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魚雷

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今回のタイトルを見て、
なんだ、前回と同じじゃないか?と、思った人は、
ここの所の熱さで、冷静な判断力を失ってしまっている。
一度、冷たい水で顔を洗い、
改めて、今回のタイトルを読み返してみてほしい。
今回は、水草の下から「ベフッ」という呼吸音を響かせる
スネークヘッドではなく、
水面下から船にせまり、その喫水線下を破って撃沈させる
凶悪な兵器についてである。

「魚雷」という兵器は、どうも他の武器に比べると
軽く見られている節がある。
かの「宇宙戦艦ヤマト」でも、艦首底部、
バルバスバウの辺りに宇宙魚雷発射口がついていたが、
その使用頻度は低く、
主砲が華々しく発射されるのに対し、
魚雷に関しては、ごく稀に、お義理のような感じで
数発発射されるのみである。
主砲がバンバンと敵戦艦を沈めていくのに対し、
魚雷はろくに敵に当たることも無く、
宇宙の闇の中に消えていく。
もちろん、魚雷発射口というのは、
「宇宙戦艦ヤマト」にのみついているもので、
実際の戦艦大和には、魚雷の発射装置などはついていない。
大型の戦艦になると、魚雷なんてみみっちいものは
使わないよということだろうか?

しかし、実際の所、魚雷というのは攻撃される船にとっては
最悪の兵器である。
魚雷は船の喫水線の下を狙うため、
被弾して船腹が破られれば、そこから海水が大量に浸入し、
船を沈めてしまうことになる。
強力な大砲を持つ船同士が撃ち合っても、
その船の上部構造にダメージを与えるだけで、
なかなか船を沈めることは出来ないが、
ひとたび魚雷が命中すれば、
どんな船であれ、かなりの確率で船を沈めることが出来る。
現に「不沈艦」といわれた当の戦艦大和でさえ、
10発に満たない魚雷の直撃を受け、
海の藻くずと消えているのである。
大和などは、注排水システムという
対魚雷用の防御策を持っていたが、
残念なことに、これでは完全に魚雷を無効化させることは
出来なかったのである。
それほど、喫水線の下というのは、
船にとって致命的な弱点なのだ。
とくに防水区画のとられていない、小型の艦艇では
魚雷の1発は戦艦の主砲よりも恐ろしかっただろう。

現在のように、自らの力で航行し、
敵にぶつかっていくタイプの魚雷が作られ始めたのが、
1860年ごろのことである。
日本でいえば黒船が来航し、
国中が右往左往していたころのことだ。
このころ、日本では海軍力の増強が激しく叫ばれていたが、
すでに世界では、魚雷が作られ始めていたのである。
最初の自走式魚雷は、圧縮空気の力で自ら水中を進んでいく
管状の装置であった。
その後、改良が進められ、
魚雷は振り子と水平舵により適当な深度を保てるようになり、
スピード、航続距離ともに飛躍的に伸びていった。
魚雷にスピードと航続距離が無かったころには、
小型艇に魚雷を積み込み、大型艇に肉薄して魚雷をぶつける
水雷艇も実用化されていた。
先にも書いた通り、戦艦といえども大砲による砲撃だけでは
敵艦の上部構造を破壊するのがメインになってしまい、
これを撃沈するのには、時間がかかってしまう。
それに比べ、水雷艇による魚雷攻撃は
全く無防備な喫水線下を破壊するため、
敵艦に与えるダメージは甚大で、また効率的でもあった。
この水雷艇による攻撃を防ぐため、
小型船舶を破壊するための
小型で高速の「駆逐艦」が開発された。
後には、この「駆逐艦」にも魚雷が装備され、
水雷艇が担っていた魚雷攻撃を、
駆逐艦が行なうようになっていった。

やがて航空機が開発され、これが運用されるようになると
航空機に魚雷を積み込み、
これで敵艦に対し魚雷攻撃を行なうようになる。
先にも書いた通り、魚雷攻撃は船にとっての致命傷になりうる。
魚雷を積んで、敵艦に魚雷攻撃を仕掛ける航空機を
「雷撃機」といい、重量のある魚雷を積んでいるため、
運動性能には大きな制限がかかっていた。
これを護衛する、あるいは破壊して味方の損害を防ぐために
対航空機戦闘に特化して作られたのが、「戦闘機」である。
「戦闘機」によって護衛された「雷撃機」は、
敵「戦闘機」の攻撃をかいくぐり、
敵艦に魚雷攻撃を行なったのである。
(ちなみに魚雷ではなく爆弾を抱え、
 敵に爆弾を落とす航空機を「爆撃機」と呼ぶ。
 これは敵艦の上部構造を破壊する兵器なので、
 上手く火薬庫などを破壊しない限りは、
 なかなか撃沈までは持って行けなかったようだ。
 しかし、空母などの飛行甲板を破壊して、
 航空機の発着を不可能にしてしまえば、
 事実上、これを完全に無力化できるため、
 やはり艦船のとっては恐ろしい敵であった)

太平洋戦争後、ミサイル技術の発達により、
対艦船攻撃の中心は、魚雷から対艦ミサイルへとシフトしていく。
さすがに水の中を進む魚雷と、空中を進むミサイルとでは
スピードも航続距離も、圧倒的な違いがある。
現在では、コンピュータで制御された高性能な対艦ミサイルが
的確に敵艦を捉えるため、
「船」対「船」の戦いで、
魚雷が使用されることは無くなってしまった。
ただ、魚雷そのものが完全に無くなってしまったわけではない。
水中の敵、つまり潜水艦などを攻撃する際、
空中を飛ぶミサイルでは全く攻撃することが出来ず、
この場合はどうしても魚雷を使わざるを得ない。
もちろん、常時水中を航行している潜水艦の場合、
敵艦を攻撃する際には、魚雷を使用するのは当然である。
魚雷自体も戦後改良が加えられ、
ミサイルのように敵を追尾していくものや、
200ノット(時速370km)ものスピードを誇るものなど、
その性能は格段に上昇している。

かつての魚雷戦、つまり雷撃戦では
魚雷を敵にぶつけるためには、
敵の航行速度の1.5倍以上の速度が必要であるとされていた。
つまり、魚雷をぶつけるためにはスピードが必要であり、
また、魚雷を避けるためにもスピードが必要であった。
戦時中は、それこそ競い合うようにして
スピードアップを図っていたが、
戦後、魚雷が実践的兵器の座を対艦ミサイルに明け渡したことで、
そのスピード競争はなくなってしまった。

戦後70年。
もし現在も魚雷が艦船攻撃の主役であったなら、
それに対抗して、船の高速化も驚異的に進んでいたかも知れない。

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