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歴史 食べ物

ふりかけ

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朝食に、ご飯に梅干し、ということいなると、
そこはかとなく「貧」のイメージが漂う。

実際の所、江戸時代には梅干しは高級品であり、
これを食べられるということになると、
結構、贅沢な暮らしであったらしい。
確かに梅の木を庭に植えている、田舎の農家ならともかく、
都会で長屋暮らしをしている人間にとって、
梅干しは身近なものではなかったかもしれない。
現在でこそ、梅干しも大量生産され、
比較的安価に購入することも出来るが、
江戸の昔ともなれば、
全ての梅干しは手作業で作られていただろうから、
数も少なく、高級品だったというのもうなずける。

ご飯に塩鮭。
ご飯に納豆。
ご飯に海苔。
ご飯に卵。
ご飯に漬け物。
ご飯に佃煮。

どれも朝食の定番の組み合わせだが、
少なくとも「貧」というイメージはわかない。
決してリッチではないものの、
古き良き、日本の朝の食卓、という雰囲気である。

だが、ご飯にふりかけ、となるとどうだろう。
途端に「貧」のイメージがわいてこないだろうか?

ふりかけは、極めて安易な食べ物だ。
袋をあけて、バサバサとご飯の上にふりかけ、
そのままかき込むようにしてご飯を食べる。
非常にスピーディだ。
なんといっても、おかずに箸を伸ばす必要がない。
おかずはご飯の上にふりかけられているので、
そのままご飯と一緒に、かき込むように食べるだけだ。
忙しい朝には、最高の朝食といえる。

事実、我が家では子供時代、
朝食時には卵か?ふりかけか?という選択肢を
毎朝のように迫られた。
納豆もたまに用意されていたが、
納豆は1パックを2人で分けて食べていたので、
3人兄弟の我が家では、誰か1人、割りを食うことになった。
すなわち、3人兄弟のうち2人は納豆、
1人はふりかけか卵ということになるのである。
そんな中で、自分はかなりの頻度でふりかけを選択していた。

理由は簡単、それが一番手軽だったからだ。
納豆にはタレと辛子を入れて、かき混ぜる手間があったし、
卵もご飯に穴をあけたり、カラを割り、
醤油をたらしてかき混ぜるのは手間だった。
その点、ふりかけは袋をあけて、
バサバサとふりかけるだけで終わりである。
忙しい朝には、もっとも適した朝食であった。

ふりかけの歴史は、意外と浅い。
これが初めて作られたのは、
大正時代初期、熊本県でのことである。
日本人のカルシウム不足を心配した熊本の薬剤師が、
これを補うため、魚の骨を粉にして、
ご飯にかけて食べるという方法を思いついた。
このとき、原料となったのが、
カタクチイワシを煮て天日で干した「いりこ」である。
このいりこを粉末にして、さらに食べやすいように
胡麻や海苔などを加え、魚臭さを抑えた。
これは「御飯の友」という名前で商品化され、
現在でも販売されている。

つまり「ふりかけ」は、「おかず」、
「飯の友」として作られたのではなく、
むしろ「栄養補助食品」として作り出されたのだ。
そのためか、ふりかけは軍用食として採用される。
日本軍が戦場としていた
東南アジアなどの熱帯の地では、
それまで日本人が保存食としていた様々な副食も、
熱さのために傷んでしまったのだ。
そんな中、「ふりかけ」は、
暑さの中でも傷むことなく、
さらにカルシウムなどの栄養を取れるとあって、
軍隊で重宝された。
最近では、カルシウムなどの栄養を謳ったふりかけや、
緑黄色野菜の栄養を謳ったふりかけが販売されているが、
これらの栄養成分をウリにしている商品は、
もともとのふりかけの意義に近いものなのである。

面白いことに、誕生したばかりのふりかけには、
まだ「ふりかけ」というネーミングはついておらず、
商品名である「御飯の友」という名前で呼ばれていた。
そのためか、その後、各社から発売されるふりかけも、
「旅行の友」、「露営の友」など、
「~の友」というネーミングの商品が多かった。
「露営」というのは、野外に陣営をもうけることであり、
軍隊でよく使われる言葉だ。
初期のふりかけが、いかに軍隊と密接な関係にあったか、
その名前からも伺うことが出来る。

「ふりかけ」という名前が作られたのは、
昭和34年、全国ふりかけ協会が設立されてからのことで、
これを機に「ふりかけ食品」というジャンルが出来た。
ふりかけの誕生から、実に50年近く、
「ふりかけ」という言葉が存在しなかったというのは、
ちょっとした驚きである。

最近では米食文化の盛んな東南アジアの国々に、
ふりかけを輸出し、広めていこうという動きもある。
国際的な「FURIKAKE」である。

この、これ以上はないほどお手軽で、
そして意外なほどに栄養価の高い食品は、
これから新たな日本食として、
世界に広がっていくのかもしれない。

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