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アイガモ農法

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先日、自転車で水田近くの農道を走っていると、
田植えが終わって間もない水田に、2羽のカモらしき鳥が降りて来た。
バシャバシャと舞い降りたカモは、そのまま悠々と水田の中を泳ぎ始め、
時折、水の中にクチバシを突っ込み、エサを探しているようである。

ここの所で、ちょっと首をひねった。
考えてみれば、カモというのは渡り鳥ではなかったか?
たしか、越冬のために日本へとやって来て、
春の訪れと共に、北へ帰っていくはずである。
日本の狩猟期間というのは、ちょうどこれに重なるような形で
設定されていたはずだ。
それを考えてみると、この6月の田植え時期というのは
カモが日本にいない時期である。

不思議に思った自分は、家に帰って、カモの生態について調べてみた。
すると、カモの中には、季節によって「渡り」をする種と、
「渡り」を行なわない種が存在するということがわかった。
マガモなどは「渡り」を行なうカモであり、
カルガモなどは「渡り」を行なわないカモである。
両者ともに形が似ており、マガモの雌などは
色合い的にもカルガモに似ている。
もちろん、見る人が見れば、その違いも分かるのかも知れないが、
カモという鳥に興味のない人が見れば、
どちらも同じように見えてしまうかも知れない。
ともあれ、今回、水田に下りて来たカモは、
「渡り」を行なわないカルガモだったのかもしれない。

2羽のカモが水田を悠々と泳いでいる姿を見て、
ふと、いつか聞いた「アイガモ農法」というものを思い出した。
随分、昔に聞いたような気がする。
確か、田植えの終わった水田に何匹ものアイガモを放し、
エサ代わりに水田の雑草や、虫などを食べさせるという話だったと思う。
除草剤や農薬を使う必要がなく、雑草や虫などを食べて育ったアイガモも
食肉として販売することが出来るという話であった。
ひところは何度かその名前を聞いたような気もするが、
結局、現在に至るまで、自分の身近な農家では
この「アイガモ農法」を実践している所は無く、
実際の「アイガモ農法」がどういうものなのか、
この目で見たことがない。

「アイガモ農法」とは、水稲栽培にてアイガモを利用した減農薬栽培、
もしくは無農薬栽培のことである。
……。
ここで、あれっ?と、思った人もいるだろう。
「アイガモ農法」って、無農薬なんじゃないの?と。
ここの所も含めて、詳しく書いていこう。

「アイガモ農法」を、ごく簡単に説明すると、
先にも書いた通り、田植えの終わった水田に複数のアイガモを放し、
これに雑草や虫などを食べさせて、
除草や防虫をやらせようというものである。
詳しくいえば、田植えを終えて一定の期間(10日前後?)おき、
そこへ生まれて間もないアイガモのヒナ達を放すわけである。
田植え後、一定期間をおくのは、苗がある程度しっかりと育ち(根付き?)、
ヒナ達がこれに触れても、倒伏したりしないようにということらしい。
もちろん、水田の周りにはしっかりと囲いを作っておかないと
アイガモは逃走してしまうし、犬やイタチなどの外敵に侵入され、
アイガモが食べられてしまう。
ヒナ達は、水を張った水田を泳ぎ回り、
生えている雑草や虫などを食べていく。
さらにアイガモが水を掻くことによって土が撹拌され、
イネの成長を促進させる効果を生み、
アイガモの排泄物がイネの養分となるという。
こうしてアイガモによって雑草や虫が取り除かれ、
イネはスクスクと成長していく。
そして、イネに稲穂がつき、これが垂れ始めるとアイガモたちは
水田から引き上げられる。
これ以上、アイガモを水田に入れておくと、
折角ついた稲穂を食べてしまうからだ。
この時期になると、アイガモの役目は終わりである。
彼らはそのまま、あるいはある程度肥育させてから、畜肉に加工される。
アイガモたちが畜肉に加工されてからしばらくすると、
稲穂の方もしっかりと実り、収穫の時期を迎えることになる。

こうして一連の流れを見てみると、アイガモたちを水田で飼うことによって、
無農薬有機栽培を実践することが出来、さらにはアイガモの畜肉も手に入る。
まさに、一石二鳥とも三鳥ともいえるグッドアイデアである。
このような優れたアイデアが、どうして広まらなかったのか?

実は、この「アイガモ農法」には、いくつかのデメリットもある。
今度はそちらの方を見ていこう。

まず何よりも、アイガモのヒナたちを購入するのに元手がかかる。
調べてみた所では、アイガモのヒナ1匹あたりの値段は
400~800円ほどで、10aあたり
10~20羽ほどのアイガモが必要になってくる。
彼らは、水田に生える雑草や虫などを食べているだけでは、
その腹を満たすことが出来ない。
毎日、それらとは別に、キチンとしたエサを与えないといけない。

さらにいえば、アイガモたちが逃げ出さないように、
水田の周りに囲いを作らないといけないのも、大きな負担になる。
これには犬やイタチなどの外敵から、
アイガモを守るという役割もあるため、
あまりいい加減なものでは、その役割を果たせない。

さらに給餌と保護を考えれば、毎日、アイガモたちを集めて
小屋の中で休ませなければならないのだが、
もちろん、これは毎日欠かさず行なわなければいけないため、
結構な負担になる。
さらに水田の中に、アイガモたちが集まって休憩できるスペースを
設けねばならず、そこの所には稲を植えることが出来ない。
結果としては、従来通りに農薬や除草剤を使用した栽培に比べて、
その収穫量が少なくなるのが一般的だ。
(もし、アイガモたちの休憩スペースを作らなければ、
 彼らは勝手にイネを倒して、そのスペースを作るらしい)

最後の問題は「アイガモ農法」によって育ったアイガモたちが、
ほとんど売れないという事実である。
冷静に考えてみればこれも当然で、彼らはもともと食肉用として
育てられているわけではない。
彼らはあくまでも、水稲栽培の副産物であり、
最初から食用に育てられたアイガモに比べると、味が落ちる。
さらにいえば、この「アイガモ農法」のアイガモ肉に関しては、
1年のうち、この時期だけのものになるので、
どうしても安定供給というワケにもいかず、販路を作るのが困難である。
そのため、「アイガモ農法」を取り入れている農家の大部分では、
アイガモ肉を自家消費したり、知り合いに配ってしまうという。
そうなると、結局、ヒナの購入にかかった費用は
全く回収できない、ということになってしまう。
(ちなみに売れた場合でも、1匹あたり100~200円程度の
 値段しかつかない場合があり、そういう場合もやはり
 ヒナ購入費用、エサ代等は回収できないということになる)

結果的にいえば、従来の農薬を使った農法に比べて収穫量が落ちるほか、
アイガモ肉も売れず、さらに囲いの設置やカモの世話などの手間がかかる、
ということになれば、この農法が広まらないのも無理は無いだろう。
(ちなみに無農薬・減農薬・有機栽培という名前をつければ、
 通常の米よりは高く売れるため、全体的な収支がどうなるかは、
 米の収穫量や銘柄などにも影響を受ける)

さらに「アイガモ農法」のメリットの部分についても、
疑問を呈する声がある。
例えば、アイガモたちが全ての草を食べないため、
どっちにしろ除草作業が必要になってくるとか、
イネの病気や、アイガモの食べない害虫については効果がないため、
それらを防ぐためにはある程度、農薬を使うことになるとか、
アイガモの排泄物は、発酵して初めて肥料としての効果が出るため、
実際には肥料としての効果がない、などである。
ただ、これらの件については、実際に「アイガモ農法」を
行なっている人たちの話を読むと、意見の食い違いが出ていることもあり、
はっきりとメリットが無いとは言い切れない。

いずれにしても、一時は自然農法の代表のように
もてはやされていた「アイガモ農法」についても、
実際には、そうそうウマい話ばかりではない、ということである。

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