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パスパ文字

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先日、市内の図書館に行くと、
「謎のパスパ文字と光明山」
と印刷されたポスターが貼られていた。

光明山というのは、たつの市の西、
自分の住んでいる揖西町の、西にそびえる山だ。
一度、相生市の矢野町から登ったことがあるが、
その登山道のほとんどが、
林道と重複しているので、
(現在、道が荒れているので
 車で走るのは困難、オフロードバイクなら可)
登山としての面白さは、あまり無いかもしれない。
この林道の途中に、山頂へ続く細い山道があり、
そこを進んでいくと、その先に三角点がある。
周りを木に囲まれた、展望の全くない山だ。
はっきり言って、土地の人でも知らない人の方が多い、
かなりマニアックな山である。

そんな山の名前が、ポスターに書いてあったので、
興味をそそられた。
しかも一緒に書かれているのが、「パスパ文字」である。
なんだ「パスパ文字」って?
言葉の響きだけで判断すれば、
まるで古代ムー帝国の文字のようにも思える。
まさか、あの辺鄙な山の中で、
古代ムー帝国の文字もあるまい。

気になったので、帰宅後ネットで調べてみると、
「パスパ文字」というのは、
中国で、元の時代に作られた文字らしい。
古代ムー帝国ではなかったか。
しかし冷静に考えてみれば、
あの辺鄙な山と、元王朝の「パスパ文字」、
一体どういう繋がりがあるというのか?

さらに調べてみると、
2012年、たつの市教育委員会が実施した調査によって、
この「パスパ文字」が刻まれた陶片が発見されたらしい。
それが、3年の時を経て、
一般に公開されることになった。
図書館に貼ってあったポスターは、
この特別展のポスターだったのだ。

「パスパ文字」は13世紀、
モンゴル帝国の5代皇帝・フビライが、
チベット僧・パスパに作らせた、表音文字である。
このときに作られた38文字は、元の国字となった。
チベット文字を元にして作られているが、
横書きではなく、縦書きの文字である。
(チベット文字は横書き)
ただ、中国語をパスパ文字に置き換えるのは難しかったのか、
ほとんどの場合、漢字とパスパ文字が併記されている。
字形の特徴として、かなり幾何学的であり、
速記に向いていなかったこともあり、
あまり普及しなかったようだ。
元が明の攻撃を受け、北方へと撤退した後は
全く使われることもなくなってしまった。
実際にパスパ文字が使われていた期間は、
わずか100年ほどであった。
だが17世紀に入り、チベットのダライ・ラマ政権のもとで、
パスパ文字は印章の印面を刻む文字として採用され、
現在でも使用されることがある。

以上のように、パスパ文字は中国において
元朝の存在した100年ほどの期間のみ使用された文字で、
これ以降は幻のように消えてしまった文字である。
光明山で見つかった陶片には、
この「パスパ文字」が刻まれていたわけだ。
パスパ文字の歴史から察するに、
恐らくは元朝のころ、中国で焼かれた陶器が、
日本へと持ち込まれ、
それが光明山へと伝わったのだろう。
しかし、なぜ光明山なのか?

実は光明山には、1336年に赤松氏が築城した
「光明山城」が存在していたのである。
城郭は、現在、山中に延びている
林道沿いに存在していた。
現在の林道では、相生市域から山に入ることになるが、
光明山城には揖東・揖西両郡の郡代が
居城していたことから、
当時はたつの市揖西町から、
城へと続く道があったのだろう。

光明山には、山岳寺院の遺構もある。
パスパ文字の刻まれた陶片が発見されたのは、
山の中腹であったことから、
光明山城跡ではなく、
寺院跡から発見されたのではないだろうか?
当時、大陸より持ち込まれた「茶」の文化が
寺院を中心にして広まっていた。
このころはまだ、国産陶器による
茶道具は存在しておらず、
茶碗等は全て中国からの輸入品であった。
今回発見された陶片も、
そういった茶碗等の輸入品と一緒に、
日本に持ち込まれた物の、ひとつだったと考えられる。

光明山城は、天正年間(1573~1592年)の
羽柴秀吉の播磨侵攻の際に、落城したと伝えられている。
恐らくは、城への道の途中にあった寺院も
このときに焼かれるか、取り壊されるかしたのだろう。
その際、このパスパ文字の入った陶器も破壊され、
寺院と一緒に灰燼と化した。
今回見つかったのは、
その破片のひとかけらだったのだろう。

パスパ文字が刻まれた陶器は、
これまでに3件見つかっているが、
いずれも沖縄や九州など、大陸に近い場所ばかりで、
本州で見つかったのは、今回が初めてである。

果たしてどういうルートで、
パスパ文字入りの陶器が光明山へとやってきたのか?

謎はいまだ、厚いベールに覆われている。

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