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団扇

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梅雨に入ってからしばらく、蒸々と暑い日々が続いている。

冷房などの効いた部屋の中にいればよいのだが、
普通に生活している分には、そういうわけにもいかない。
仕事によっては、仕事場に冷房がないこともあるだろうし、
学生の場合、大方の教室には冷房設備なんて存在しない。
そういう冷房のない環境の中にいると、
ついついこう考えてしまう。
「せめて、風が欲しい」と。

学校などではこの時期、窓を大きく開け放して外気を取り入れ、
教室の中に熱がこもらないようにする。
開け放した窓から、自然の風が入ってくれば、
蒸し暑かった教室の中も、にわかに過ごしやすくなり、
勉強なり、昼寝なりがしやすい環境になる。
しかし、日によっては、
全く風が吹いていない日というのもある。
窓を開け放しても、全く空気が流れず、
飛び込んでくるのは町の騒音と、蝉の鳴き声ばかりなり、
なんてことになると、当然、
勉強にも昼寝にも、重大な支障をきたすようになる。

そういうときにどうするか?
学生たちはこう考える。
「風がないなら、風を起こせば良いじゃない」と。
彼らは手持ちの下敷きをパタパタと動かし、
一時の涼を得ようとする。
かくして風の吹かない初夏の教室では、
生徒たちが皆、下敷きをパタパタと振るっているという、
一見、異様な光景が展開されるのである。
もちろん、教師の中には、これを嫌う者もいて
授業中のパタパタを禁じられることもあった。
しかし、狭い教室の中に、
40人近い人間を押し込め、授業をしているのである。
途端に教室内の不快指数は高まっていく。
そうなれば、頭も満足に働かず、もはや授業どころではない。
「心頭滅却すれば、火もまた涼し」
なんてことをいう教師もいたが、
これをいった快川和尚は、焼け死んでいる。
火を涼しいと思おうが、どうしようが、
実際に身体的に影響が出るという、証明のようなものだ。
身体に影響が出る、ということは、
当然、頭も影響を受けるということだ。
頭が影響を受ければ、精神に影響を受けるのは必然といえる。
当然のように授業の効率はがくりと落ち、
生徒たちの成績にも悪影響を及ぼす、ということになる。

夏の教室、というのは1つの例えだが、
こういう冷房の効いていない場所で涼をとる、
ということになると、
当然、何らかのポータブルな涼具が必要になる。
日本では古来、こういう場合には団扇か扇子が使われる。
どちらも「扇ぐ」ことによって風を起こし、
それによって涼を得る道具であるが、
一般的には「団扇=庶民的」、「扇子=高級」という
イメージがあるのではないだろうか?
今回は、この庶民的な方、「団扇」について書いていく。

団扇の歴史は古い。
少なくとも、紀元前3世紀ごろには
世界各地で使用されていた。
中国では、周の時代ということになるのだが、
この時代で団扇を使っていた有名人がいる。
「三国志演義」で有名な天才軍師・諸葛亮である。
彼が使っていたのが、
白い羽根を束ねて作られた「羽扇」である。
現在でも、映画、マンガ、ゲーム等に登場する諸葛亮は
この「羽扇」を手に持っている。
一種のキーアイテムになっているのだ。
同じころ、古代エジプトのラムセス2世の墓地壁面に、
羽根団扇をもった人物が描かれている。
中国とアフリカという離れた場所において、
ほぼ同じ時期に「羽根」をつかった団扇が
使われていたというのは、面白い事実である。
どこが団扇の発祥の地か?という点については全く不明だが、
ある程度の時差はあっても、
各地で自然発生したというのが、比較的しっくりくるようだ。

日本には2〜3世紀ごろには入ってきていたようで、
高松塚古墳の壁画の中にも、
団扇らしきものを持った人物が描かれている。
この団扇は現在のものとは形が違っていて、
随分と柄の長い団扇である。
恐らくは権力者の周りに仕える人たちが、
その大団扇を持って風を送ったり、
あるいはそれをかざすことによって、
日陰を作ったりしていたのだ。
そういう人間を連れ歩いているということが、
権力を見せつける、一種の威儀行動だったのだろう。
奈良・平安・鎌倉時代においても、
団扇を持っているのは、ある程度の身分のある者のみであった。
室町時代に入り、竹と紙で出来た、
現在のものに近い団扇が作り出された。
しかし、それでもこれを持っているのは
そこそこの身分のある者のみで、
庶民の間に団扇が広がっていくのは、
江戸時代に入ってからである。
庶民の間に広まっていった団扇からは
「威儀」的な要素は無くなり、
全く実用一辺倒の道具へと変化していく。

明治時代以降になると、団扇に広告を印刷して配布し、
宣伝を行なう手法が作り出された。
団扇は大量生産によって安価なものとなり、
企業や商店などが、顧客やお得意様への宣伝を兼ねた
「プレゼント」として配布するようになる。
これは現代まで続いているようで、
我が家にある20枚ほどの団扇のうち、
実に9割ほどの団扇に、なんらかの広告が入っている。
改めてそれらを見てみると、
「農協」「サラ金」「国体」「テレクラ」と
広告主も様々である。
その時代、時代の世相が、
団扇の広告に現れているようで、なかなか興味深い。

現在では、かつてほどに団扇を使っている人は多くはないが、
それでも、初夏〜夏にかけて、
冷房の効かない屋外などで、団扇は広く使用されている。

蒸し暑く、鬱陶しい日本の夏において、
パタパタと扇いで手軽に涼を得ることの出来る団扇は、
やはり便利な道具なのである。

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