
By: Steven Depolo
先日、郵便受けを見てみると、
ガス会社からの広告が入っていた。
DMではなく、お手製感溢れるチラシだった。
うちのキッチンコンロはガスコンロだし、
キッチンの蛇口からは、ガスで沸かしたお湯が出る。
風呂場のお湯もガスで沸かす。
うちでガスを使う器具はこれだけだが、
毎日のようにこれらを使って生活している。
我が家にとってガスは、電気とともに欠かせない、
基本エネルギーのひとつである。
広告を見てみると、
最新ガス器具の展示販売を行なうという。
しかし、うちで使っているガス器具は、どれも現役だ。
長らく使用しているが、
その間、故障など一度もなく、元気に働き続けている。
だからこのチラシを見ても、特に食指は動かなかったが、
チラシをよく見ると、こんな一文があった。
『ご来場されたお客様に、食パン一斤プレゼント!』
印刷されている写真で見てみる限り、
パン屋などで売られている、横に長い、
スライスされていない食パンだ。
スーパーなどで売っている食パンの、
3倍ほどの大きさがある。
ひょっとしたら、このパンもガス釜で焼いているのだろうか?
普段、米ばかり食べている自分にも、
そのパンの写真は、かなりウマそうに映った。
かくして、ふらふらと食パンにつられるようにして、
このガス器具展示会に出かけていった。
我ながら、笑ってしまうようなチョロさだ。
食パンプレゼントの企画を立てた人間の、思うつぼである。
ガス器具展示会場である、たつの市青少年会館につくと、
すでにかなりの人数が集まってきていた。
こう断じてしまうのはアレだが、
食パンにつられたチョロ仲間同士ともいえる。
だが会場に着くと、すでに用意されていた食パンは、
すでに全部出払ってしまったらしい。
がっかりしていると、パンは後日、届けてくれるという。
冷やかしで来ている身としては、やや心苦しい所だが、
せっかくなので、会場の中に入ってみることにした。
会場では、様々な器具が並べられ、
メーカーの営業マンたちが、懸命に商品をアピールしている。
「ガス器具展示会」と銘打っているだけあって、
やはりガスコンロの展示数が圧倒的に多く、
それに押されるようにして、ガス給湯器が並んでいる。
ガスコンロの前では、実際に調理をしてみせながら、
営業マンが熱弁を振るっている。
最近は、オール電化の電磁調理器や、
電気給湯器が幅を利かせていて、ガスの立場が危うい。
これらに対抗するべく、
コンピュータやセンサーで制御される、
最新のガスコンロたちが並んでいる。
地震や吹きこぼれなどに反応し、ガスを止めてくれる、
なんとも心強いコンロたちだ。
しかしそれらの最新式のコンロには、
ガス栓の他に、電源が必要となる。
コンピュータやセンサーなどは、電気制御だ。
オール電化や、電磁調理器に対抗するために、
電気の力を借りるというのは、なんとも皮肉なことだ。
会場にはガスコンロと、ガス給湯器の他にも、
様々なアイテムが展示してあった。
ちょっとそれらを挙げてみよう。
米。
太陽光発電システム。
ウォーターサーバー。
トイレ。
掃除機。
大型TV。
思わず、ガス器具の展示場にどうしてこんなものが?と、
首を傾げてしまうようなものばかりだ。
米とウォーターサーバーについては、
ガスを扱っている会社が、
これらの商品も扱っている、というだけの話だ。
だが、太陽光発電システムについては、
ガス会社にとっての怨敵、電気調理器の片割れのようなものだ。
どうしてこの会場に、これがあるのだろうか?
トイレと掃除機、大型TVについては、全くわからない。
最初は、
「ひょっとしてガス式トイレ?」
などという勘違いをしてしまった。
(ちゃんと見てみれば、電気式のトイレだった)
まさか、ガスのエネルギーで便座を温めるわけでもないだろう。
会場を見回してみると、一番多いのが60歳以上の老人たちだ。
安全に配慮したガスコンロの説明に、
目を輝かせるようにして聞き入っている。
若い世代は少なかったように思う。
若い世代にとっては、ガスコンロよりも電磁調理器なのだろうか。
もしそうならば、ガス会社が必死になって、
ガス器具の普及に力を入れるのがわかる。
このまま、世間の流れに任せていては、時代とともに、
どんどんとシェアが少なくなっていくだけだろう。
そうなってしまうと、ガスの未来はなくなってしまう。
会場で見ている限りでは、展示しているガス器具は、
どれも高い安全性を誇っており、
それを説明する営業マンたちも、
安全性について、その性能を力説していた。
やはり「火」を使うということは、
相当に危険な行為だと見られているらしい。
しかし逆にいえば、「火」を使っている点こそが、
電磁調理器がどんなに逆立ちしても及ばない、
ガスの大きな利点であるはずだ。
例えば、「トロロ」の回で書いたように、
食品のヒゲなどを直火で焼いて処理するような真似は、
電磁調理器では、絶対に出来ない。
いわば「火」こそが、ガス最大の弱点であり、
ガス最大の利点でもあるのだ。
今、「火」は世間から追い払われつつある。
家庭で使う様々な器具から、「火」が取り除かれている。
蚊取り線香は、電気式の蚊取りマットへと姿を変え、
仏壇で使うロウソクも、ロウソク型のライトへと姿を変えている。
全ては、「火」が危険である、という思想からきている。
しかし「火」は、太古より人間の側にあり、
その生活を支え続けてきた。
特に「食」と「火」は、切っても切れない関係だった。
今は、その関係すら、切れてしまいそうになっている。
うちのガスコンロはまだまだ現役で、
買い替えを必要とするような状態ではない。
だがいつか、これを買い替えることになっても、
自分はやはり、「火」を使う器具を選ぶだろう。
自分にとって、「火」は調理のベストパートナーだ。