年末が近付いてきた。
この時期、世の中はクリスマス一色に染まる。
クリスマスの後にはお正月があり、クリスマスが終わった後は
世の中はお正月一色に染まるわけだが、
面白いことに、このクリスマスが終わってしまうまでは、
お正月というのはほとんど姿を見せない。
クリスマスとお正月は、ほぼ一週間ほどしか変わらないのだから、
クリスマスとお正月が同時進行していても良いのだが、
どういうワケか世の中は、クリスマス→お正月という流れを重要視して、
その雰囲気をガラリと変えていく。
クリスマスを境に、世の中の雰囲気がガラリと変わることにより、
年末の慌ただしさがより強調されているようである。
そんなわけで、クリスマスを控えているこの時期は、
世の中は強いクリスマスムードに包まれているわけだが、
それをことに強調しているのが、各所で流れるクリスマスソングである。
童謡や流行歌など、この時期に流されるクリスマスソングは数あれど、
その中で最も有名なものといえば、やはり「ジングルベル」であろう。
今回は、この最も有名なクリスマスソング
「ジングルベル」についてとりあげてみる。
町の商業施設などで流れている「ジングルベル」を聞いてみると、
歌詞が英語バージョンのものが多いことに気付く。
もともとクリスマス自体、外国のお祭り(?)であるので、
「ジングルベル」の英語バージョンが流れていても
全く違和感を感じることはないのだが、
悲しいことに日本人のほとんどは、英語の歌詞を理解することが出来ないため、
ああ、「ジングルベル」が流れているなということはわかるものの、
その意味までは意識が向かないようだ。
歌詞の意味は全く分からないものの、サビの部分である
「ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル」の部分だけは
英語の歌詞でも同じように歌われているため、
何とか聞き分けることが出来るようである。
これを呼んでいる人の中には、子供のころ、
幼稚園や小学校などで、日本語版の「ジングルベル」を習った、
聞いた、という人がいるだろう。
実はそういう人の中には、この歌の歌詞の中に
「今日は楽しいクリスマス」というフレーズが入っていたと、
記憶している人がいるはずだ。
どういう感じで入っていたか、ということについては記憶が曖昧なのだが、
自分の記憶が確かであるのならば、
「ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル、鈴が鳴る」
というサビの直後に、「今日は楽しいクリスマス」と続いていたはずだ。
この人フレーズが入っていたために、
ああ、この歌はクリスマスの歌なんだな、と認識したわけである。
しかし今回、改めて「ジングルベル」について調べてみた所、
その歌詞の中のどこにも「今日は楽しいクリスマス」というフレーズが
見当たらない。
この「ジングルベル」という歌は、もともとは英語の歌で、
それを日本語に翻訳する際、メロディラインや韻を重要視したためか、
元の英語版とは、歌詞の意味がかなり違ってしまっており、
その結果、何種類か歌詞の違う「ジングルベル」が存在しているわけだが、
それらの何種類かの中にも
「今日は楽しいクリスマス」というフレーズはないのである。
ここで最も有名な「ジングルベル」の歌詞を書き出してみよう。
『走れソリよ 風のように
雪の中を 軽く早く
笑い声を 雪にまけば
明るい光の 花になるよ
ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る
鈴のリズムに 光の輪が舞う
ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る
森に林に 響きながら
走れソリよ 丘の上は
雪も白く 風も白く
歌う声は 飛んで行くよ
輝きはじめた 星の空へ
ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る
鈴のリズムに 光の輪が舞う
ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る
森に林に 響きながら』
ご覧の様に、この歌詞の中に「今日は楽しいクリスマス」というフレーズはない。
いや、それだけではない。
賢明な人ならすでにお気付きだろうが、
この「ジングルベル」の歌詞の中には、
特に「クリスマス」に関係のあるものは、何も含まれていないのである。
敢えて取り上げるのであれば、歌詞中に出てくる「ソリ」という単語が
なんとはなしにサンタクロースの「ソリ」に通じるものがあるだけで、
それを除いてしまえば、この歌は全くクリスマスを連想させない。
どうしてこれが、代表的なクリスマスソングなのか?
ここで、いや、この歌詞中には
「ジングルベル」という単語が何度も繰り返し出てくるが、
ひょっとしたらこの「ジングルベル」というのが、
クリスマスに関係しているのでは?と考える人もいるだろう。
否である。
「ジングルベル」は「Jingle Bells」。
「Bells」というのは「ベル、鈴」という意味で、
「Jingle」というのは「チリンチリンという鈴などの擬音語」である。
つまり「ジングルベル」というのは、直訳すれば
「鈴がチリンチリン」という風にでもなるだろうか。
もちろん、これもまたクリスマスには全く繋がらない。
まあ、これもまた当然の話で、もともと「ジングルベル」という歌は
クリスマスソングとして作られたわけではなく、
17世紀の中ごろに、アメリカの牧師が自分の教会の「感謝祭」の
お祝い用に作った歌だからである。
歌詞の内容を見て分かる通り、この歌はいわゆる「ソリ遊び」の歌で
もともとの題名は「One Horse Open Sleigh」、
つまり「一頭だてのソリ」というものだった。
「Horse」という単語が使われていることから、
恐らくこの「ソリ」を引いているのはトナカイではなく、馬だったのだろう。
まあ、アメリカにトナカイは生息していないのだから、これもまた当然だが。
この歌が好評を博し、時期的なものもあって
クリスマスにも歌われるようになり、やがてアメリカ中に広まっていく中で
タイトルも「ジングルベル」へと変わっていったわけである。
では、自分が子供のころに聞いた
「今日は楽しいクリスマス」というフレーズの入った「ジングルベル」は
一体なんだったのか?
実はアレは、日本独特の「替え歌」の1つだったらしく、
正式にレコードなどでリリースされている「ジングルベル」の中には、
あのフレーズの入ったものは、全く存在していないのである。
(恐らくは童謡「ひな祭り」の中の一節、
「今日は楽しいひな祭り」というのを
「クリスマス」に起き変えただけのものではないかと思われる)
今やクリスマスソングとしては、最も有名な「ジングルベル」。
しかしその実、全くクリスマスに関係のない「ジングルベル」。
そう考えると、何ともいえない微妙な気分になってしまう。