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黄金バット

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By: yoppy

前回前々回と、「紙芝居」について書いてきた。

主に昔話や、名作童話などを題材にしている「教育紙芝居」と違い、
駄菓子を売るために子供を集めることを目的とした「街頭紙芝居」は、
あくまでも娯楽ということに重点をおいた作品が提供された。
時代劇や怪奇もの、探偵もの等々……。
当然、その中にはヒーローものも含まれており、
「紙芝居」ならではのヒーローも、色々生み出されることになった。
そして、そういう「紙芝居」から生み出されたヒーローで、
もっともその名を知られているのが、今回のタイトルにもある
「黄金バット」である。

「黄金バット」。
ここでいう「バット」とは、野球用具のそれではなく、
英語でいう所の「コウモリ」のことである。
我々が「黄金バット」と聞いて思い浮かぶのは、
全身が金色で、顔が黄金のどくろになっている、マント姿のヒーローだ。
現代のヒーローを見慣れている我々には、
お世辞にも「正義のヒーロー」とは言い難い姿をしていて、
何の予備知識も無しにその姿を見れば、
きっと悪の組織の怪人と思い込んでしまうだろう。
だが昭和5年、「紙芝居」上において初めて登場した「黄金バット」は、
この姿よりも、もっともっと悪役にしか見えないスタイルであった。
実は、それもある意味では当然の話で、
もともと「黄金バット」のデザインは、
悪役として作られたものだったからである。

「黄金バット」以前、紙芝居の人気タイトルに
「黒バット」というのがあった。
これは白髑髏面に黒マントの怪盗「黒バット」が活躍する
いわばピカレスクヒーローものであった。
彼は怪盗なので、当然、毎回の様に悪事を働くことになるのだが、
ドンドンと主人公を強くしていった結果、
ついにこの悪党を倒せる相手(正義)がいなくなってしまった。
そこで急遽、この「黒バット」を打ち倒す正義のヒーローとして、
「黒バット」最終回に登場してきたのが、
「黒バット」の色を変えただけの正義の味方「黄金バット」であった。
ところが今度はこの「黄金バット」がウケたため、
「黒バット」に代わり「黄金バット」を主人公とした
新シリーズが展開していくことになったのである。
主人公と全く同じ姿で、善悪の逆転した色違いのヒーローというと、
「仮面ライダー」の終盤に登場したショッカーライダーを
思い浮かべる人もいるだろう。
実は、物語終盤に主人公と同じ姿で色違いのライバルが登場する点や、
バッタモチーフの「仮面ライダー」に決定する以前、
髑髏をかぶったヒーロー「スカルマン」が考案されている点など、
「仮面ライダー」には「黄金バット」を意識したと思われる点が多い。
ともあれ、ピカレスクヒーロー「黒バット」の色違いとして考案された
「黄金バット」は、その後、主役の座を勝ち取り、
シリーズものの主人公として活躍していくことになる。
その誕生の経緯から、全くヒーローらしくない姿のまま……。

それでも、この全くヒーローらしくない「黄金バット」を、
少しでもヒーローっぽく見せようとしたのか、
彼は中世ヨーロッパ貴族の様な服を纏い、帽子もかぶり
さらにふさふさとした長い髪の毛も生やされた。
しかし、いかんせん顔は歯抜けの骸骨であり、
黒い眼窩の奥に目尻の下がった目が入っているのでは、
全てがぶち壊しである。
ただ、そんなグロテスクな所が良かったのか、この「黄金バット」は
たちまち大人気シリーズとなり、大量に生産され(といっても
印刷などされたわけではなく、全て手で描き写されていた)、
一気に広まっていくことになった。
当時の紙芝居には、著作権などという概念自体がなかったため、
様々な場所で、様々な「黄金バット」が生み出されることとなった。
そんな中で「黄金バット」のデザインは、現在のものに近くなっていく。

だが戦後、この「黄金バット」にも、進駐軍のチェックが入り、
一時期、「黄金バット」は金色の人の顔をした金髪の姿になった。
骸骨は、悪の象徴だということで、物言いがついたらしい。
しかし、この人面「黄金バット」は不人気で、
すぐに元の金色髑髏面に戻されることになる。
こうしてまた人気を取り戻した「黄金バット」。
昭和25年前後には「紙芝居」自体の人気も絶頂に達するが、
やがて昭和30年代に入ると、「紙芝居」そのものが急速に衰退していく。
これは昭和28年に始まった、テレビ放送の影響もあるのだろう。
こうして昭和30年代中ごろには、「紙芝居」自体がほぼ壊滅し、
そこを舞台に活躍していた「黄金バット」も、消えていくこととなった。
(ちなみに壊滅したのは「街頭紙芝居」であって、
 幼稚園などで演じられる「教育紙芝居」は、現在も命脈を保っている)

だが、「紙芝居」が壊滅してから数年後、
「黄金バット」はスクリーンにて復活する。
昭和41年、実写映画「黄金バット」が上映されたのである。
(「黄金バット」の映画化自体は初めてのことではない。
 人気絶頂だった昭和25年にも、一度映画化されている)
そしてその翌42年、「黄金バット」はついにTVアニメ化される。
このTVアニメ「黄金バット」では、全身金色の「黄金バット」が
やはり金色のパンツとブーツを履いている。
その姿は、どことなくプロレスラーチックですらある。
銀の杖(シルバーバトン)を手に持ち、マントを羽織った姿で、
自由自在に空を飛び、悪党どもをバッタバッタとなぎ倒す。
その強さは圧倒的であり、番組ナレーションでも
「強い!絶対に強い!」と連呼されていた。
番組後半には「暗闇バット」という「黄金バット」の色違いのライバルが
登場してきたりしたが、もともと「黒バット」の色違いとして誕生した
「黄金バット」の、さらに色違いのキャラクターということになるのは、
なんともややこしい話である。
気になるのは、この「黄金バット」の素性や正体だが、
第1話において、古代の遺跡から復活したということ以外、
特に細かいことは分かっていないようだ。
灰にされた状態から復活したり、異次元空間で戦ったりと、
番組内の科学力ですら超越した力を発揮していたので、
やはり謎のスーパーヒーローということらしい。

このTVアニメ「黄金バット」は、かなりの人気を得たようだが、
その後、現在に至るまで続編などは作られていない。

我々の中にはスーパーヒーローといえば、
アメリカの「スーパーマン」を思い浮かべる人もいるだろうが、
「スーパーマン」が登場したのは1938年、
この「黄金バット」が登場したのは1930年である。
見方によれば、世界で最初に生み出されたスーパーヒーローと
いえるのである。

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