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ジュンサイ

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先日、ニュースサイトの地方版を見ていると、こんな記事があった。

『水辺の野趣あふれる食材ジュンサイ
 たらい舟、早乙女姿で”季節の味”採取』

記事には写真もあって、早乙女姿をした2人の少女が
船頭と一緒に大きなたらい舟に乗り、池の中に漕ぎ出していた。
わりと広めの池は、一面水草に覆われていて、
記事を読む限りでは、この一面の水草が全て「ジュンサイ」らしい。
記事の方も少し書き出してみよう。

『初夏の風物詩「ジュンサイまつり」が24日、
 兵庫県多可町中区曽我井の逆池周辺であった。
 女子高校生2人が早乙女姿でたらい舟に乗り、
 昔ながらのジュンサイ採りを再現』

多可町は、加古川の上流域、兵庫県全体でいえば、
ほぼ中央に位置している町だ。
「ジュンサイまつり」は、地域を活性化させるために
1999年から始められたという。
まつりの行なわれた逆池には、「ジュンサイ」が自生しており、
ちょうど初夏のころに、可食部である若芽が生えてくるため、
これを使ったイベントが行われている、ということらしい。
たらい舟に乗って池に漕ぎ出した2人は、
そこで水面に浮かぶ葉を引き寄せ、水中にある茎を引き上げたとある。
多分、この茎の部分に「ジュンサイ」の若芽が生えているのだろう。

自分が、この「ジュンサイ」というのを知ったのは、
マンガ「美味しんぼ」で、何度か取り上げられていたからだ。
マンガの中での「ジュンサイ」は、寒天状の物体にくるまれた
くったりとした植物という印象で、はっきりいって、
本当に美味しいのかどうかサッパリ分からなかったが、
ただ、かなり特殊な食材というイメージがあった。
もちろん、自分も現在に至るまで、これを食べたことが無い。

今回、改めて「ジュンサイ」について調べる前に、
近隣のスーパーを回って、「ジュンサイ」を扱っている所が無いか、
探しまわってみた。
ほとんどのスーパーでは「ジュンサイ」を取り扱っていなかったものの、
大型スーパーの野菜売り場の片隅に、
ビニール袋入りの「ジュンサイ」を見つけることができた。
細長いビニールが水風船の様になっており、
その中に「ジュンサイ」とおもわしき植物が入っている。
価格は1パック198円。
思っていたよりは、ずっと安価である。
裏の原産国表記を見てみれば、そこには中国産の文字が。
なるほど、天然ものなのか、栽培ものなのかは分からないが、
中国でも「ジュンサイ」が採れるらしい。
ただ、ビニールの中に入っている「ジュンサイ」には、
どうも肝心の寒天質の部分がついていないように見える。
(実際には透明な水の中に、同じく透明な寒天質が入っているので、
 光の屈折率などの問題から、見えにくくなっているだけだとは
 思うのだが……)
買ってみても良かったのだが、意外に量があり、
なおかつ、どのようにして食べたら良いのかよく分からなかったため、
購入は見合わせた。
まあ、売っている所を見つけたのだから、買いたくなったときに
買えば良いだろう。

「ジュンサイ」は、ジュンサイ科もしくはスイレン科に属する、
多年生の水生植物だ。
温帯から熱帯にかけて分布し、我が国では各地の池や沼の中に生えている。
泥中の根茎から細い茎を水中に分枝させ、
長い柄のある長円形の葉を水面に浮かべる。
長さは10㎝内外で表面にツヤがあり、
裏面は紫色を帯びて、寒天質の粘質物で覆われている。
夏になると、葉の付け根の部分から花柄を出し、暗紫色の花を1つつける。
5~6月ごろから、まだ開かない若芽を摘み取り、
三杯酢や吸い物として食用とし、塩や酢につけて保存もする。
この他、水煮瓶詰めにするが、この水煮は吸い物などに使われる。
瓶詰めは原料を4~5分煮沸し、冷却後、水でさらし、水と共に煮詰める。
「ジュンサイ」は、世界に広く分布しているが、
これを食用にしているのは、日本と中国だけである。
国内生産では、秋田県産がシェアの90%を占めている。

「ジュンサイ」が、日本の文献に初めて登場するのが「万葉集」だ。
この中に
「わが情 ゆたにたゆたに 浮ぬなは 辺にも奥にも よりかつましじ」
という歌がある。
現代語訳にすれば、
「私の心は ゆらりゆらりと 浮き漂うジュンサイの様に
 岸にも沖にも 寄っていくことが出来ない」
というような意味になる。
大意的には、どっちつかずな人間(女性?)の心のうちを読んだ、
恋の歌ということになるのだろうか?
この中にある「ぬなは」というのが「ジュンサイ」のことである。
「ぬなは」は「沼縄」であり、恐らくは
「沼に生えている縄状の植物」というような意味だろう。
このころに、すでに若芽を食べる風習があったのかどうかまでは
不明だが、「ジュンサイ」という植物自体は、
当時の人にも馴染みのあるものだったのだろう。
もともとは、京都を中心とした関西地方を中心に食べられていたようだが、
昭和の初め、兵庫県で「ジュンサイ」の栽培・販売を行なっていた会社が、
「ジュンサイ」の自生地であった秋田県で栽培を始め、
効率化・商品化の技術を伝えたことによって、
秋田県は、国内最大の「ジュンサイ」産地へと変わっていき、
東京をはじめとする関東地方でも、
「ジュンサイ」が食べられるようになった。

今回のネットニュースを見た際、こんなことを思いついた。
多可町で「ジュンサイ」が自生しているのなら、
同じ県内のこの辺りの野池でも、自生しているのではあるまいか?
そう思って、自転車で池の傍を走る際などに、
池の表面を注意して見るようになった。

ただ、自生している「ジュンサイ」を見つけても、
その新芽を採るのは、さすがに無理かも知れない。

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