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雑感、考察

焼き板

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お盆に帰省してきた妹が、こんなことを言っていた。

「焼き板を使った家って、この辺にしかないな」

「焼き板」と聞いても、
何のことかよく分からない人もいるだろう。
逆に「ああ、あれか」とすぐに思い浮かぶ人もいるはずだ。
杉板の表面を焼いて、黒く焦がしたものを
家屋の外壁に用いるのが、いわゆる「焼き板」である。
杉の板を焼いているため、「焼き杉」と呼ばれることもある。
主に西日本で使われ、東日本ではほとんど目にすることがない。
妹が住んでいるのが、神奈川県の川崎市なので、
目にする機会は、まず無いだろう。
西日本で使われているわけだから、
妹の言う「この辺」というのは
えらく広い範囲ということになるが、
どうして東日本で使われないのかは、わからない。
それこそ、「文化の違い」なのかも知れない。
現在では「焼き板」を使っている家というのは、
西日本でもそう多くはない。
「焼き板」の代わりに、木目の印刷されたトタン板を
外壁に使っている家もある。
これなどは、「焼き板」の代替え品と考えていいかも知れない。
でもここで、1つの疑問が浮かんでくる。
どうして、板を焼くのだろうか?
それに一体、どんな意味があるのだろう?

実は木材を何の加工もしないまま、家の外壁に使用した場合、
風雨にさらされて、すぐに劣化してしまう。
もし、何の加工も施されていない杉板を外壁に使用した場合、
わずか数年後には、これを張り替えなければならない。
ところが、これに焼き板加工を施した場合、
表面の炭化した部分が木材を劣化から守り、
その耐用年数は60年にもなるという。
さらに表面が炭化しているために、
火にさらされても燃え移りにくくなる。
もちろんこれは、全く何の加工も施していない
杉板と比べての話であり、
防火加工を施されている化学建材などに比べれば、
燃えやすいということになる。
つまり、杉板の表面を焼くことによって、

・板の耐久性を高める
・初期着火性を下げて、耐火性能を上げる

という、2つの効果を得ることが出来るのである。
もちろん、いいことばかりではない。
表面が炭化しているわけだから、触れば当然、炭がつく。
ペンキなどを塗布しているのとは違い、
表面に炭がついている限りは、時間がたっても
これがなくなることはない。
また、焼きたての板の場合、風が吹くことによって
炭の粉が飛ぶということもあるらしい。
これらの弱点を補うために、
焼いた板の表面から炭を落とすこともある。
え?そんなことをしたら、
普通の板に戻っちゃうんじゃないの?
と、思う人もいるかも知れないが、もちろん炭を落とすのは
表面的な部分だけで、鉋などで削り落とすわけではない。
こうすることによって、炭の粉が飛ぶようなこともなくなり、
触っても炭がつかないようになる。
さらに炭の下に隠されていた木目が
表面に出てくることにより、趣のある仕上げとなる。
ただ、どうしても板を守る炭の層が薄くなってしまった分だけ、
耐用年数は下がってしまう。

この「焼き板」、西日本で使用されている、と書いたが、
特に瀬戸内海沿岸地域では、これを使っている家が多い。
そういう意味では、妹の言っていた「この辺」というのも、
それなりに的を射た言葉だったわけだが、
どうしてこの「焼き板」が
瀬戸内海沿岸地方で使われるようになったのか?
実はこの「板の表面を焼いて、腐敗を防ぐ」という技術、
もともとは「船」に使われていた技術だったのだ。
「船」に使われる木材は、
日々、潮風や海水にさらされることになる。
当然、木材の傷み方は恐ろしいほどに早く進んでしまう。
これを少しでも遅らせるため、
江戸時代などには船体に
ベンガラが塗布されることもあったらしい。
しかし、船体にベンガラを塗れば、結構な費用がかかる。
千石船などを出して、大きく商売をしている商人たちは
このベンガラを船に塗布することも出来ただろうが、
もっと小規模な船主、たとえば漁師などの場合は、
船にベンガラを塗布する費用を捻出するのも
キツかったのではないか?
恐らくはこれに変わる技術として、
船材の表面を焼くという方法が考え出されたのだろう。
こちらは板の表面を焼くだけだから、
費用などは全くかからないし、時間のかかる作業でもない。
たちまち、漁師たちの間に
この「焼き板」の技術は広まっていったに違いない。
やがて、船に用いられていた「焼き板」の技術が
家屋に転用されるようになったのだろう。
海辺にたっている家は、絶えず潮風にさらされているため、
どうしても内陸部の家に比べて傷むのが早い。
これを少しでも遅らせるために、
船に使われていた「焼き板」技術が用いられ、
瀬戸内海沿岸地方を中心として、
「焼き板」を外壁に使った家屋が、建てられることになった。
これが時代を超えて、
現代にまで残っているのだと考えられる。

杉板の表面を、ただ焼くだけの「焼き板」加工だが、
この単純な加工にも、いくつかの方法がある。
本来的には、板を何枚か組み合わせて筒状にし、
中で紙や鉋屑などを燃やす方法が使われていたようだ。
ちょうど板が煙突の役目を果たし、一気に燃え上がる。
適度に焼ければ、筒状にまとめあげているヒモを切り、
板をばらす。
そうすると火の勢いが落ちるので、
すぐさま水をかけて火を消してしまう。
この間、わずか5分ほどである。
これで3~4枚ほどの「焼き板」が出来上がる。
実に簡単である。
昔は大工自身が自らの手で、
この「焼き板」を作っていたという。
現在では、これらの作業は木材店などの手によって行なわれる。
この昔からの方法で「焼き板」を作っている所は少なく、
大方の木材店では、バーナーを使って表面を焼いたり、
さらに表面を薬剤で処理したものも作られている。
表面さえ焼いてあれば、
昔からの方法でもバーナーでもいいんじゃないの?
と思われるかも知れないが、
バーナーで焼くと、どうしても炭化する部分が
薄くなってしまうため、
板の持ちが悪くなるという。
ただ、バーナーで焼いたものの方が、
炭が他の場所に着くことも少なくなるので、
施行がやりやすくなる。
どちらにも一長一短がある、ということだろうか。

杉板を焼くことによって、その耐久性を上げる「焼き板」。
板を焼くという、たったそれだけの行程によって、
建材の耐久性は驚くほど長くなる。
全く、古人の知恵の偉大さを思い知らされる。
一時は、新建材などに押されて減ってきていた
「焼き板」の需要だが、
最近はその美しさや、機能性を
見直す動きも出てきているという。
しっかりと焼き込まれた「焼き板」外壁は
日本古来の和風住宅のみならず、
近代住宅にも用いることが出来る。

輸入木材に押されて、杉が山の中に大量に放置されている現況、
「焼き板」は、その活用法の1つとして
大いに期待出来るのかも知れない。

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