雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

時事 歴史 雑感、考察

更新日:

By: kibun

夏になると、当然、日差しが強くなってくる。

ギラギラと強い日差しが照りつけ、
地面も家も、空気までもが加熱され、
夏の暑さを思い知らされる。
この強烈な日差しをどうにかする、というのは、
まさに夏の暑さに対する、抜本的な対策であるともいえる。

とはいえ、相手は太陽である。
天頂でギラギラと輝く、灼熱の天体の前では、
人間の力というのは、あまりにも小さい。
この凄まじいまでの熱源を覆い隠してくれるのは、
やはり大自然の力、「雲」である。
空一面を、分厚い「雲」が覆ってしまえば、
陽光はかなりの部分が遮られ、地面まで届かなくなる。
空模様こそ鬱陶しいものの、気温的には
極、過ごしやすいものになる。
しかし夏において、「雲」が空を覆いつくしている日というのは
極めて少ない。
遠方にはモクモクと巨大な入道雲がわき上がっているが、
自分の頭上は抜けるような青空で、
ギラギラと太陽が照りつけている、なんていうのは
誰もが良く経験する、夏の日の一コマだろう。

「雲」は、灼熱の太陽を覆い隠し、
一時の涼を我々に与えてくれる。
しかし、「雲」というのは気まぐれで、
人間の都合の良いようには動いてくれない。
「雲のように自由」なんていう例えがあるように、
「雲」は勝手気ままに空を移動している。
しかし「雲」は、1つのヒントを与えてくれている。
すなわち、
「太陽の光を遮ってしまえば、涼しくなるよ」と。
それが分かってしまえば、後は人間の工夫次第である。
様々な手を使って、陽光を遮ってしまえば良い。
日傘などは、まさにこの発想のもとに生まれた道具であるし、
カーテンやブラインドなどを窓にかけて、
陽光を遮断するのは、ごくごく当たり前のことである。

こういう、太陽光を遮断する道具の1つが、
「簾(すだれ)」である。
これは竹や葦などを並べ、糸を使って編んだもので、
主に日よけや、部屋の間仕切りなどとして使われる。
窓の外や、軒先などにつり下げて使われることが多く、
日よけという目的の他にも、目隠しや虫除けなどの目的で
使用されることもある。
基本的には夏に使用されるものであり、
夏の風物詩の1つとして、捉えられることもある。
ほとんどの簾は、軒先などにつり下げて使われるが、
巨大なものになると、軒先に立てかけて使われることもある。
これを「立て簾(たてす)」といい、
葦を素材として作られたものが多い。
この「葦」であるが、通常これは「あし」と呼び、
「葦簾」と書けば、「あしず」と呼ぶのが普通なのだが、
実際にはこれを「よしず」と呼んでいる。
これは「あしず」が「悪しず」に通じるということで、
「あし」を「よし(良し)」に変えたためである。
いかにも日本らしい、言葉の扱い方である。

日本でいつごろから簾が使われていたか?
ということに関しては、はっきりとしたことが分かっていない。
「万葉集」の中に、簾についての記述があることから、
少なくとも奈良時代には、すでに使われていたらしい。
朝鮮半島の記録には、このはるか以前に
簾を使っていた記録があるので、
渡来人によってもたらされた可能性が高い。
平安時代の記録の中には
「御簾(みす)」という言葉が出てくる。
これは簾の縁に、緑色の布の縁取りをしたもので、
「ぎょれん」と呼ばれることもある。
これは、宮中や貴族の屋敷の中など、
身分の高い者の屋敷内で、
部屋の間仕切りなどに使われたものである。
江戸時代劇などでも、徳川将軍が家臣と対面する際、
将軍の座っている上の間と、家臣の座っている下の間の間に、
御簾がつり下げられている場面がある。
簾、御簾ともに、現在まで使い続けられているが、
簾が我々の生活の中で、ごく日常的に使われているのに対し、
御簾は神社など、ごく一部の場所でしか使われていない。

簾の言葉の由来は「簀(す)」+「垂れ(たれ)」で、
「簾」をただ単に「す」と呼ぶこともある。
(「御簾」を「みす」と呼ぶなどは、その例の1つだ)
「簀」というのは、蒸籠や巻寿司を作るのに使われる
割り竹を並べて編んだもので、
これは「すだれ」とも呼ばれることがある。
ちょっと混乱してしまいそうだが、
「簾」にしても「簀」にしても、
「すだれ」「す」という、2通りの呼び方があると
覚えればいい。
「簀」の語源は、「隙」「透く」など
「隙間あるもの」の多くに使われる「す」で、
これらは全て同源であると考えられる。

簾はカーテンやブラインドと違って、
太陽光を遮りながらも、風(空気)を通すことが出来る。
夏場に涼を取るための条件、
太陽光を遮るのと、風通しを良くするという2つを、
両方ともクリアしている。
現在の家は軒先が短いため、
窓のすぐ外側に簾を垂らしていることが多いが、
日本古来の軒先の長い家屋であれば、
窓と簾の間に空気の層ができ、それが熱を遮る効果を出す。
現在の軒の短い家屋でも、
「立て簾」を立てかければ、
窓と「立て簾」の間に充分な空間を確保することができ、
そこに空気の層ができるため、
熱を遮断する効果を期待することができる。
使い勝手が良く、見た目も良いために、
和風でない近代建築においても、
インテリアとして使われることがある。
1970年代ごろまでは、国産のものが多かったのだが、
護岸工事などの影響により、材料となる葦の育成地が激減、
原料不足に陥ってしまったことから、
中国産の割合が大きくなることになった。

軒先に簾をつり下げ、その内側に風鈴でもつり下げれば、
いやが上にも夏の雰囲気が出来上がる。
簾を通り抜けた風が、風鈴を鳴らし、
涼しげな音色を部屋の中に響かせる。

酷暑を忘れさせてくれる、ひとときである。

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-時事, 歴史, 雑感、考察

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.