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狂犬病

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今ではすっかり見なくなってしまったが、
自分が子供のころは、まだ野良犬を見かけることがあった。

これは、飼い主を持たず、全く自由に生きている犬のことで、
「野犬」などという呼ばれ方をすることもある。
自分が子供のころには、この「野犬」の群れというのも残っていたらしく、
夜遅く、野犬の群れが吼えながら走っていく声を聞いたことがある。
ただ、そういうものも、やがて耳にすることは無くなり、
そのうちには1匹だけで彷徨っている野良犬を
見かけることもなくなってしまった。

当時の大人たちは、この手の野良犬に厳しかった。
子供たちがそんな野良犬を拾ってきても、
すぐに捨ててくるように厳命されたし、
ひどいときにはそのまま保健所に連絡され、
そこに引き取らせることもあった。
保健所に引き取られた野良犬たちは、大体の所、
殺処分されるという話は聞いていたので、
野良犬というものが生きていくには、かなり厳しい環境だった。

そんな当時の大人たちが、クドクドと口にしていたのが
「狂犬病」というものであった。
それがどういうものかは全くわからなかったが、
どうやら野良犬の中には、そういう病気に罹っているものがいて、
その犬に噛まれたりした場合、噛まれた人間もまた
「狂犬病」になるという話であった。
ただ、少なくとも、当時の自分の周りには、
この「狂犬病」に罹った犬というのはいなかったようだし、
同じように「狂犬病」に罹った人間というのも見たことがない。
だから具体的に「狂犬病」という病気が
どういう症状を引き起こすのか?ということに関しては、
全く知らないままであった。

「狂犬病」の症状について、そのいくらかを知ったのが
手塚治虫のマンガ「ブラックジャック」によってである。
「なにかが山を…」というタイトルのストーリーの中に、
「狂犬病」に罹った少年が登場しており、
ブラックジャックも
「水を見るとケイレンを起こす症状といい、
 犬のような動作といい、正真正銘の狂犬病」
と言い切っている。
ブラックジャック曰く、
「とにかく、明朝すぐ病院へ運びなさい。
 このままじゃ、あと2日ももたないぞ」
とのことなので、かなり切羽詰まった状態だったようだ。
狂犬病の少年の弟は「オオカミになる病気」と教えられており、
お金がないことを理由に治療を諦めている状態であった。
このエピソードを読んで、ああ、「狂犬病」とは
そんな感じの病気なのだなと理解したわけである。
なんといっても、「ブラックジャック」の作者である手塚治虫は
医者でもある。
そんな彼の描く「ブラックジャック」だけに、
自分はその情報を全く正しいものと、信じ込んだのである。

さて、それから数十年。
先だって読んだ本の中に「狂犬病」についての記述があり、
それを読んだ自分は仰天した。
そこにはこんな風に書かれていた。

狂犬病は狂犬病ウイルスを病原体とするウイルス性の感染症で、
この病気に罹っている犬などに噛まれた場合、人間もこれに感染する。
基本的には、人から人にうつることはないそうだが
このウイルスは全てのほ乳類に感染し、
人への感染の原因のほとんどは犬である。
発病した場合、ほぼ100%の確率で死に至り、
現在でも治療法は確立していない。
ウイルスに感染してから発病するまでの、いわゆる潜伏期間のうちに
ワクチン接種を受ければ発病を抑えることも出来るが、
ワクチン接種済みでも発病することもあるようだ。
そして一度発病してしまえば、ほぼ確実に死に至るわけだが、
極々低い確率で助かることもある。
記録上では、発病後に死ななかった人間は世界で5〜6人しかおらず、
それ以外の発病者は全員死亡している。
また、それだけ低い確率で生き延びることが出来ても、
その後に麻痺などの後遺症が残るらしい。
世界では毎年5万人が「狂犬病」で死亡しており、
ギネスブックには「もっとも致死率の高い病気」として
エイズと共に記録されている。

……。
マンガの中では、すでに少年が発症していた。
この本の記述が正しいのであれば、あの少年はもうダメだ。
現在でさえ治療法が無い以上、あの当時にそれがあったはずがない。
ストーリーの最後には少年は病院に入院し、
これから治療を受けて回復しそうな空気であったが、
もちろん、そんなことが起こるはずもない。
恐らくはブラックジャックの見立て通り、後2日ほど苦しみ抜いた挙げ句、
少年は亡くなるものと思われる。
まあ、作中には天才医師・ブラックジャックがいるわけだが、
残念なことに彼は外科医であり、手術の技術が突出しているだけだ。
末期の「狂犬病」患者が相手では、手も足も出ないであろう。

作中において、ブラックジャック自身が
「狂犬病」の原因と思われる犬に噛まれる描写があったが、
その犬に噛まれた少年が「狂犬病」を発症しているのであれば、
普通に考えれば、その原因となった犬は、
恐らくその時点で「狂犬病」のために死んでいるはずである。
(人に比べると、犬の方が潜伏期間なども短い)
そう考えてみると、ブラックジャックを噛んだ犬は
実は「狂犬病」にかかっておらず、ただ躾がなってなかっただけ
という可能性が高い。
ブラックジャックはその犬に襲われ、その犬を殺害した後、
犬の飼い主に、自分の傷と犬の歯形が合致することを確かめさせ、
「私が狂犬病にかかったら、それが証拠だ」
と不敵に笑っていたが、恐らく潜伏期間を過ぎても
彼が発症することはないものと思われる。
(というか、発症してしまえばブラックジャックも死ぬのだが……)

このストーリーにおける「狂犬病」の扱いにおいて
感じた違和感をネットで調べてみると、やはり、
この点を指摘している意見が、いくつも見られた。
当時の常識的な「狂犬病」の認識としては
あれであっているというものもあり、
このストーリーが問題なく雑誌に掲載されていたということを考えると、
実際にそうだったのかも知れない。

1950年に「狂犬病予防法」が制定され、
飼い犬の登録とワクチン接種の義務化、野犬駆除の徹底によって
日本では1957年以降、「狂犬病」の発生は確認されていない。
(外国へ出かけ、そこで犬に噛まれるなどして「狂犬病」にかかり、
 日本国内で発症したという例なら3件ある。
 これらでは、患者はもれなく死亡している)
つまり「狂犬病予防法」制定以降、わずか7年ほどにして
国内における「狂犬病」を完全に駆逐してしまったわけだ。
世界中の国を見回してみても、日本のような
「狂犬病」の清浄国というのは非常に数が少ない。
そして日本はこの状態を60年以上、維持し続けているわけである。
(だとすれば、ブラックジャックの中での「狂犬病」の発生は
 これを覆す重大事件であり、全国的にニュースで報道され、
 徹底的な感染経路の調査が行われただろう)

そういう状態であるから、現在の日本人、特に若い世代については
「狂犬病」という病気の存在自体を知らない人もおり、
国内に「狂犬病ウイルス」はもう存在していないという決めつけから
飼い犬の「予防接種」を行なっていない飼い主も増えているらしい。

そんな状態の我が国に、もし「狂犬病ウイルス」が
入ってくるようなことになったら……?
考えるだけでも、恐ろしい事態である。

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