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羊羹

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羹(あつもの)にこりて、膾をふくという諺がある。

羹というのは、肉や野菜を入れたスープのことだ。

今でいえばごった煮、というよりかは豚汁にでも近いものだろうか。

膾というのは生の獣肉を薄く切って、酢にひたしたものだ。

「なます」という字には「膾」のほかに、「鱠」の字をつかうことがある。

この魚編の「鱠」は魚肉を薄く切って、酢にひたしたものになる。

これは今でいえばマリネだろうか?

どちらにしても「なます」というのは冷たい料理だ。

だからこの諺の意味は、現代風にいうと、

「豚汁を飲んだら熱くて火傷した、それ以来、マリネを食べる時にも

 口に入れる前に、フーフー吹くようになった」

というような感じになるだろうか。

ここで今回のタイトルにある、「羊羹」の意味を考える。

単純に考えれば、羊の肉を使った汁物、豚汁に対する羊汁とでも言おうか。

沖縄にはヤギ汁という料理があるが、それに近いものかもしれない。

言葉だけを冷静に考えれば、「羊羹」には菓子の雰囲気はまるでない。

一体どういう変遷を経て、現在のものになったのか?

調べてみたが、羊羹が日本に入ってきたとされるのは、

鎌倉時代、もしくは平安時代。

はっきりしない。

わかっているのは、禅宗と一緒に入ってきた、ということだけだ。

禅宗と一緒に入ってきたのなら、恐らくは鎌倉時代だろう。

それ以前にも、禅は日本に入ってきていたようだが、

しっかりとは根付いていなかったようだ。

とりあえず時代については、大体どの資料も鎌倉時代になっている。

そして日本に入ってきたときの羊羹が、羊汁らしきものであったということも、

どの資料でも共通している。

資料によれば、日本では肉食を禁じられていたので、

羊を使うわけにもいかず、いろいろと材料を工夫して今の羊羹の形になった、

というふうになっている。

その間の工夫の過程などは、見事にすっ飛ばされている。

羊汁と現在の羊羹は、形状的にも味的にも隔絶している。

一体どういう流れがあって、この変化が起こったのか?

これをどの資料も「工夫して」の一言で片付けている。

これではいくら何でも、納得できない。

いろいろと調べていくと、古い百科事典の中に、この間を埋める記述を見つけた。

それによると、もともとの羊羹はただの羊肉の汁ではなく、

羊肉を肝の形にして具にした汁だったらしい。

ひょっとすれば肝そのものも、具にされていたことがあったのかもしれない。

これが日本に入ってきた。

もちろん肉食禁止の日本だから、羊肉も羊の肝もつかえない。

だから小豆、山芋、小麦粉、くず粉を練ったものを、羊の肝の形にして、

汁の中に入れたらしい。

汁はタレ味噌の汁だったようだ。

だから羊汁というよりは、田楽に近かったのかもしれない。

後にこの羊の肝の代用品は、汁に入れずに供されるようになった。

これが現在の羊羹の原型らしい。

つまり羊羹はもともと、「羊の肝モドキ」だったわけだ。

ここでちょっと思い出してほしい。

これと似たようなことが、現代の我々のまわりで起こっていた。

そう、2012年にレバ刺しが、食べられなくなったときのことだ。

これをチャンスととったいくつかのメーカーが、

レバ刺しの代用品になる商品を開発した。

それらはこんにゃく粉でできていたり、ゼラチンでできていたりして、

見た目は血の色、つまり小豆色の着色料で色がつけてあった。

そう、何百年もの時代を経て、日本人は同じようなことをやったのだ。

小豆、山芋、小麦粉、くず粉で作られた「羊の肝モドキ」は

甘みがついていないだけで、蒸し羊羹とほぼ同じものである。

やがてこれに甘みがくわえられ、現在の羊羹に近づいていく。

天正年間(1573~91年)、

京都で寒天を使用した、練り羊羹が作られたといわれる。

が、これはおかしい。

寒天は1685年に京都伏見において、野ざらしになっていたトコロテンが

凍結、融解を繰り返し乾物になっているところを、発見されたのだ。

時代的に100年ほど矛盾している。

では、一体何を使って、練りようかんが作られたのか?

成分的に考えるのであれば、寒天、トコロテンの原材料であるテングサだろう。

だとすれば、かなり海藻臭い羊羹だったはずだ。

羊羹のあの色は、小豆を使った結果の色だ、と思っている人が多いだろう。

だが真実は違う。

あの色を出すために、小豆を使ったというのが正しい。

羊羹はアンコを使った和菓子、と思われている。

実は、自分もそう思っていた。

しかし羊羹は、アンコとは全く関係ないところで、小豆と出会っていた。

やがてこれに甘みがつくことで、アンコと同じになっていった。

ここに、なんとも奇妙な、和菓子の宿命のようなものを感じる。

羊羹は「羊の羹(あつもの)」という意味だと、最初に書いた。

しかし実際には「羊の肝」といえるものだった。

「羊肝」。

偶然ながら、読みは同じく「ようかん」のままだ。

やはり、不思議な宿命のようなものを感じる。

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