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隆慶一郎

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時代小説、というジャンルがある。

厳密にいえば、時代小説の中にも細かいジャンルがあるが、

今回はそこまで踏み込まない。

主に日本の過去を描いた小説、と捉えてもらうといい。

この時代小説は、大きく2つに分けられると思う。

ひとつは、実在の登場人物を主人公としたもの。

もうひとつは、架空の人物を設定し、それを過去に時代に当てはめたものだ。

ただ後者の場合も、話にリアルさを出すために、

実在の人物を登場させることもある。

今回紹介する隆慶一郎は、その両方を書く作家だ。

彼の書く小説の舞台は、そのほとんどが安土桃山時代から江戸初期にかけてだ。

もちろん例外もあるが、隆慶一郎の小説は、

そのほとんどが、この時代を描いたものだ。

それぞれの時代において、きっちりと取材をし、

それを元にしてストーリーを組み上げていく。

こう書けば、比較的オーソドックスな小説家のように思える。

ただ、隆慶一郎の小説には、伝説上の人物と思われるキャラクターが、

極当たり前に出てくる。

例を挙げれば、風魔小太郎や猿飛佐助などである。

隆慶一郎は彼らを、歴史の表舞台に出なかった、

流浪の自由人達として描いている。

山禍、傀儡師、公界人などは、隆慶一郎の小説を読めば、いくらでも出てくる。

これらのキャラクター達はいかにも怪しく、そして魅力的だ。

隆慶一郎自身、「あの連中は面白い」と言い切っている。

よほど気に入っているようだ。

隆慶一郎の小説で、一番知られているのは「一夢庵風流記」だろう。

これは戦国時代の傾奇者、前田慶次郎を描いた小説だ。

原哲夫の漫画、「花の慶次~雲のかなたに~」の原作になった。

週刊少年ジャンプに連載されたこの漫画によって、「前田慶次」の名前は

一気に有名になり、同時に「傾奇者」、「かぶく」といった言葉も

一般に知られるようになった。

だが、「一夢庵風流記」と「花の慶次」はストーリーの細部が

かなり異なっている。

少年漫画ということを意識したためか、主人公の前田慶次郎がかなり若々しく

描かれていて、原作を知っている者には、違和感を感じさせる。

もっとも、だからといって面白くない、などということは無く、

どちらも同じように、面白く読んでもらえるだろう。

隆慶一郎のひとつの特徴として、未完成の作品が、かなり多いことがあげられる。

もともと池田一朗の名前で脚本家をしていた彼は、

60歳を越えてから小説家になった。

何でも、彼の師匠にあたる人が生きている間は、恐ろしくてとても小説など

書けなかったと言う。

一体、どんな師匠だったのだろうか?

老境に入り、ようやく小説を書き始めた隆慶一郎だが、

その小説家人生は、病没によって、わずか5年ほどで終わりを迎える。

そのためかなりの数の作品が、未完で終わってしまった。

「花と火の帝」、「見知らぬ海へ」、「死ぬことと見つけたり」、

「風の呪殺陣」などは、全て未完成のまま終わっている。

どれも隆慶一郎らしい作品ばかりで、そのストーリーを最後まで読めないのは

非常に残念なことだった。

なお「死ぬことと見つけたり」は、文庫本の最後に幻の最終話のプロットが

掲載されていた。

さて、隆慶一郎の小説をひととおり読むと、ある傾向を見いだすことができる。

柳生一族と徳川秀忠がいくつかの作品で、敵役にされている。

「影武者徳川家康」、「捨童子松平忠輝」、「花と火の帝」などである。

この長編3作品では、柳生一族と徳川秀忠が悪役として描かれている。

徳川秀忠などはどの作品でも、気の毒なほど小心者で小狡く、

劣等感の塊で、無能力な人間として描かれている。

その秀忠が柳生一族と結託して、悪事を企み、主人公に散々にやられる。

隆慶一郎の作品の主人公は、そのどれもが能力、人格共に秀でた超人であり、

秀忠はその真逆のキャラクターとして、主人公の宿敵となる。

秀忠も柳生も、毎回毎回、惨めで手ひどい敗北の連続だ。

そりゃ、そうだろう。

相手はどれも、前田慶次郎並の超人ばかりで、すばらしい仲間が山ほどいる。

そんな主人公に賢明に悪だくみを仕掛ける秀忠&柳生。

能力的にも人格的にも、まるで勝てない。

気の毒なほどに、ぼろ負けする。

それでも懲りずに悪巧みを企てる。

またぼろ負けする。

この繰り返しだ。

何度も作品を読み返していると、ふと、この惨めな悪役に情が湧く。

隆慶一郎作品の主人公はどれも、男の理想像を描いたような超人だが、

この惨めな悪役は、いやというほど現実的な、自分自身だ。

毎回手ひどくやられるのに、決して諦めずに超人達に立ち向かう。

その姿を見ていると、全くどうしようもない悪党なのに、

ちょっとがんばれ、という気になってしまう。

ひょっとしたら、隆慶一郎本人も、秀忠&柳生が好きなのかもしれない。

柳生一族に関して、隆慶一郎は何本も短編を書いている。

この中では柳生の剣士の、かっこいい生き様を描いている。

しかし自分はやっぱり、秀忠にふり回され、オロオロ、オタオタしている

柳生宗矩が一番好きだ。

隆慶一郎の作品には、大長編のシリーズ物が無いので、

ささっと読み切ってしまうことができる。

痛快かつ、爽やかな男の生き様を楽しみたい人に、おススメだ。

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