前回、前々回と、モグラの生態を中心として書いてきた。
今回はそんなモグラの被害と、対策について書いていく。
ホームセンターの園芸コーナーに行くと、
モグラ対策グッズのコーナーがある。
風車のような形をした、振動によって、モグラを遠ざける器具。
モグラのいやがる臭いを発する、忌避剤。
各種用意されている捕獲器。
電子音を発するもの。
機械仕掛けでハンマーを振るい、地面に埋め込んだパイプを叩くもの。
爆風を地中に送り込むもの。
ありとあらゆる手段を講じて、畑からモグラを追っ払おうとする。
前回、モグラが肉食であることを書いて、
根菜類が地中で齧られるのは、モグラの仕業ではないとした。
これはモグラのトンネルを使った、ネズミの仕業なのだ。
しかし、そもそもモグラがトンネルを掘らなければ、
ネズミが地中の根菜を齧るようなこともできないはずだ。
直接の原因であるネズミを封じるよりも、
まず、間接的な原因であるモグラにトンネルを掘らせないことで、
ネズミの被害を防ぐ。
これは理屈にあった考え方である。
さらに前回、モグラがトンネルを掘ることによって、
作物の根が空気に触れて乾き、
結果として枯死させてしまうこともある、とも書いた。
これは、モグラの直接的な被害である。
ただ、根菜が齧られるのとは違い、
こちらはモグラの被害だと、気づきにくい。
ともすれば、作物が病気にかかったと思い込み、
全く見当違いな対策をして、みすみす枯らしてしまうこともある。
モグラのいる畑で、突然作物が弱り始めた場合、
モグラによる被害の可能性についても、考えてみる必要がある。
畑で、モグラの痕跡を見つけることは簡単だ。
よーく見てみれば、モグラが浅い所にトンネルを掘り、
移動した跡が残っていることがある。
それでなくとも、場所によっては、
しっかりとモグラの穴があいていることもある。
大きな畑を、機械で耕起するような場合はともかく、
小さい畑を、鍬で耕起する場合、土の断面にモグラの穴があいているので、
すぐにモグラの存在を確認できる。
モグラの穴は簡単に見つかるが、これを追跡していくのは難しい。
昔、婆さんの畑でモグラの穴を追跡して、掘ってみたことがあるのだが、
縦横無尽に掘ってあるので、とても追い切れなかった。
うちの婆さんはモグラに対しては甘く、対策が何も無かったが、
不思議に根菜類が齧られるという被害は起きなかった。
恐らくは、モグラのトンネルを利用するネズミなどが、
近くにいなかったためと思われる。
根の乾燥による枯死については、起こっていたのかもしれないが、
残念ながら婆さんは、それがモグラの仕業だと気づかなかったのだろう。
そういうわけで、婆さんの畑にはモグラ対策グッズはなかったのだが、
近所の畑には、風車型のモグラ撃退器が設置されていた。
プロペラに、弓矢の羽根を組み合わせたような器具で、
この羽根の部分で風を掴み、プロペラの方向を変える。
自分が子供のころは、このモグラ撃退器が
あちこちの畑に立てられていた。
しかし昨今、このタイプのモグラ撃退器は見かけなくなった。
理由は簡単で、使用済みのペットボトルを使えば、
簡単にモグラ撃退器を作れるからだ。
現在、あちこちの畑でペットボトル風車が、からからと音をたてて回っている。
あれは全てモグラ撃退用の、簡易風車だ。
逆に言えば、あれが立ててある畑には、
多かれ少なかれモグラがいるということになる。
果たしてこれらは、有効に働いているのだろうか?
実はペットボトルの風車を含め、これらのグッズはほとんど効き目がない。
え、まさか?と思われるだろうが、
市販のグッズをよく見てみれば、大概「本道に設置してください」と書いてある。
モグラの掘るトンネルには、いくつか種類がある。
まず、モグラが普段の生活でよく通る、いわば「生活道」だ。
この他にモグラのトンネルには、巣に通じる「幹道」と、
餌を探して掘り進んだ「探餌道」というのがある。
このうち「幹道」はもっとも深い位置(といっても地下30~50cm)にあり、
いわばモグラの生命線ともいえるトンネルだ。
「生活道」と「探餌道」は、共にかなり浅い所にある。
「生活道」は普通の生活用のトンネルで、一日に何度も通る。
それにくらべて「探餌道」は餌を掘り探した跡なので、
一度使った後は、二度と使われることはない。
この中で「本道」と言えそうなのは、「生活道」と「幹道」だが、
「幹道」は深い位置にあるので、探し当てるのはまず不可能だ。
となると、グッズを仕掛けるべきは「生活道」ということになる。
ただ、現実的にはこの「生活道」を見極めるのが、困難なのだ。
つまり目の前のトンネルが、「生活道」なのか「探餌道」なのか、
見ただけではわからないのである。
結局、説明書には「本道に設置してください」と書いてあっても、
目の前にあるモグラの穴に、グッズを仕掛けることになってしまう。
これでは、効果も運任せで、全く効果がないことも多い。
では、うまく「生活道」にグッズを設置できたとして、
どれほどの効果があるのだろうか?
捕獲器のように、モグラを捕まえてしまうものはともかく、
音や振動でモグラを脅かすグッズの場合、
すぐにこれらを迂回するトンネルを掘られてしまう。
そうなると、グッズの効果もほとんど上がらない、ということになる。
実際に学者たちの実験では、すぐに迂回路を作られ、
モグラがいなくなることはなかった、という話もある。
モグラは人間が考えているより、ずっと図太い生き物なのだ。
そこの所は、前回の生態の所で書いたとおりだ。
ではせめて、どのようにすれば「生活道」と「探餌道」を見分けられるのか?
これが見分けられれば、少なくとも捕獲器などの効果は上がるはずだ。
次回は、この「生活道」と「探餌道」の見分け方について、書いていく。