雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

乗り物 雑感、考察

潜水艦〜その1

投稿日:

By: *Yaco*

「潜水艦」というと、我々は即座に
その姿を思い浮かべることが出来る。

黒くて、丸くて、細長い船体の上に、楕円形の円筒がついていて
その円筒には、左右に2枚の羽が生えている。
その上には細長い潜望鏡が伸びていて、
それがクルクルと左右を見回し、海の上の様子をうかがっている。
潜水艦の中では、天井から伸びてきている
潜望鏡の下部のハンドルを握り、
パイプをくわえた艦長が、これを覗き込んでいる。

まあ、少々ステレオタイプではあるものの、
映画などにでてくる潜水艦というのは、概ね、このようなものだ。
だが、実際に本物の潜水艦を、ナマで見たことがあるという人は、
意外と少ないのではないだろうか?
さらに、実際に動いている潜水艦を見たことがある、
ということになると、さらに数は少なくなるだろう。
理由は簡単だ。
潜水艦というのは、通常、水中を航行している。
そのため、航行している潜水艦というものを
水上、もしくは陸上にいる我々は見ることが出来ない。
動いている潜水艦を見たことがある、という人も、
あくまでも港から出て潜航するまでの間、海上を航行している状態か、
あるいは海上自衛隊のセレモニーなどで、
潜水艦のデモンストレーションをしている所くらいしか、
見たことは無いはずである。

「潜水艦」というのは、誰もがみんな知っているが、
どこをどのように航行しているか、その姿はほとんど見えないという、
まるで「月光仮面」のオープニングテーマのような存在である。
今回は、この「潜水艦」について書いていく。

「潜水艦」という言葉を、百科事典で調べてみると、そこには

『水中に全没して、行動しうる軍用艦艇。
 隠密性を武器として、奇襲攻撃を行なうのを特徴とする』

とある。
そう、分類上、「潜水艦」というのは、すべからく軍用のものを指し、
民間で用いられる同様の機能を持つ船は「潜水艇」と呼ばれる。
元々が軍用の乗り物であり、
さらに「隠密性」を武器にしているという所が、
我々が普段、「潜水艦」を目にすることの無い、最大の理由だ。
もちろん、民間で用いられる「潜水艇」であれば、
隠密性を武器にして~などということは、あてはまらないので、
いくらでも自由に目にすることが出来るのだが、
こちらの方についても、我々が目にする機会は少ない。
これは単純に、「潜水艇」そのものの数が、少ないからである。
どうして民間の「潜水艇」は少ないのだろうか?

水面上を航行する船に比べて、
「潜水船」にはいくつかのメリットがある。

1つは燃費の良さである。
実は「潜水船」というのは、存外、燃費が良い。
同じ「潜水船」を、水上と、水中で航行させてみると、
同じ馬力では、水中の方がスピードが出る。
水に触れている部分が多いだけ、スピードは落ちそうに思えるのだが、
実は水上を航行する場合、推進に使われるエネルギーのいくらかが、
「波」を生み出すのに使われてしまうのだ。
当然、この「波」は、船の航行には、全く役に立たないので、
ただエネルギーを無駄にしているだけのことになる。
これを、波を造る抵抗ということで「造波抵抗」という。
水上のみを航行する船の場合、船体の形を工夫して、
この「造波抵抗」を減らすことに力を注ぐのだが、
基本的に水中を航行する「潜水船」の場合、
水中に潜ってしまえば、「造波抵抗」は全く無くなるので、
そういった形状の工夫はなされていない。
(ただ、かつて、今程の長時間潜航が無理だったころは、
 潜水艦も水上航行がメインだったため、
 「造波抵抗」を意識した形状をしていた)

もう1つは、悪天候の際の航行性だ。
例え、水上にどんな大嵐がやってきて、暴風雨が荒れ狂い、
大波が起こっていたとしても、ひとたび水中に潜ってしまえば、
(もちろん、一定以上の深さに潜ったらだが……)
それらに翻弄されることは無い。

こういう風に書くと、「潜水船」は素晴らしいもののように
思えてしまうのだが、これが民間で大々的に用いられないのは、
このメリット以上に、デメリットが多いからである。

数多いデメリットの中で、一番大きいものは
やはり空気に関することだろう。
水中に没してしまうため、船内で使う空気は
酸素ボンベと空気循環システムを用いて、
常に管理しておかなければならない。
正直、これには大変なコストがかかる。
なんといっても、水上を航行する通常船の場合、
空気に関しては全くの無料で、使いたい放題なのである。
それにカネがかかるということは、
経済的な利益を追求することを求められる民間の場合、
非常に大きな足かせとなってしまう。
さらに空気が使えないということは、同時に
軽油や重油などを用いた従来の内燃機関(エンジン)が
使えないことを意味している。
原子力潜水艦など、内燃機関を必要としない一部の潜水艦以外の
通常型の潜水艦は、ディーゼルエンジンなどの内燃機関を持っているが、
これを使えるのは水上航行しているときか、
水面下ギリギリに潜航し、吸気筒を伸ばして
スノーケル航走をしているときだけである。
その場合にしても、エンジンを使って推進器(プロペラ)を
直接動かすのではなく、発電機を動かし、
それによって生み出される電力で電動モーターを動かし、
これでプロペラを動かしている。
(それと同時に、蓄電池に電力を充電し、
 水面直下以外を潜航する場合は、
 この溜めた電力のみでプロペラを動かしている)

もう1つのデメリットは、電波に関するものだ。
水は電磁波を吸収する性質を持っているために、
電波、可視光線、などを利用することが、全く出来なくなってしまう。
早い話、水中にいる限りレーダーも使えないし、通信も出来ない。
さらにライトを照らしても遠くまで光は届かないため、
水上航行の様に目視による航行は全く出来ず、
すべてをソナー(音波)に頼って、航行しているのである。
全くの盲目状態なので、その運航にはソナーを用いる機器と、
それを使いこなす技術者の存在が、必須ということになってしまう。

さらにいえば、もし何か事故などが起こってしまった場合、
その救助には時間と、大掛かりな設備を持つ
救助船が必要になってしまうため、
先の電波が使えないという条件も重なって、
乗員の生還率は、極めて低いものになってしまう。
これでは、民間の輸送船などに「潜水船」を使うのは、
コストとリスクが高すぎるということになり、
これを使えるのは、コストのことを考えなくても良い
軍事用のみということになってしまうのである。

水上を航行する「船」は、「造波抵抗」や天候などによって、
エネルギーロスや、航行に大きな影響が出てしまうが、
その扱いやすさや、事故が起こったときの安全性(生還率)など、
総合的な経済性で、圧倒的に「潜水船」を上回っている。
ここの所に、「潜水船」が一般的なものにならない、
大きな理由がある。

今回は「潜水艦(船)」のメリットと、デメリットについて書いた。
次回は「潜水艦」が水の中に潜る、そのメカニズムについて書いていく。

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-乗り物, 雑感、考察

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.