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コウノトリ

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今月の19日、コウノトリが撃たれた。

ニュースによれば、今月の19日、
島根県雲南市で巣を作り、ヒナを育てていた
国の天然記念物のコウノトリが、地元の猟友会の会員に誤射され、
死亡した、とのことである。
撃たれたのは、つがいの5歳のメスで、
現在、巣の中で4羽のヒナを育てている姿が確認されていたという。
その後、残されたオスのコウノトリが
ヒナ達にエサを運んでいる姿も確認されたが、
雄1匹ではヒナを上手く育てられないだろう、との判断から、
雲南市の教育委員会は21日、4羽のヒナを保護し、
これを人工飼育するため、
兵庫県豊岡市の県立コウノトリの郷公園に送った。

コウノトリを誤射したのは、地元の猟友会の男性会員で、
田んぼにいたサギを駆除しようとしていた所だったらしい。
写真で見る限りでは、サギとコウノトリは
色もサイズも随分と違うのだが、上手く見分けがつかなかったようだ。
この点については、ニュースサイトのコメント欄にも
誤射した猟友会員をこき下ろすコメントが圧倒的であった。
どうしてサギとコウノトリを見間違えるのか。
違いは一目瞭然ではないか、等々。
たしかにサギ(シロサギ)は全身が真っ白なのに対し、
コウノトリは、羽の先が黒く染まっているため、
羽をたたんでいる姿を見れば、
ちょうど体の尻部分が黒いように見える。
ただ、同じサギでもアオサギの場合は、
部分によっては黒い部分もあるため、
こちらと見間違う可能性はある。
(もっとも、誤射した猟友会員は黒い部分が見えなかった、と
 供述しているそうなので、シロサギと誤認したのだろうが……)
いずれにしても、クマやイノシシの駆除と違い、
襲いかかってくることのない相手なのだから、
あわてて撃たずに、ゆっくりと充分に確認した上で
引き金を引いてもらいたいものだが、
やはり獲物を前にした猟師というのは、
そういう冷静さをなくしてしまうものなのだろうか。

今回の一件を振り返ってみると、
コウノトリ達には色々と気の毒なことばかり起こっているが、
やはり、一番の被害者といえば、
1匹だけ残されたオスのコウノトリだろう。
妻を殺され、子供達を連れ去られる。
彼がチャールズ・ブロンソンであれば、
即座にピストルを手にとって、壮絶な復讐劇が始まる所だ。
妻亡き後も、自分1人で子供達にエサを運んでいたというから、
その「親」としての責任感と愛情には、ただただ頭が下がる。
時期を同じくして、姫路市では
父親が子供が泣き止まないことに腹を立て、
フローリングの床に突き落として、
意識不明の重体にさせるという事件も起こっている。
全く本当にクソのような父親で、
このコウノトリのクソでも煎じて飲めと言ってやりたくなる。
突然、家族全てを奪われたコウノトリの心中は、
如何なるものだろうか。

コウノトリは、コウノトリ科コウノトリ属に属する鳥類だ。
全長は110〜115cm、体重4〜6kg、
翼開長は2mにも及ぶ大型の鳥類で、
日本国内の鳥類で、これ以上の大型の鳥はツルだけである。
体型や体色がツルに似ているが、良く見れば
体色の配置が違っているため、見分けることは簡単である。
今回、サギと誤認されて射殺されてしまったが、
サギに比べると、サイズが大きく、体色の違いも顕著だ。
基本的に東アジアのみに分布していて、
その総数も2000〜3000羽程度と、非常に少ない。
日本では、その生息数の少なさから
国の天然記念物に指定されているが、
世界的に見ても絶滅の危機に瀕している。

実際、トキやコウノトリというのは、
絶滅危惧種の代名詞のようなものである。
とはいえ、日本においてコウノトリの数が激減したのは、
そう古い話ではない。
江戸時代以前には、日本には多数のコウノトリが生息しており、
大自然の中のみならず、町の中にも
巣を作ったという記録もあるくらいだ。
(もっとも、町の中に巣を作ったことが記録になるくらいだから、
 江戸時代にしても、極めて珍しいケースだったのかも知れない)
なんといっても、江戸時代以前は国内に「肉食禁止」の空気があり、
(実際には、少なからず肉食は行なわれていたようだが、
 表立ってのことではなかったようだ)
さらに幕府によって「生類憐れみの令」のような、
動物保護法が発布されるなど、
国内の鳥獣類については、かなり生きやすい状況だったためだ。
この状況がひっくり返ったのが明治時代。
それまであった「肉食禁止」が過去のものとなり、
おおっぴらに鳥獣類が食べられるようになった。
日本国内では、銃による狩猟が盛んになり、
コウノトリは全国から姿を消していくことになる。
先にも書いた通り、農村などでは当たり前に姿を見かけるほど
人に近い場所で生息しており、
なおかつ国内でも有数の大型鳥であったため、
手軽に獲って食べることの出来る鳥肉として、
猟師達にとって格好のターゲットになったと考えられる。
さらにこれに、森林伐採などの
自然破壊が加わることによって、ますますその数を減らした所に、
戦争の食料不足によって、トドメを刺す格好になった。
ハラを減らした人間達の目に大型のコウノトリは、
さぞウマそうに映ったに違いない。

戦後、疲弊した国が復興していく中で、
農業にキツい農薬が多用されるようになり、
その結果、コウノトリのエサが減り、その生息に危機が訪れる。
それまで、コウノトリの「生息地」については、
史跡名勝天然記念物として指定を受けていたが、
コウノトリという「種」自体は、指定されてはいなかった。
昭和28年、コウノトリという「種」自体が天然記念物に指定され、
これ以降は、官民一体となってコウノトリの保護活動が始まり、
3年後の昭和31年には、
天然記念物から特別天然記念物に格上げされる。
コウノトリの人工飼育の道も模索され、
急ピッチで保護活動は加速していくことになるが、全ては遅すぎた。
昭和46年、最後の野生のコウノトリが死亡し、
事実上、日本のコウノトリは、ここで絶滅のときを迎えた。

これ以降は、ロシアなどからコウノトリを移植し、
さらに人工飼育の研究を進めていくことによって、平成元年、
ついに25年目にして、初めてコウノトリの人工繁殖に成功する。
この年以降、毎年、ヒナが孵るようになり、
やがて、人工繁殖させたコウノトリを自然に復帰させる計画が始まる。
そして平成19年、43年ぶりに野外でのヒナが誕生し、
これ以降、試験放鳥なども行なわれるようになった。
自然の中でヒナが生まれたのは、
繁殖施設のある兵庫県豊岡市周辺を除けば、
今回のものが国内2例目ということもあり、
相当に注目されていたのだが、
あまりにもあっけなく、コウノトリの自然繁殖は
終わりを迎えることとなった。

人間の手によって、絶滅にまで追いやられ、
人間の手によって、再び自然の中に蘇ったコウノトリ。
それが再び人間の手によって殺されるとは、なんとも皮肉な話である。

コウノトリを撃った猟友会員については、
文化財保護法違反の容疑がかかり、捜査が進むらしいが、
コウノトリを再び蘇らせるには、まず何より
「人間」そのものの変化が、必要なようである。

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