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食べ物

シカ~その2

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前回、シカについての記事を書いた。

しかし改めて見直してみると、ずいぶんと食べることにこだわった

記事になってしまった。

今回は、「食べる」ということから目を離して、

シカについて書いていきたい。

現在、日本のシカには、天敵というものが存在していない。

かつては、オオカミという捕食者がいたが、

これは20世紀初頭に絶滅してしまった。

オオカミのいなくなった後、シカを補食する動物は、

人間しかいなくなってしまった。

そして近年、高齢化によって、狩猟者も減りはじめている。

今、各地では、若手の狩猟者を確保しようと、躍起になっている。

頻繁に行なわれる、ハンター体験イベントなどは、その際たるものだろう。

かくして、日本に住むシカにとって、最後の捕食者であったハンターも

数的な意味では、絶滅しようとしているのである。

そうなってくると、当然、シカも増えはじめる。

最初は、あまり気にされていなかった。

しかし、確実に農業被害は増え続けていった。

農林水産省のデータによると、1989年には

10000haもなかった、シカによる被害面積が、

1994年には50000haに迫る勢いで増えている。

これ以降は、若干の上下はあるが、30000~50000haの間を

維持し続けている。

シカは、雑草が好きだ。

だから夜、里に下りてきたシカ達が、一番たくさん食べているのが

あぜ道に生えている雑草なのだ。

この雑草があまり生えてない場合、あるいは雑草の口直しとして、

シカは畑の野菜に手を出すのである。

農家にしてみれば、「なめとんのか!」と怒鳴りたくなるだろうが、事実だ。

あぜ道に生えている雑草については、いくら食べられても

被害という感覚を持たない。

しかし、シカにしてみれば、雑草を食べようが、野菜を食べようが

腹が膨れるのであれば、どちらでも構わないのだ。

昔は冬場になると、シカの食べる草が少なくなり、

相当数が自然淘汰されていた。

豪雪地帯では、まったく餌を食べることができなくなってしまう。

だからシカの棲息分布図を見ると、東北地方は意外なほどシカが少ない。

もちろん、東北地方以外でも冬になれば、餌になる草も少なくなる。

しかし人里に下りてくると、雑草も生えているし、農作物もある。

最近は、草刈り機がどこの農家にもある。

だからあぜ道や、法面の草が伸びてくると、四季を問わずに草を刈ってしまう。

それによって、雑草の新芽が生えてくることを促し、

それを目的としたシカを、人里へと誘導してしまっている。

こうして、それとは気づかぬうちに、

農家は自分自身の手で、人里にシカを近づけ、シカを生き延びさせているのだ。

こうなってくると、もうシカに敵はいないのだろうか?

オオカミは滅び、ハンターも滅びかかっている。

冬の寒さは温暖化で和らぎ、草刈りのおかげで冬でも草の新芽がある。

これだけの条件が揃っていては、増えるなという方が無理である。

増え続けるシカに、対策はあるのか?

実は増え続けるシカの数を押さえるために、オオカミを導入しようという

提案がなされている。

一般にはあまり知られてしないが、これはいざ実行するとなると

反発が大きいような気がする。

オオカミは確かにシカの数を減らすだろうが、人に害を及ぼす恐れもある。

というか、確実に被害は出るだろう。

さらに、生態系への影響を、懸念する声もある。

これらのことを考えると、容易には実現できないだろう。

ハンターの数を増やすにしても、一朝一夕にできるものではない。

はっきりいって、新たなハンターが、増える数よりも、

高齢になったハンターが、減る数の方が多いだろう。

だとすれば、総計的にはハンターの数は減っていくだけだ。

それに、この現代日本における、唯一のシカの天敵は、立場が弱い。

クマやイノシシなどの害獣を駆除しただけで、かわいそうだとクレームがつく。

シカだとよけいにそうだろう。

被害はえげつないが、そんなことをおくびにも出さない、あの平和な顔が曲者だ。

しかもシカは、人を直接襲わない。

人にあっても、ピョンピョン跳ねるように逃げていく。

わざとやっているのかと思えるほどに、狡猾にかわいらしい。

それに引き換え、ハンターは辛い。

銃を持って人目につく所をうろついていると、警察に通報されることもある。

獲物を解体している所を見られると、まるで山姥でも見るような目で見られる。

間違って人でも誤射すれば、それこそ人殺しとして、ののしられる。

まあ、これは弁解のしようもなく、人殺しなのだが。

ここまでを見ると、シカ捕獲は、はかどっていないような印象を受ける。

実は、全国で年間20万頭以上のシカが捕獲されている。

問題はそのほとんどが、廃棄されてしまっていることだ。

肉になっているシカというのは、実は極めて稀なのだ。

これはいかにも、もったいない話だ。

食肉としても、皮などの利用にしても、まだまだシステムが出来上がっていない。

これではシカ達は、全く無駄に殺されているにすぎない。

もっとも殺されるシカの側からすれば、

その死体を利用されようと、されまいと無念には違いない。

恐ろしいのは年間20万頭も駆除されながら、シカは増えているということだ。

草食動物というのは、肉食動物に比べると繁殖力が強い。

それは肉食動物に補食されるため、種を残すために必要だったからだ。

今、その補食が無くなり、シカはただ増えるだけの存在になった。

この先、抑えのなくなったシカはどこまで増えていくのか?

日本中の草を、野菜を、樹皮を、果物を食べ尽くしてしまうのか?

いつかこの平和な顔をした動物は、日本人の天敵になるのかもしれない。

それに対する有効な手段は、今の所、ない。

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