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おじや

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寒い日が続いている。
こういう日が続くと、TVの情報番組などでは、
「鍋」の特集を組むようになる。

鍋料理自体は、日本中に星の数ほどあり、
現在でも、毎年のように新しい鍋料理が考案されている。
もちろん、ほとんどの新鍋は
一過性のブームとして消えていくが、
中には、新しい鍋料理の定番として、
我々の生活の中に定着していくものもある。

大方の鍋料理の場合、
材料から豊富にダシの出たスープを使い、
締めの料理を作ることが、定番になっている。
鍋料理の数は星の数ほどもあるが、
この鍋の「締め」については、
驚くほどパターンが少ない。
大別すると、ご飯を入れるか、麺を入れるかである。
麺については、うどんであったり、蕎麦であったり、
はたまた中華麺であったりする。
しかしご飯の場合は、ただ白飯を入れるのみである。
これはカニ鍋でも、ふぐちりでも、
スッポン鍋でも変わらない。
大方の場合は、スープの中の具材をきれいに引き上げ、
醤油などを使って味付けした後、
用意しておいた白飯を投入する。
ほとんどの場合、この上から
溶き卵などをかけ回してフタをする。
グツグツと、再び鍋が沸騰し、
土鍋のフタの縁から小さな泡が溢れ始めたら、
今回のテーマである「おじや」の完成となる。

この「おじや」というのは、不思議な言葉である。
言葉を聞いているだけでは、
いったいどこから「おじや」と名付けられたのか、
想像もつかない。
ただ、なんとなく「お」と「じや」に分けられるのかな?
なんて風に考えるくらいである。
この「お」は「お正月」の「お」であり、
「お餅」の「お」であり、
「お味噌汁」の「お」でもある。
これらの言葉は、「お」を抜いても充分に意味が通る。
「正月」、「餅」、「味噌汁」。
同じ調子で、「おじや」から「お」を抜くと、
「じや」ということになる。
……。
なんだ、「じや」って?

その語源をたどってみると、もっとも有名なものは、
宮中の女房言葉に端を発しているというものである。
つまり、雑炊を煮る音が「じやじや」と聞こえたため、
この音を、雑炊の「名前」に使ったというものである。

ここに疑問が生じる。
女房言葉が使われていたのは、宮中や院においてである。
はたして宮中や院において、
「雑炊」が食されていたのだろうか?

調べてみた限りでは、宮中において
「粥」を食べていたという記録は見えるものの、
「雑炊」を食べていた、という記録が見つからない。
ご飯にお湯などをかけた物も食べられていたらしいが、
これは冷やご飯を温め直す意味でやっていたことで、
やはり「雑炊」とは関係性がなさそうである。

そもそも、「雑炊」は炊きあがったご飯を、
ダシ汁、具材などと一緒に鍋の中に入れ、
炊き上げたものだ。
調べてみた所、これはハレの日(特別な日)ではない、
いわゆるケの日(普通の日)の食べ物であり、
いわゆる普通の「粥」に、増量剤として
野菜などを入れたものだ。
貴族は、ごく普通の日にでも「粥」を食べていた。
つまり、そもそも宮中で「雑炊」を食べること自体、
本当にあったことなのだろうか?
「雑炊」というのは、あくまでも庶民の普通の食べ物で、
女房言葉を使うような世界では、
食べられなかったのではないだろうか?
だとすれば、そもそも女房言葉で「雑炊」を
「おじや」と言い換えること自体、
ありえないということになる。

実は「おじや」の語源は、
この女房言葉説以外に、もうひとつ存在している。
それが、スペイン語で「鍋」を意味する言葉、
「オジャ」に由来しているというものである。
ここでいう「鍋」とは、鍋料理のことではなく、
料理器具としての鍋のことである。
スペインの鍋といえば
「パエリア」を思い浮かべる人が多いだろうが、
これと同じくらい人気のある鍋料理として、
「コシード」と呼ばれるものがある。
この「コシード」の原型になったといわれる料理に、
「オジャ・ポドリータ」というものがある。
深めの鍋に、ひよこ豆をはじめとする具材を入れて、
しっかりと煮込んだものなのだが、
この中にも米が入っているのだ。
16世紀、南蛮人が日本にやってきた際、
これらの料理を日本人の前で
作ってみせたのではないだろうか?
日本では、「米」が重要な穀物であることから、
その米を使った料理を作ってみせるというのは、
充分にあり得る話である。
そこで、日本人は南蛮人に、
料理の名前を尋ねたのだろう。
もちろん「パエリア」、
「オジャ・ポドリータ」の名前を答える。
しかし、日本人には「パエリア」「ポドリータ」という
純西洋風な言葉は使いにくく、
まだ比較的使いやすかった、「オジャ」の部分を、
「おじや」という風にして、使ったのではあるまいか?
その「おじや」が、やがて日本の雑炊をも
意味するようになっていった。
……。
さすがに自分でも、書いていて無理があると思う。
「おじや」の語源が、スペイン語にあるというのは、
面白い話だが、信憑性にはいささか「?」がつく。

せっかくなので、ここで自分なりの新説を
ぶちあげてみたい。

やはりポイントになるのは「じや」という言葉である。
ヒントはスペイン語説の「オジャ」だ。
これはスペイン語の「鍋」という意味の言葉だったが、
「おじや」=「鍋」という発想は近代のもので、
これを室町時代に当てはめるのは、間違っている。
自分にいわせれば「おじや」に近いのは、
スペインのパエリアなどではなく、中華粥である。
中国では、粥に様々な具材を入れて、
日本の「雑炊」に近いものを作り上げる。
もちろん、中国ではそれが普通の「粥」なのだから、
中華粥などという言い方はしない。
ただ「粥」というだけである。
そしてこの「粥」、中国語の発音では「ジョ」
もしくは「ジョオ」「ジョウ」となる。
どうだろうか?
「じや」に通じるものがないだろうか?

恐らくは、こういうことではないかと思う。
かつて、日本の僧侶が多数、
中国へ留学していた時代があった。
そうして留学を終えて帰ってきた僧侶は、
具材のたくさん入った「雑炊」を見て、
これは中国の「粥(ジョ)」のようだということで、
「雑炊」を「じよ」と呼んだ。
やがてこれが「じや」となり、
これに、宮中の女房言葉の典型である「お」をつけて、
「おじや」へと変わっていったのである。

我々日本人にとって「鍋」というのは、
まさに冬の料理の代名詞ともいえるものである。
必然的に、「おじや」を作る機会も増えてくる。
もし、次に鍋料理を作る機会があり、
締めに「おじや」を作ることになったのなら、
「その音」に耳を傾けてみよう。

ひょっとしたら「じやじや」と聞こえるかもしれない。
そうなると、スペイン説も自分の説も、
間違いということになる。

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