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プロレスの話〜マスク編

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「マスク」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?

寒さも極まり、インフルエンザも流行しつつあるこの時期、
マスクといえば、鼻と口を覆う布製、又は紙製のものということになる。
これがまあ普通の人、いわば一般人の認識である。
ところが世の中には「マスク」と聞くと、
一も二もなく、プロレスが頭に浮かんでくる人間がいる。
自分だ。
恐らく、プロレスファンの人々は、
1人残らず自分と同じ様な認識を持っているのではないか?

派手な「マスク」をつけたプロレスラーが、
トップロープから華麗に宙を舞う。
ルール無用の悪役レスラーが、覆面レスラーの「マスク」に手をかけ、
少しずつ引き裂いていく。
それにともなって、それまで謎のベールに隠されていた
覆面レスラーの素顔がだんだんと明らかになっていく。
そんな悪役レスラーの行為に、口ではブーイングを飛ばしながらも、
初めて目にする覆面レスラーの素顔に、興味津々な観客たち。
覆面レスラー、いわゆるマスクマンは、
まさにプロレスリングの華といってもいいだろう。

この「マスク」というのは、非常に面白いもので、
これをつけた選手が出てくるという点で、
正にプロレスというのは、他のあらゆる競技と
一線を画しているといっていい。
だって、「マスク」をかぶって正体を隠しているのだ。
他の競技で、「マスク」をかぶった人間が出てきて、
競技を始めようとしたら、審判も観客も当然のように異を唱え、
その「マスク」をとって正体を見せろと要求するだろう。
大事な記録や勝敗のかかった競技において、
競技者の正体も素性も分からないなんてことが、あっていいはずがない。
仮に「マスク」をかぶっている人間が、自分の名前を語ったとしても、
審判たちは必ず、競技開始の前に「マスク」をとらせ、
その中身を確認するに違いない。
厳しい競技だと、「マスク」をかぶって試合をしようとしただけで、
失格になってしまうということもあり得るだろう。
もし、「マスク」が平然と許可されるということになるのであれば、
これを悪用して選手の入れ替わりなどが、跋扈することになる。
それもまた当然のことだからこそ、
逆に「マスク」というものが、当然のように認められている
プロレスというものの異様さが際立つのである。

いちいち説明をするまでも無いと思うが、
口や鼻を覆う、いわゆる医療用とされている「マスク」と、
覆面レスラーたちがかぶっている「マスク」とでは、
その目的も構造も、何もかもが違っているといっていい。
医療用の「マスク」では、鼻と口がしっかりと覆われており、
その部分の密閉性の高いものが、良い「マスク」とされるのに対し、
プロレスラーのそれは、鼻と口の部分だけ
(まあ、後は目の部分もそうなのだが、こちらは医療用の「マスク」でも
 オープンになっているものが普通である)
オープンになっているか、あるいは覆われているとしても、
空気を非常に透過しやすい構造になっている。
プロレスラーの「マスク」は、それを装着しての激しい運動が
大前提としてあるため、何よりも呼吸のしやすさというのは
重要視されるポイントになる。
もちろん、激しい動きによって「マスク」が少々ずれることもある。
そういう場合でも、視界、呼吸等が邪魔されないように
若干大きめに、目、鼻、口、の部分が確保されているものも多い。
この違いは、「マスク」としての役割の違いに基づいている。
医療用「マスク」の役割が、口、鼻に覆いをかけることによって
ウイルス等の侵入、飛散を防止するというフィルター的なものなのに対し、
プロレス用の「マスク」の役割は、装着者の正体を隠すことである。
さらにいえば、「マスク」に独特の装飾を施すことによって
装着者にある種のキャラクター性を付与することである。

これらは、同じ「マスク」という名前ではあっても、
その性格は、全くといっていいほど違っている。
その性質的なものを考えた場合、
プロレスラーのかぶる「マスク」は、「仮面」のそれと同じである。
装着者の正体を隠し、新たなキャラクターを付与する。
恐らく、一番最初にプロレスラーが正体を隠したい、
ということになったとき、まず、思いついたのは
「仮面」であったと思われる。
ただ、顔の前面に面をつけるだけの「仮面」では、
激しい運動をすれば、すぐにずれたり外れたりする。
この「仮面」を、激しい運動をしても外れない様にするためには……、
と考えた際、顔をすっぽりと包み込む布に、
「仮面」と同じ様な模様を施すことを思いついたのだろう。

歴史上、最初の覆面レスラーが登場したのは、
1865年、フランスでのことである。
(1873年という話もあった)
プロレスらしきものが始まったのが、
1830年代のフランスでのことだったので、
そこからおおよそ30年ほど経っていることになる。
その名も「ザ・マスクド・レスラー」。
なんというか、もうそのまんまなネーミングである。
まあ、他の全ての選手が素顔で登場する中、
1人だけ「マスク」をかぶって登場してくるのだから、
きっと、そのアピール度は満点だったことだろう。
その正体も明らかにされており、「ザ・マスクド・レスラー」に
変身していたのは、セオボー・バウアーという人物であった。
彼はデビュー時からマスクをかぶっていたというから、
正に生粋のマスクマンであったといえる。

それから約半世紀後の1915年には、アメリカのプロレスリングに
初の覆面レスラーが登場する。
その名も「マスクト・マーベル」。
これまた、その正体は明らかにされており、
モート・ヘンダーソンという選手であった。

現在では、マスクマンがベビーフェイス(善玉)である場合も多いが、
その当時は、ほとんど全てがヒール(悪役)であったようだ。
だとすると、そのころの「マスク」は、
どう見ても悪役に見えない、善良そうな顔のレスラーを
なんとか悪役として活躍させるための、
苦心のギミックだったのかも知れない。

戦後、日本でもプロレス人気が高まってきて、
多くの外国人レスラーが日本にやって来ることになった。
その中には、何人もの覆面レスラーがいたが、
これらもやはりヒールとしての登場であった。
日本人として初の覆面レスラーの登場は1967年、
その名もなんと「覆面太郎」。
その正体は、後に俳優としてもデビューするストロング小林だった。
それにしてもひどいネーミングセンスである。
マスクマン=悪役というイメージを払拭したのが、
メキシコのミル・マスカラスだ。
華麗な空中殺法を得意とする彼は、
まさに絶対的なベビーフェイスであった。
やがて彼の影響を受けてか、日本でもタイガーマスクや
獣神サンダーライガーなど、ベビーフェイスのマスクマンが
登場することとなった。

現在、プロレスのリングでは、
マスクマンというのは当たり前の存在になり、
そのマスクマンたちが、「マスク」をかぶったまま
政治の世界に飛び込んでいくようになった。
一応、議場に入る前に別室での正体確認が行なわれているらしいが、
一般競技の世界では通用しない「マスク」マンが、
プロレスの次に認められたのが政治の世界とは、
なんとも不可思議で面白い話である。

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