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歴史 雑感、考察

誘拐

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誘拐事件というのは、いつも突然やってきた。

もちろん、自分が誘拐されたとか、
知り合いが誘拐されたという話ではない。
子供時代、学校や親からは
「知らない人に声をかけられても、
 ついて行ってはいけない」
ということを、散々聞かされた。
多分、現代の子供達も聞かされているだろう。

幸いなことに自分自身、
そのような事件に巻き込まれることもなく、
また、知り合いが巻き込まれたという話も
聞くことはなかった。
ただ、不審者から声をかけられた、というような話は、
身近なところでも聞くことがあった。
この手の話は女児に多いのか、
少なくとも自分の身の上に
降り掛かって来ることはなかった。

だから自分が誘拐事件に触れるのは、
いつもTVか、新聞だった。
概ね、第一報はTVから伝わることが多かった。
夕方、いつものアニメや特撮を見ていると、
突然、画面が切り替わった。
大体どこかのオフィスの一画で、
背後にはデスクがたくさん並んでいた。
「報道フロア」という奴だろう。
画面の真ん中には、ネクタイを締めたアナウンサーが陣取り、
開口一番、こんなことをいう。

「番組の途中ですが、予定を変更し、
 ○○ちゃん誘拐事件について、報道します」

こちらはただ、ポカーンとするのみである。
さっきまでは、ウルトラマンと怪獣が戦っていたのだ。
カラータイマーが点滅を始め、
いよいよフィニッシュの光線技が、
繰り出されるはずだったのだ。
子供心が盛り上がった瞬間の、報道フロアである。
もちろん、その後、いくら誘拐報道を見ていても、
フィニッシュの光線技が炸裂し、
怪獣が大爆発するシーンが、放送されることはなかった。
仕方がないので、テレビのスイッチを切り、
台所の母親の所に行き、誘拐報道のせいで
番組が途中で終わってしまったことを告げると、
今度は母親が、いそいそとテレビのスイッチを入れていた。
どうも大人は、この手の事件性のある報道が好きらしい。

こんな書き方をしたが、
もちろん、「誘拐」は許すことの出来ない、
卑劣な犯罪である。
誘拐事件については、マスコミが「報道協定」を敷いて、
事件解決まで、あるいは報道の力によって
情報を集める必要がある時までは、
事件について一切触れない、ということになっている。
そんなの当たり前だろう、と思われるだろうが、
実は、昔はそういう協定など、何もなかったのだ。
この「報道協定」が制度化されたのは、
ある誘拐事件での手痛い失敗があったからである。

1960年5月、
東京で7歳の男子児童が誘拐される事件が起こった。
誘拐されたその日のうちに、
犯人から身代金を要求する電話があり、
誘拐事件であることが明らかになった。
両親はすぐに警察に連絡、
秘密裏に捜査が開始された。
犯人の指示に従い、何度か現金の受け渡しが試みられるも、
指定された場所に犯人は現れず、
以降、犯人からの連絡が途絶える。
誘拐から3日目、マスコミ各社が報道を開始するも、
これが過熱し、事件の詳細までもが報道された。
このため、犯人は精神的に追いつめられ、
人質であった男子児童を殺害してしまったのである。

後に犯人は逮捕され、男子児童の遺体も発見されるのだが、
この事件を期に、事件報道のあり方というものが見直された。
だが、近年は、インターネットの発達により、
ネット上に事件の情報が、流れてしまう事態も起きている。
個人からの情報流出の前には、
「報道協定」も全く意味を持たない。
全ては、情報を得た個人のモラルに左右されてしまう。

警察庁によれば、第2次世界大戦後に起きた
身代金目的の誘拐事件は、
2006年までに288件起こっている。
あくまでも「身代金」目的のものに限っているので、
他の目的の誘拐事件を合わせれば、
誘拐事件はこれに数倍する数が、
起きている可能性もある。
また、これは警察が把握している事件だけ
ということになるので、
実際には警察に通報されず、終わってしまった事件が、
存在している可能性は否定できない。
このうち、犯人が逮捕されていない、
いわゆる未解決事件は8件で、
この中には「グリコ・森永事件」の発端となった、
江崎グリコ社長誘拐事件など、
有名な事件も含まれている。
被害者が殺害された事件は、34件。
その被害者のほとんどが未成年である。
面白いことに、288件も誘拐事件が起きていながら、
犯人が身代金を手にしたケースは、1件もない。
ドラマなどで
「身代金の受け渡しの時が、犯人逮捕のチャンスだ」
なんていう台詞が出てくるが、
実際、この瞬間が犯人にとって、
もっとも危険な瞬間になる。
もしドラマの中などで、
誘拐犯が身代金を持って、まんまと逃げ延びれば、
それが日本の「営利誘拐成功第1号」ということになる。
(ドラマなどでは、わりとよく成功しているが……)

数多く起きた、日本の誘拐事件の中で1件、
少し面白い事件が存在している。
(被害者からすれば、不謹慎に思われるだろうが)
それが1985年、我が兵庫県で起こった誘拐事件だ。
芦屋市で幼児を誘拐し、身代金を要求してきた犯人が、
身代金の受け渡し現場でトラックにはねられ、
即死したという事件だ。
この事件では、高速道路のバス停に身代金を置かせておき、
犯人は反対車線のバス停から、高速道路を横断して
身代金を手に入れようとした。
しかし、時間は午後10時。
日は完全に沈んで、ひどく視界の効かない時間帯である。
そんな状況で高速道路を歩いて横断しようとしたのだから、
事故が起こっても不思議ではない。
追い越し車線を猛スピードで走るトラックにはねられ、
犯人は即死してしまった。
これには現場に張り込んでいた捜査員はもとより、
トラックを運転していたドライバーも驚いただろう。
本来、横断者などいるはずのない高速道路上で、
いきなり目の前に人が現れたのだから。
ともあれ犯人は死んだ。
他の事件ならば、
あるいはこれで事件解決となったかもしれないが、
この事件は誘拐事件だ。
犯人が死んでしまったことにより、
人質がどこに監禁されているのか、
わからなくなってしまったのだ。
死んだ犯人の持ち物などから、
犯人に共犯はいない、と判断した兵庫県警は
公開捜査に踏み切り、無事人質を救出した。
犯人逮捕は果たせなかったが、
人質を無事に救出したという点では、
捜査は成功したといえるだろう。

近年では、番組を中断して突然の誘拐事件報道というのも、
見なくなってしまった。
それだけ世間に様々な事件があふれ、
誘拐事件報道でも、視聴率が稼げないのかもしれない。
しかしTVでの報道は無くなったものの、
現在でも誘拐事件は、起こり続けている。

「知らない人に声をかけられても、ついていかない」

自分たちが子供のころ、散々聞かされた言葉であるが、
今度はこれを子供達に、
しっかりと言い聞かせなければならない。

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