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にらみ鯛

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昨年末のことだ。

クリスマスも終わり、いよいよ年の瀬が押し迫ってきたころ、
スーパーの鮮魚コーナーに、年取り魚であるブリが並びはじめた。
そして、それに並行するようにして、鯛も並びはじめた。
ブリに関しては生のものが多かったのだが、
鯛はその多くが丸1匹のまま、塩焼きにされたものである。
丸1匹、全く欠かす所なく、そのままの姿で姿焼きにされており、
そのまま透明なプラスチックカバーのついたケースに入れられている。
ケースには、「新春」だの「寿」だのという文字が印刷されていて、
それがお正月用に用意された商品であることは、明らかである。

もちろん、これまでのお正月前にも、そういった鯛の姿焼きが
店頭に並べられることはあった。
ただ、今年感じた実感としては、どうも今年並んでいる鯛の姿焼きは、
昨年並べられていたそれと比べてみても、量が増えているような気がする。
まあ、ここら辺はあくまでも自分の感覚のみで言っているので、
実際に鯛の姿焼きの数が増えているかどうかというのは
全くの未知数なのだが、今年(正確には去年)の鯛の姿焼きが
やたら目についたというのは、事実である。

この、やたら目についた鯛の姿焼きは「にらみ鯛」と呼ばれるものだ。
京都のお正月の風習で、丸のまま塩焼きにした鯛である。
鯛は「めで鯛」に通じるということで、
特に日本人には縁起の良い魚ということになっており、
これをお正月に持ち出してくるというのは、それほどおかしなことではない。
ただ、鯛の調理法という点で考えれば、
どうして塩焼きなのか?という疑問符もつく。
普段、我々が鯛を調理するということになれば、
まず、何を置いても最初に思い浮かべるのは刺身であろう。
それでなくても鯛飯や鯛そうめん、兜煮などの調理法は浮かぶが、
そこに姿焼きというのはなかなか出てこない。
さらにいえばこの「にらみ鯛」、お正月の三ヶ日におせち料理と一緒に
食卓に並べられるものの、誰も箸を付けない。
誰も箸を付けないまま、これを睨んでいるから「にらみ鯛」というのだそうだ。
鯛の塩焼きなど、焼きたての熱々のうちに食べた方が美味しいはずなのだが、
これに全く手を付けないまま、三ヶ日を過ごす。
そうしておいて、正月の明けた1月4日に、この鯛を食べるのである。
何故、三ヶ日の間に手を付けないのか?

三ヶ日の間、「にらみ鯛」に手をつけない理由というのは諸説あるのだが、
その中でも有力なものが、
「神様や仏様にお供えしている」
というものだ。
三ヶ日の間、食卓に上げて、これを神様に食べていただくため、
人間はこれに手を付けない。
四日目には、神様のお下がりを頂くという形で、これを食べるわけである。

先に、この「にらみ鯛」は京都の風習であるという風に書いたが、
実はこの風習はもともと日本全国で行なわれていたらしい。
それが時代と共に廃れていって、やがて京都の一部に
わずかに残るようになったというのが、本当の所のようだ。
その「にらみ鯛」が、京都から離れたこの西播地方のスーパーで
販売され始めているということは、一度無くなった「にらみ鯛」の風習が
再び蘇りつつあるということだろうか?
ただ、昔から「にらみ鯛」の風習を受け継いできた京都でも
「2日にらんで、3日目に食べる」
「1日にらんで、翌日食べる」
「焼き鯛ではなく、生の鯛をにらむ」
等々、様々なバリエーションが存在しているようである。

この「にらみ鯛」、一体、いつごろから行なわれているのかを
調べてみたのだが、これについては
全くといっていいほど情報が得られなかった。
ただ、もともとは全国的に行なわれていたということなのだが、
海の魚である鯛を、内陸部の地方にまで運ぶにはそれなりに
輸送手段が確立されて以降のことではないだろうか?
ひょっとすると、水揚げと同時に塩焼きにして、
その状態のものを内陸部へ運んだということも考えられる。
ただ、この「にらみ鯛」がおせち料理と一緒に並べられているという点を
考えてみると、おせち料理が現在のような重箱詰めの形態を
とるようになったのは明治時代以降で、そのもととなったものも
江戸時代の中期以降のことであるらしい。
「にらみ鯛」の歴史が「おせち料理」に先んじていたかどうかは
定かではないが、個人的にはほぼ同時期か、
「おせち料理」以降に始まったのではないかと考える。
だとすれば、これが始まったのは江戸時代後期ごろから
明治時代にかけてということになり、
全国的に広まった後、京都の一部を除いて廃れてしまった。
どうして京都で「にらみ鯛」が廃れなかったのかは謎だが、
ひょっとすれば鯛の姿焼きの美しさが、
京都人の美意識に合致したのかも知れない。
そしてさらに時代が進み、京都の一部での風習であった「にらみ鯛」が
再び全国で復活しようとしているということらしい。

さて、そういうようなわけで、ここら辺りのスーパーにも並びはじめた
「にらみ鯛」であるが、並んでいる鯛のサイズを見てみると、
存外、大きいサイズのものは少なく、可愛らしいサイズのものがメインだ。
もちろん、インパクトやアピール度という点では、
サイズが大きいにこしたことはないのだが、
核家族化が進み、ひと家族当たりの人数も減ってきている現在、
少人数でも無理無く食べ切ることの出来る
小型サイズが人気ということだろうか。
三ヶ日を終えた「にらみ鯛」についても、そのまま食べるということは少なく、
身をほぐしてお茶漬けにしたり、ご飯と一緒に炊き込んだりと、
再調理を行なうことが多いようである。
この「にらみ鯛」の場合、塩焼きという調理方法には
鯛を美味しく調理するという意味合いよりも、
鯛を日持ちするように加工するという意味合いの方が強いらしい。

ここ何年かは、お正月に拙いながらも「おせち」を作ってきた自分だが、
それらの出来映えからしてみると、まだまだ横に「にらみ鯛」を置けるほどの
レベルには至っていない。
いずれ、鯛と釣り合いが取れるほどの「おせち」を作るようになれれば
「にらみ鯛」を購入してきて、その横に飾るのもやぶさかではないが、
それはまだまだ先の話の様である。

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