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つりしのぶ

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先日、市内のホームセンターを見て回っていると、
観葉植物のコーナーに、なにやら土のかたまりのようなものが
ぶら下げてあった。

値札だけはやたら大きくて、太い字で2980円と書かれている。
たかだか土のかたまり1つがこの値段、と考えると、
とんでもない高値である。
しかし、その土のかたまりからは、何やら何本かの草が生えている。
近くに寄ってよくよく見てみると、その葉の形からしてシダの類の様だ。
そのシダの葉は、7~8本は生えていただろうか?
土のかたまりの下には、小さな風鈴が取り付けられており、
売り場の扇風機の風に揺れて、涼しげな音色を奏でている。
改めて、もう一度大きな値札に目をやると、
そこには値段ほどは大きくない字で「つりしのぶ」と書かれていた。

そういえば以前、ネットのニュースサイトの地方版で、
「つりしのぶ」の出荷が最盛期を迎えた、という記事があった。
記事には「つりしのぶ」を生産している
「つりしのぶ園」の写真も掲載されており、
そこにはハウスの中(?)に無数につり下げられた
「つりしのぶ」が映っており、まるで異世界のような雰囲気である。
つまり、あの写真で無数につり下げられていた「つりしのぶ」が、
5~6個ほど目の前にぶら下がっているわけだ。

正直に言ってしまえば、記事を読んでイメージしていたものと違って、
随分と貧相な印象を受けた。
恐らくは、これからドンドン成長していくということなのだろうが、
現状ではただの土のかたまりから、数本の小さなシダが生えているに過ぎず、
シダの印象よりは、土の印象の方が強い。
これを買って帰って軒先にでも吊るし、毎日水をやっていれば
このシダがじわじわと成長していき、
「つりしのぶ」の姿を楽しむことが出来るようになるのだろう。
確かに、黒い土のかたまりから、鮮やかな緑色のシダが
無数に生えてきている姿は、渓流の植生を思わせて涼しげである。
これに涼しげな音色を奏でる風鈴をつけておけば、
見た目、音、共に涼感を誘って、蒸し暑い夏の癒しになるに違いない。

さて、一般的に「つりしのぶ」として知られている、このミョーな物体。
「つり」というのは「吊り下げる」という意味の「つり」になるのだが、
では、残る「しのぶ」というのは何なのか?
実はこれも単純な話で、この土のかたまりから生えてきているシダ、
このシダの名前が「シノブ」なのである。

「シノブ」は、シノブ科シノブ属に属するシダ植物で、
主に樹木の樹皮状に生育する着生植物である。
「つりしのぶ」というのは、この性質を利用して作られている。
強健で乾燥に強く、水が無くても「耐え忍ぶ」ことから
この名前がついた。
この「シノブ」の根茎を、苔などをまとめたものなどに着生させたのが、
「つりしのぶ」というわけである。
先に「土のかたまり」と自分が書いた部分は、
この苔をまとめたものだったというわけだ。
国内では北海道の一部から沖縄まで、広い範囲に分布しており、
国外では朝鮮半島南部、中国、台湾などに分布している。
葉は、冬に落ちるのが一般的だが、
南西諸島など、年間を通じてある程度の温かさがある地域のものは、
落葉しないようだ。

もともと日本に自生していた「シノブ」は、
古来より和歌などにも詠まれていたことから、
観賞植物として、それなりに歴史が長いことが伺えるのだが、
「つりしのぶ」という形で栽培され始めたのは、
江戸時代中期ごろのことだといわれている。
当時の江戸深川に住んでいた庭師が、
お得意様へのお中元用として作り始めたというから、
もとより暑い季節に鑑賞し、涼を得るものだったらしい。
これが明治時代から昭和初期にかけて、一般にも広まっていき、
家々の軒先を飾るようになった。
苔を球状にまとめたものばかりでなく、
「屋形船」や「灯籠」「亀」「イカダ」など、
様々なものを象った苔に「シノブ」は植え付けられ、
さらに時期に合わせて風鈴なども取り付けられて、
一時の涼を得る夏の風物詩として、用いられるようになった。
現在では、ホームセンターなどでも販売されるようになった
「つりしのぶ」だが、現在でも、これを専業で作っている所は
2カ所しか無い。
その1つは、「つりしのぶ」発祥の地・江戸深川にあり、
もう1つは、兵庫県宝塚にある。
兵庫県は「つりしのぶ」の一大産地(といっても、家内制手工業的な
生産体制のようなので、それほど膨大な数が出荷されているわけではない)
だったわけだ。
ちなみに深川で「つりしのぶ」を生産している「萬園」は、
江戸川区伝統工芸師・無形文化財に指定されている。

こうした事情を一通り知ってしまうと、
「つりしのぶ」が1つ2980円するのも、それなりに納得できてしまう。
かなり希少価値の高い商品なのである。
「つりしのぶ」を作っている「つりしのぶ園」のホームページを見ると、
様々な形に整えられた、多種多様な「つりしのぶ」が紹介されている。
もっとも安価なもので4000円くらいから、
高いものだと16000円以上するものもあるが、
やはりそれだけの値段を取るだけあって、
何ともいえない落ち着いた雰囲気がある。
ホームページの中には、3000円ほどの
「材料セット」も販売されているので、
自分の思い通りのもが欲しいという人はこれを購入して、
「つりしのぶ」作りにチャレンジしてみるのも良いだろう。

ただ、自分で作りたいからといって、
山に自生している「シノブ」を勝手に採って来たり、
苔類を毟ってくるようなマネだけは、厳禁である。

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