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ぶらさがり健康器

更新日:

自分がまだ幼かったころ、
うちの隣に住んでいた爺さんが、庭に鉄棒を設置した。

小中学校にあるような、低い鉄棒ではなく、
体操競技で大車輪をやるような、大きな鉄棒である。
体操競技の鉄棒は、金属製ではあるものの
「しなる」ように作られている。
この「しなり」があるからこそ、
オリンピックで見るような、様々な技が使えるわけである。
しかし、隣の爺さんの設置した鉄棒は、
「しなり」も何もない、文字通りの鉄の棒であった。
自分も幼稚園や小学校の鉄棒で遊ぶことがあったのだが、
その鉄棒は大きすぎて、飛びつくことすら出来なかった。
では、隣の爺さんがその鉄棒を使って何をしているかといえば、
逆上がりや大車輪などの鉄棒らしい技は何もせず、
たまにジッとぶら下がっているだけであった。
そのころの自分は、
「ただ、鉄棒にぶら下がっているだけで、何が楽しんだろう?」
なんてことを思っていた。

それからしばらくして、その爺さんは亡くなってしまったのだが、
その後、テレビを見ていると、ある商品が宣伝されていた。
午後に放映される時代劇の再放送。
その合間に流される、TVショッピングのCM。
婆さんと一緒に見ていたそのTVショッピングの中で、
「ぶらさがり健康器」が紹介されていたのである。

この「ぶらさがり健康器」というのは、
鉄パイプを組み合わせて作られた、屋内用の小型の鉄棒である。
ほとんどの商品は、高さを調節できるようになっており、
大人から子供まで、自分の身長に合わせた高さに調整して
ぶら下がることが出来た。

最近の若い人の中には、こう思う人がいるかも知れない。
「ぶら下がって、どうすんの?」
もっともな疑問である。
自分も最初、そのTVCMを見た際に同じことを考えた。
TVCMでは愛想のいいおじさんが、
「ぶら下がる」ことによって、
どれだけ健康に「良い」効果をもたらすかを、
延々と説明していた。
それを要約すると、こういうことになる。

・1日に1分程度、ぶら下がることで、背筋を伸ばす
・背骨に「伸び」の効果を与えることで、
 背骨の柔軟性が回復できる
・そうすると、腰痛の予防になる
・さらにぶら下がることによって、
 筋肉も大きく伸ばすことが出来る
・広背筋を大きく伸ばすことによって、猫背が解消でき、
 肩甲骨まわりの筋肉を伸ばすことによって
 肩こりを解消できる
・また身体を伸ばすことによって、内蔵も伸ばすことになり、
 臓器をリラックスさせることが出来る

これらの健康効果が、「ぶらさがり健康器」にぶら下がるだけで
得られるというのである。
もちろん、別にぶら下がれるのであれば、
ぶらさがり健康器に限らず効果はあるので、
鉄棒だろうが、木の枝だろうが、
好きなものにぶら下がればいいのである。
このぶら下がり運動を、家の中でお手軽にやるための道具が、
この「ぶらさがり健康器」だったわけである。

つまり、隣の爺さんが鉄棒にぶら下がっていたのは、
この「ぶらさがり健康器」の代わりだったのだ。
素直に「ぶらさがり健康器」を購入すれば良かったのでは?
とも思えるが、ひょっとすると大人気で
手に入らなかったのかも知れない。
なんといっても、この「ぶらさがり健康器」が発売された当時、
そのお手軽さが受けたのか、
空前の大ブームを巻き起こしていたからである。
TVショッピングの会社には電話が殺到し、
1日20万台も売り上げたこともあるという。
にわかには信じられない話である。
電話を受け付ける係が、1000人いたとしても、
1人1日200件の商談を成立させている計算だ。
とても、こなせる数ではない。
電話係が10000人いて、ようやく1日20件である。
1人あたりの労働時間が8時間ならば、
1時間あたり2人とちょっと。
この辺りが現実的なラインかも知れない。
いずれにしても、当時どれだけこの商品が流行っていたか、
ということである。

しかし、ブームはいつか去るものである。
翌年には、すっかりブームも沈静化してしまう。
何がいけなかったのか?
いや、別にいけなかったことなどないのだ。
ようは、1日1分間、これにぶら下がるというだけのことを、
毎日続けられる人間が、いなかったということである。
え?たった1分ぶら下がるだけのことが?と驚くかも知れないが、
実際に1分間、何かにぶら下がったままというのは、
想像以上に疲れるものである。
特にこれを購入する世代、お爺さん、お婆さん、
おじさん、おばさんといった世代は、中年太りで肉もつき、
自分の体重を両手で支えるのすら、ままならない世代なのだ。
かくして毎日やるはずのぶら下がりは、
1日おき、2〜3日おき、1週間おきとまばらになっていき、
仕舞いには人間の代わりに、
洋服をかけたハンガーがぶら下がる、
ということになっていくのである。

だが、そういう大多数の人たちとは違い、
きっちりと毎日1分間のぶら下がりを続けている人もいた。
ごくわずかではありながら、
毎日キチンと決めたことを実行できる人々。
自分などにいわせれば、
むしろその精神こそが尊敬に値するのだが、
そういう人たちは、ずっと「ぶら下がり」を続けてきたのである。
そういう人たちにいわせれば、やはりぶら下がりには
それなりの健康効果はあるようである。
よく考えてみれば「ぶらさがり健康器」は、
その効果を否定されて売り上げが落ちたわけではない。
毎日1分間ぶら下がることを、続けられる人が少なかったために、
一過性のブームで終わってしまっただけである。
毎日キチンと続けていた人は、
それなりの健康効果を実感として感じているのだ。
(まあ、だからこそ続けてきたのだろうが……)
そう考えると、ただぶら下がるだけのこの健康器具には
一定の効果が期待できるということだろう。

あれから数十年経った現在、
調べてみると、「ぶらさがり健康器」は
今でも各社から販売されている。
今でも根強い、「ぶら下がり」ファンがいるのである。
今こそ、「ぶら下がり」は、
もっと見直されてもいいのかも知れない。

一番の問題は、継続できるかどうか?である。

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