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精進料理

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人間の性格というのは、
一人暮らしをした時の食事に、如実に現れる。

自炊し、料理を作る者。
ご飯だけ炊いて、おかずは買ってくる者。
スーパーなどで、弁当や総菜を買ってくるだけの者。
インスタント食品や、レトルト食品を多用する者。
全く食事の用意をせず、すべて外食ですませる者。

もちろん、最初は自炊していた者が、
やがてだんだん面倒になり、
スーパーで半額弁当を漁るようになることもあるし、
外食ばかりしていた者が、
自分の健康を考え、自炊を始めることもある。

もちろん、同じ自炊をしても、
やたら素材や味にこだわったりする者もいるし、
全く手をかけず、お手軽な料理ばかりを
作っている者もある。

一人暮らしの食生活は、
まさに人間の性格を映す、鏡のようなものである。

自分の場合、一人暮らしをすれば
食生活が極端になる傾向がある。
例えば、以前、一人暮らしをしていた時、
ほぼ毎日のように夕食が、
レトルトカレーだったことがある。
しかも、同じメーカーの同じ商品ばかりを、
ひたすら食べ続けていた。
(辛さが選べるので、そこは変えることもあった)
気がつけば、市の指定ゴミ袋大サイズ一杯に、
レトルトカレーの空き箱がたまっていた。
自分自身は全く気にしていなかったのだが、
友人には食生活と健康について、随分と心配された。
あの、レトルトカレーの空き箱だけが
びっしりと詰まったゴミ袋を見た、ゴミ回収係の人も、
相当驚いたのではないかと思う。
それだけ毎日同じものを食べていたら飽きるんじゃ?
と、思われていそうだが、
自分は食べ物に関してはミョーな所があり、
同じものをどれだけ食べ続けても、
滅多に飽きることがない。

カレーを食べるのをやめた後は、
大鍋に具沢山のみそ汁を作り、
朝食も夕食も、これを食べ続けた。
この生活は何年か続いた。
思えばこのころからだろうか?
あまり肉や魚を食べなくなった。
理由は簡単で、肉や魚をみそ汁の具にすると
みそ汁の傷みが早くなるからだ。
したがって、このころから同年代の周りの友人に比べると、
肉や魚を食べる量は、かなり少なかったはずである。
このころには、本人に全くその気はないものの、
まるで「菜食主義者」のような食生活になっていたのだ。

この食生活を見た兄弟たちは、
自分のことを「まるで修行僧のようだ」といった。
もちろん、自分にそんな意識は全くない。
ただ、それが面倒がなく簡単だから、
そういう食生活をしているだけである。
いわば、勤勉な修行僧の食べている「それ」とは、
全く意味合いの違うものである。
しかし、そういわれたことによって、
修行僧の食べている「それ」に興味をひかれた。
そう、それこそが「精進料理」であった。

「精進料理」というのは、
肉食を禁じられた仏教の僧侶が、
野菜、豆類、穀物、海藻などを使って作り上げた
料理のことである。
単純な菜食主義とも違い、ニラやニンニク、ネギなど、
臭いの強い野菜も、使うことはない。
さらに刺激や香りの強い香辛料なども、
ほとんど使われることはない。
「精進」という言葉には、

・身を清め、行いを慎むこと
・肉食をせず、野菜類を食べること
・善行を修めること
・精神を打ち込んで、努力すること

というような意味がある。
「精進料理」に使われている「精進」という言葉は、

・肉食をせず、野菜類を食べること

の意味だろうと思ってしまうが、
実は、仏教でいうところの「精進」とは、

・精神を打ち込んで、努力すること

の意味である。
つまり「精進料理」の「精進」とは、
仏教の教え、つまり殺生や命について考えるという意味を
持っているのである。 

「精進料理」は、仏教の伝来とともに伝えられたとされる。
ただ、伝来当初の「精進料理」は、技術的にも拙く、
現在の「精進料理」の形が出来上がったのは、
鎌倉時代、禅宗によってである。
それまでの「精進料理」は、ただ素材を
煮たり焼いたりしただけのものが多く、
味はきわめて薄味で、食べる前に各々が調味料を使って
好みの味に調整するというものだった。
禅宗では料理を含め、日常の行ない全てが
仏道の実践であるという考え方を持っていて、
料理をしたり、食事をすることは特に重要視されており、
曹洞宗を開いた道元は
「典座教訓」や「赴粥飯法」といった、
「食」についての職責や心構えを説いた書物を
書き残している。
この「典座教訓」には、

・5つの調理法(生、煮、焼、揚、蒸)を
 用いなければならない。
・5つの味付け(甘い、辛い、酸い、苦い、塩辛い)を
 しなければならない。
・5つの色(赤、白、緑、黄、黒)を使った献立を
 作らなければならない。
・素材が余すことなく、使わなければならない。

などと、実に細かいルールが書かれている。

鎌倉時代に完成した「精進料理」は、
後の日本の食文化に、大きな影響を与えた。
と、いうのも「精進料理」は、
日本で初めての、系統だった「料理」であり、
まさに現在の日本料理の原点ともいえるものだからだ。
味付けも、それまでのいい加減な薄味ではなく、
それぞれにしっかりとした味付けがなされており、
普段、肉体労働をしていていて、
しっかりとした味付けを好む武士や庶民にも、
受け入れられた。
さらに、この「精進料理」から、
「本膳料理」や「懐石料理」といった、
様々な料理形態が派生して、
現在の日本料理の体系を作り上げた。
まさにこの「精進料理」こそが、
日本が世界に誇る文化遺産、
「和食」の始まりであったといってもいいだろう。

「精進料理」というと、その堅苦しさに
思わず腰が引けてしまう人もいるかもしれないが、
実際はそんなに堅苦しいものではなく、
そのほとんどは、すでに我々の食生活の中に
根付いている。
5つの調理法は、皆、当たり前のように使っているし、
5つの味についても、馴染みのある味ばかりだ。
5つの色にしても、食材の豊かな現在では、
ごく自然に使っているだろう。
問題は最後の余す所なく使う、という点だろう。

野菜の皮や芯など、
普段捨ててしまっているもの捨てずに工夫する。
それを心がければ、毎日の食卓もまた、
「精進料理」ということになるのかもしれない。

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