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井戸~その2

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前回、井戸について、かなり現実的な面から触れてみた。

今回は説話、伝説という、いわば非現実的な面から触れてみたい。

一昔前のドラマでは、夜の海のシーンが出てくると、

たいていヒロイン、というか女優が

「夜の海って、吸い込まれそうで怖いわ」

という台詞をいった。

これはもう定番というか、お約束みたいなものだった。

そういうものかと思い、夜の海に行った際、

吸い込まれそうな感じがするかどうか考えてみたが、

全くそういうことはなかった。

恐らく夜の海に行ったのが、夜釣りのためだったからだろう。

釣り餌や、磯の臭いのプンプンする中で、

吸い込まれるもへったくれもない。

そういう意味では、井戸の方が、よほど吸い込まれそうな感じがする。

掘り抜き井戸の中をのぞいてみると、暗い底の方に、小さく水面が見える。

かなり不気味だ。

そういう不気味さを、昔の人々も感じたのだろう。

そういう不気味な感情の中から、数々の伝説や説話が生まれた。

その不気味な感情が生み出した伝説の最たるものが、

「井戸は、死後の世界に繋がっている」というものだろう。

平安時代、小野篁が井戸を通って地獄に通った、という伝説もある。

何をしに通っていたのかというと、閻魔大王の補佐をしていたらしい。

小野篁はせっせと井戸の中を通って、アルバイトに精を出していたわけだ。

紫式部が、愛欲の物語を書いた罪で地獄に堕ちそうになっていたのを、

とりなしたのが小野篁だという話がある。

ただこの2人は、100年以上、生きた時代の違うので、

知り合いであったはずがない。

京都市北区に、小野篁の墓と紫式部の墓といわれる墓が、

並んでいるので、そこから連想された話ではないだろうか?

幽霊が出てくる、という話もよく聞く。

「播州皿屋敷」も、斬り殺されたお菊が、井戸の中に捨てられ、

恨めしそうに皿を数える声が聞こえてくる。

ちょっと気になるのは、町坪弾四郎はお菊の遺体を井戸の中に放り込み、

その後も、その井戸を使い続けるつもりだったのだろうか?

怪談話に衛生観念を求める方が間違っているが、あまりにも不衛生な話だ。

ちなみにこのお菊が放り込まれたという井戸は、

姫路城内に「お菊井戸」として実在している。

この死後の世界に繋がっている、という話のためか、

井戸を埋めてしまうような場合、完全には埋めたりはせず、
節を抜いた竹を、1本埋めておく風習があった。

あの世とのつながりを、切らさないようにしたものだろう。

井戸については、こういう辛気くさい話ばかりではない。

井戸は当時の人たちにとって、水源として、重要な場所だったのだ。

そこに神様を祀ろうとするのも、当然だろう。

井戸を不気味なものとして恐れる反面、

神聖なものとして、敬う気持ちもあったのだ。

井戸には、ミズハメノカミが祀られた。

日本神話における、代表的な水神である。

いかに当時の人々が、井戸を重要視していたかがわかる。

また、井戸の中には、鯉などの魚が放された。

井戸の水に魚が棲めるということは、

水のきれいな証しだ、ということだろう。

水質検査のための、実験動物の役目を果たしていたのではないか。

昔、坑道を掘る際に、危険察知のためのカナリアを、

持って入ったことに似ている。

しかし、鯉は汚染に強いので、あまり水質の保証にはならない。

ひょっとすると色鯉を入れることにより、視認性を高めていたのかもしれない。

そういう神聖な場所でもあったためか、中に刃物や金物を投げ込むこと、

中に向かって大声を上げることは、戒められていた。

これも、中で金属が錆びて水質が変化したり、

つばなどが入って、雑菌が増殖することを、

防ぐ目的があったのではないだろうか?

井戸を掘ったり、埋めたりする場合は、

神職を招き、しっかりとお祓いをしなければ祟られる、という。

龍神の祟りがあるというのだ。

地下水脈を、「龍神」と捉えることもあるので、

まさに井戸は、「龍神」と繋がっている場所と、考えることもできる。

もっとも最近では、こういうことを全く気にしない人も多い。

意外に知らない人も多いが、井戸というのは、

掘ればそれでおしまい、というものではない。

きちんと定期的に、整備する必要がある。

一体何をするんだ?と思われるかもしれない。

実は使っているうちに、底に塵や泥がたまってくる。

これを放っておくと、水の湧出量が減ってしまうし、水質も悪化する。

そのため、毎年夏には井戸の底を浚う行事が行われた。

これは7月7日の七夕か、土用の日に行なわれることが多かった。

ちょうどお盆前の時期である。

これは、死者があの世から帰ってくるという説に、関係があるのかもしれない。

……ただ、この季節は水質が悪化しやすいので、

井戸の大掃除をする、というだけかもしれないが。

前回、書いたように、現在では井戸はほとんど使われていない。

しかし今回書いたように、井戸には数々の伝説が残っている。

弘法伝説、名水、幽霊話など井戸にまつわる話は多い。

いつもの散歩コースの中に、井戸を見つけたら、

ひょっとしたら、そこには何か面白い謂れがあるかもしれない。

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