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歴史 雑感、考察

ホーロー

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By: othree

うちのキッチンを漁ると、
使われていない鍋やら何やらが、
わんさかと出てくる。

自分の母親が買い込んだものかもしれないし、
あるいは、どこかヨソ様から貰ったものかもしれない。
キッチンだけでなく、押し入れの中や物置の中を探すと、
鍋などの調理器具は、
それこそ未使用のものが、いくらでも出てくる。

ひどいのは、ステンレス製のしゃぶしゃぶ鍋で、
親戚の結婚式で、引き出物として貰ったのだが、
うちからは父親と母親、さらに自分の3人が出席したために、
同じものが、3つもある。
我が家は、しゃぶしゃぶをほとんど食べない家なので、
この3つのしゃぶしゃぶ鍋は、箱を開かれることもなく、
押し入れの中で場所をとり続けている。
いっそ売るなり、捨てるなりしてしまえばいいのだが、
結婚式の引き出物という出自のせいか、
売るも捨てるもままならず、
押し入れの肥やしになっている。

キッチン用品というのは、いくら数が揃っていても
結局いつも使うのはおなじみの道具、
ということになってしまう。
我が家もその例に漏れず、
2~3種類の鍋を適当に使いこなして、
ほとんどの調理をこなしている。

そんな我が家で使われない鍋のひとつに、
ホーロー製の鍋がある。

このホーロー鍋も、いくつか押し入れの中にあるのだが、
母親の趣味には合わなかったらしく、
ひとつも開封される事なく、眠っている。
箱には、ヤングなママさん(化粧濃いめ)や、
その鍋で天ぷらを揚げている写真などが、印刷されている。
どうみても、「昭和」である。
しかも「昭和40年代」である。
つまり箱から出されることもないまま、
40年以上、放置され続けてきたというわけだ。
これがワインなら、
ビンテージワインになっているかもしれないが、
ものがホーロー鍋では、40年前と全く同じ姿の
ホーロー鍋が出てくるだけである。

この「ホーロー」というのは、ミョーな鍋である。
これまで全く使ってこなかった自分には、
ただ表面がつるつるしている、
白い鍋というくらいの認識しかない。
「ホーロー」という風に表記されているが、
実際には「ほうろう」である。
漢字で書くと「琺瑯」だ。
他の金属製の鍋と違っている所は、
金属製(主に鉄製などだが)の鍋の表面に釉薬をかけ、
ガラス質の層を形成していることである。
このガラス質の層が、あの独特の
白いつるつるとした表面を生み出している。
もっとわかりやすくいえば、陶器に釉薬をかける代わりに、
鉄器に釉薬をかけて焼成したものである。

この加工によって、鉄の固さと丈夫さ、
ガラスの対腐食性、耐摩耗性、非吸着性(臭いがつかない)
をあわせもった鍋が出来上がる。
さらに鉄にホーロー加工を施した鍋の場合、
IH調理器でも使用することが出来る。

無論、いいことばかりではなく、
ガラス質の表面加工をすることによって、
「弱点」も生まれる。
例えば、表面がガラス質であるため、強い衝撃に弱く、
また、ガラスを傷つける金属たわしや磨き砂を使うと、
その表面が傷ついてしまう。
また、炒め物や煎り物には使えないという弱点もある。

金属の表面に釉薬をかけて焼成し、
ガラス質でコーティングするという技術は、
紀元前1400年ごろにはすでに存在していた。
世界最古のホーロー製品は、
エーゲ海のミコノス島で発見されており、
この近辺にて、技術が生み出されたと考えられている。
紀元前1300年ごろ、エジプトで作製された
「ツタンカーメン」の黄金のマスクにも、
このホーロー技術が使われている。
(あのマスクの青い部分が、ホーロー部分である)
黄金のマスクが、作製後3000年以上を経ても、
鮮やかな美しさを保っている所からも、
ホーローの対腐食性の高さが伺えるだろう。

地中海で生まれたホーロー技術は、
やがて世界中に広がっていく。
東へは、シルクロードを通り、
6世紀ごろに中国(隋)へと伝えられた。
さらに朝鮮半島を経て、日本へともたらされる。
当時の日本は飛鳥時代。
聖徳太子のころである。
このころのホーローは、現在のような実用的な技術ではなく、
装飾品などに使われる技術であった。
日本ではこの技術を「七宝焼(しっぽうやき)」と呼んだ。
正倉院に収められている「十二陵鏡」は、
奈良時代くらいまでの間に、
国内で製作された、七宝焼だとされている。
奈良時代から平安時代にかけては、
盛んに七宝焼が作製されていたが、
平安時代以降は急速に衰退し、
再び、七宝焼が作られはじめるのは、
安土・桃山時代になってからである。
江戸時代には、刀の鍔や印籠、煙草入れなどが
七宝焼で作られていた。

日本で七宝と呼ばれ、装飾にのみ使われていた技術が、
ホーローとして、実用的な分野に生かされはじめるのが、
明治時代である。
世界で最初にホーロー技術を実用化したイギリスから、
各国へと技術が広まり、
日本へは半世紀ほど遅れた明治時代に、移入されたのである。
1866年、桑名で鋳鉄ホーロー鍋が作られ、
1885年には、大阪で鉄板ホーロー鍋が開発された。
1890年には、陸海軍の食器として
ホーロー製品が使われるようになり、
実用品として一般的になっていくのである。

さて、最初に書いたような理由で
我が家の押し入れに眠っているホーロー鍋だが、
自分もこれを使ってみようという気には、なっていない。
なんといっても、普段使っている鍋が、全て現役なのだ。
鍋なんて、普通に使っている限りでは
そうそう消耗するようなものではない。
自分の親の世代から使っている鍋は、
少々、くたびれはしたものの、普通に使えるのだ。

そういうわけで、押し入れの中のホーロー鍋は
いまだ眠り続けている。
これを使うのは次の世代になるのか、
さらにその次の世代か……。

どんなに先の世代が使う気になったとしても、
ホーロー鍋は変わらぬ姿で、箱の中から出てくるだろう。
もっともこれを発掘した子孫達は、
ツタンカーメンの黄金のマスクを発掘したほどには、
感動はしてくれない。

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