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レンゲソウ

更新日:

先日、市内の農道を自転車で走っていると、
いくつかレンゲソウの植えてある水田があった。

春先のこの時期になると、水田の表面が一面緑で覆われ、
さらにそのあちらこちらに、薄紫色の小さな花が咲き乱れる。
自分が子供のころは、
ほとんどの水田がレンゲソウに覆われていた気がするので、
それから比べると、レンゲソウを植えている水田の数も
随分と減ってしまったようだ。

春先の水田を覆うようにして生えているレンゲソウが、
実は農家が種を蒔いて、
わざわざ生やしていると知ったときは、
どうしてそんなことを?と疑問に思ったものである。
レンゲソウなど、わざわざ食べるようなものでもないし、
(実際には食べられる植物で、食べている人もいる)
菜の花のように「油」がとれるわけでもない。
レンゲソウの花からは、
蜜蜂によってハチミツをとることも出来るが、
それにしたって、利益が上がるのは養蜂業者だけで、
水田の所有者には、何もメリットもない。
そう思っていたのだが、話を聞いてみると
レンゲソウは水田のための肥料になるという。
「緑肥(りょくひ)」といい、
水田一面に広がったレンゲソウを、
そのままトラクターなどを使って土の中に鋤き込むことで、
土が肥えるらしい。

正直な話、この話を最初に聞いたときは、
ワケがわからなかった。
確かにレンゲソウも土の中に鋤き込めば、
そのまま土の中で腐食し、
水田の土の栄養(?)になるだろう。
しかし、そもそもレンゲソウが育つのに、
土の中の栄養を使っているのだから、
それを土の中に戻した所で、
土の栄養量は変わらないのではないか?
だが、実際にレンゲソウを鋤き込んだ土は
何もしなかった土よりも栄養が豊富である。
一体、何故、そんなことが起こるのか?
実はレンゲソウは、自分の想像もしなかった方法を使い、
栄養を増やしていたのである。

レンゲソウはマメ科ゲンゲ属の1年生草本である。
種を秋に蒔き、春に花を咲かせることから、
「越年草」と呼ばれることもある。
こういう風に書くと、2年生草本のような錯覚を覚えるが、
発芽してから枯死するまで、
1年以内のサイクルに収まっているので、
まぎれもない1年生草本である。
我々はごく普通に「レンゲ」とか「レンゲソウ」と呼んでいるが、
正式には「紫雲英(げんげ)」という名前である。
ウィキペディアでは「レンゲ」ではなく
「ゲンゲ」という名前で登録されている。
漢字で書くと「蓮花」「蓮華」となり、
どちらも「蓮の花」を意味している。
これはレンゲソウの花の形が
「蓮の花」に似ているという意味でつけられた。
「ゲンゲ」というのは、「レンゲ」が変じたもの、
「紫雲英」というのは、
一面に花が咲いている様子を遠くから見ると、
低くたれ込めた紫色の雲のように見えた、
ということでつけられたもので、
これを「ゲンゲ」と呼ぶのは、完全な宛て字である。
「ゲンゲ」と呼ばずに、
そのまま「しうんえい」と呼ぶこともある。

レンゲソウは、中国が原産地で、
日本には17世紀に持ち込まれた。
だが、江戸時代には広まらず、明治時代になってから
急速に全国に広がっていった。
先にも書いたとおり、レンゲソウの若芽は
食用にされることもある。
おひたしやみそ汁、炒め物などで食べられることもあるが、
一般的なものではない。
食べた人の感想を聞く限りでは、
小松菜やホウレンソウなどと同じような感じらしい。
また、人間が食べる他にも、
牛などの飼料にしたという話もある。
確かに牛のエサとしても使えそうであるが、
あまりたくさん牛に食べさせると、
肝心の水田への「緑肥」が減ってしまうので、
あくまでもたくさん生えてきていたら、ということだろうか。
いずれにしても、
農家で牛を飼うことの少なくなった現在では、
もう、そのような利用法をしている所もないだろう。

さて、最初に書いた、
レンゲソウの「緑肥」としてのメカニズムだが、
レンゲソウが土の中から栄養を得ているだけでは、
土中の栄養総量には変化がない。
しかし、実際にレンゲソウを鋤き込んだ水田では
栄養価が上がっているのもまた事実である。
この「増えた」栄養は、一体どこからきているのだろうか?

レンゲソウの根には「根粒」という瘤があり、
ここに「根粒菌」という細菌を住まわせている。
この「根粒菌」はレンゲソウから栄養を貰うかわりに、
空気中の窒素分をレンゲソウへと渡す。
「根粒菌」には空気中の窒素を、
植物が栄養として使える形に変える能力があり、
その能力を使い、レンゲソウの中に窒素分を溜め込んでいく。
この窒素分が、植物にとっての重要な肥料となるのである。
窒素を豊富に含んだレンゲソウを、土の中に鋤き込み、
腐敗させることによって、
土に大量の窒素分を含ませるのである。
そして、この窒素分を豊富に含んだ土が、
その後に植える「稲」を、大きく育てるのだ。

だが、最初に書いたとおり、
現在ではレンゲソウを植える水田は少なくなってきている。
これは、直に窒素肥料をまく農家が、多くなってきたためだ。
土の中に鋤き込んだレンゲソウが、
腐敗してしまうには数週間かかる。
しっかりとレンゲソウを腐敗させ終わってからの
田植えになるため、どうしても田植え時期が遅くなってしまう。
最近では、地球温暖化の影響もあり、
田植え時期は早くなる傾向にあるので、
どうしても一定の時間がかかる「緑肥」は、
使い辛い状況なのである。

現在すでに、レンゲソウの生えている水田は
数えるほどしか残っていないが、
これから先、温暖化が進むようなことがあれば、
ますますレンゲソウを使う農家は減っていくだろう。

いずれ、「レンゲの咲く水田のお米」なんていうのが、
凄い価値を持つ時代がやってくるのかもしれない。
(レンゲを使った「緑肥栽培」をウリにしているお米は、
 すでに存在している。
 興味のある人は、「レンゲの咲く水田のお米」で
 検索してみよう)

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