジナルのような扱いを受け、
「ヒシモドキ」は劣化コピーのような扱いを受けるのか?

恐らくこれは、人間への「貢献力」の違いだと思われる。

前回、書いたように「ヒシ」の実は、
かつて広く食用として用いられ、
現在もなお栽培されており、人々の口に入ることがある。
「ヒシモドキ」では、そうはいかない。
「ヒシモドキ」は、別名「ムシヅル」と呼ばれるように、
ミズカマキリによく似た実をつけるのだが、
これは食用にはならない。
さらには前回書いたように、
忍者によって「撒菱」として使われることもあった。
もっともこちらに関しては、
非常に限定的な範囲でのみ使われただけであるが。
「ヒシモドキ」の実の形状では、
こちらの用途も果たすことが出来ない。
つまり、人間主体の見方をした場合、
「ヒシ」は非常に役に立つ植物であり、
「ヒシモドキ」は全くといっていいくらい
役に立たない植物なのである。
にもかかわらず、外見上だけではこの2種は非常に似通っている。
食用の実をつける「ヒシ」だと思い込み、
その成長を心待ちにしていたものの、
実はそれは「ヒシモドキ」で、
期待していた実が全く収穫できないガッカリ感。
このやり場の無い怒りが、
「モドキ」という言葉に込められている。

ヒシモドキは、シソ目オオバコ科ヒシモドキ属に属する、
1年生の水草である。
ヒシの方は、フトモモ目ヒシ科の植物になるので、
ヒシとヒシモドキは、よく似てはいるものの
全く別の植物ということになる。
かつてはヒシモドキ科とされ、
その後、果実の形態からゴマ科ということになった。
さらにその後の分子系統解析により、
現在のオオバコ科ということになった。
この二転三転している辺りが、
いかにも人間に興味を持たれていない風で、哀愁を感じさせる。
日本の本州・九州に分布している他、
朝鮮半島、中国といった東アジア地域に分布しており、
ここもヒシとほぼ重なっている。
葉の形など、ヒシに非常に似通っている部分がある反面、
実の形など、全く似通っていない部分も多い。
たとえば、ヒシ、ヒシモドキともに、
地中に伸ばす「地中根」と、
水中に伸ばす「水中根」を持っている。
ヒシは「水中根」がよく発達し、ここから栄養を吸収する。
ヒシの「地中根」は、あくまでも水底への固定が目的である。
逆にヒシモドキの「水中根」は、ほとんど栄養を吸収出来ず、
ヒシモドキの「地中根」はよく発達し、
こちらから栄養を多く吸収する。
そのため、ヒシモドキは比較的陽当たりが良い、
水深の浅い場所に生育していることが多い。

実はこのヒシモドキ、現在、危機的な状況にある。

ここの所、ヒシモドキはその数を急速に減らしており、
例えば、我が兵庫県下では
レッドデータAランクに分類されている。
県内では、ヒシモドキが生育しているのは
たつの市内のため池1つだけで、
他ではその姿を見ることは出来ない。
まさに希少植物なのである。
何日か前、このたつの市内のため池のヒシモドキが
花をつけたとニュースがあった。
驚くなかれ、ヒシモドキは花をつけただけで
ニュースになる存在になっていたのである。
珍しい希少植物であるし、
せっかく同じたつの市内で咲いているのだからと、
どこのため池で咲いているのか調べてみたのだが、
ヒシモドキ保護のためか、ため池についての情報は
全く公開されていないようである。
ただ、ニュースの中では道路拡張工事のために
生育期にため池の水が抜かれた(!)とあることから、
道路に面した池であることは間違いがないだろう。
レッドデータに載るような希少植物であるのに、
とんでもない雑な扱いをされている所が泣けるが、
それだけ、人々の関心の少ない植物と言うことだろうか。
せっかくの希少植物なのだから、
しっかりと保護し、県内唯一の生育地としてアピールすれば、
花の咲く季節などには、ちょっとした観光資源にも
なるのではないかと思うのだが、
現在の所、市の方にはそういった考えは無いようだ。

そういう状況もあり、県下の学校の中には
ヒシモドキを育ててみて、その生態を研究している所もある。
その結果、面白いことがわかった。
ヒシモドキ研究における栽培実験では、
ヒシモドキの先端15㎝ほどを切り取り、
栽培容器に用土を入れ、これに挿し木して水を満たし栽培した。
え、そんな乱暴なやり方で大丈夫なの?と
思う人もいるだろうが、乱暴なやり方でも大丈夫なのだ。
このやり方でもしっかりと根付き、成長し、
種子をつけさせることが出来た。
しかも、かなり容易であったという。
その結果から、このような研究結果が得られた。
「ヒシモドキは丈夫で、繁殖力も高い」
……。
思わず、なんでやねんと突っ込みたくなる。
あちこちでどんどんと数を減らし、
その数を激減させている植物の研究結果としては、
あり得ない結果である。
丈夫で、繁殖力の高い植物が、
どうして絶滅の危機に瀕しているのか?

この研究発表を行なった研究者は、こう考察している。
ヒシモドキは、その栄養を「水中根」ではなく、
「地中根」から吸収している。
だから、ヒシモドキが繁殖しやすいのは、
陽当たりのいい、水深の浅い場所である。
(根が容易に水底に達することが出来るため)
そういうヒシモドキの性質からすると、
ため池ですら水深があるため生育しにくい環境である。
本来は水たまりとか、湿地に近い場所で生育していたものの
時代とともにそういう場所が減っていき、
結果としてため池の浅い場所に生育していたもののみが、
生き延びることになったのではないか?
つまり、ヒシモドキが減っているということは、
ヒシモドキが生育出来る環境が減っているということだ。
環境さえ整えれば、
もともと丈夫で繁殖力の強い植物なのだから
後は勝手に繁殖する筈である。

「ヒシ」の「モドキ」として、
不遇な扱いを受けてきた「ヒシモドキ」。
しかし、そんな「ヒシモドキ」も、現在では絶滅に瀕し、
超レア植物になってしまった。
「ヒシ」の花は白く、「ヒシモドキ」の花は薄いピンク色。

しばらくは水草のある池を見つけたら、
しげしげと花を観察することになりそうだ。

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