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日本五大名飯〜深川飯

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かやく飯」「忠七飯」と日本五大名飯を1つずつ紹介してきたが、
いよいよ3つ目となる今回は、「深川飯」を取り上げる。

日本五大名飯の1つ「深川飯」は、東京都江東区深川の
地名を冠したご飯料理である。
昭和の中ごろまでは、深川にも漁師がいて漁をしていたというから、
その地名を冠した料理が、海産物を用いたものであると想像するのは難くない。
事実、現在作られている「深川飯」は、
アサリのむき身をメインの具材においた料理である。

調べてみた所によると、「深川飯」の定義は
『アサリ、ハマグリ、アオヤギなどの貝類と、
 ネギなどの野菜などを煮込んだ汁物を米飯にかけたものや、炊き込んだもの』
ということになっている。
前回紹介した「忠七飯」と比べてみると、
ずいぶんと幅のある調理方法である。
ただ、大きく大別するのであれば、汁物をご飯にかけた「汁かけ飯」タイプと
具材をご飯と一緒に炊き込んだ「炊き込み飯」タイプの2つの様だ。
飲食店などで供されている「深川飯」には「汁かけ飯」タイプと
「炊き込み飯」タイプが半々ほどだが、
駅弁など弁当形式で販売されている「深川飯」では
「炊き込み飯」タイプが圧倒的に多い。
両者に共通する点といえば、具材に何らかの貝類を用いていることだろうか。
調べてみた所では、アサリのむき身を用いているものが多かった。
味付けに関しては、「汁かけ飯」タイプは味噌、
「炊き込み飯」タイプは醤油というパターンが多かったが、
こちらの方に関しては、それなりに融通を効かせているものもあった。
もちろん、弁当形式をとっているものではアサリなどの他に
煮アナゴを入れるといった工夫をしている所もある。
さすがにただの「アサリの炊き込み飯」というだけでは
客へのアピールが弱いということだろうか。
「深川飯」という名前で販売されることが多いようだが、
その実は、アサリを炊き込んだ「炊き込み飯」なので、
よくよく探してみれば、わりと同じようなものは全国あちこちにある。
それらでは「深川飯」という名前は使われず、
それぞれに別の名前を名乗って販売されている。

この「深川飯」、もともとは深川の漁師が漁に出た際、
舟の上で作る賄い飯であったらしい。
捕れた獲物をみそ汁の中にぶち込み、それをご飯にかけ回して食べたそうだ。
だとするならば、もともと「深川飯」とは
「汁かけ飯」タイプであったことになる。
ではどうして「炊き込み飯」タイプが作られるようになったのか?
実は、「炊き込み飯」タイプの「深川飯」を食べていたのは
漁師たちではない。
大工たちである。
彼らは仕事場である建築現場で、賄い飯を作ったりはしない。
何故なら、最初から弁当を持ってくるからである。
弁当として持ち運ぶことを考えた場合、「汁かけ飯」タイプだと
色々と都合が悪い。
そこで彼らは、あらかじめ飯と一緒に具材を炊き込んでおき、
これを弁当箱に詰めて、仕事場へ持っていった。
これが「炊き込み飯」タイプの始まりだ。
どちらともに共通しているのは、
どちらも職人の昼食であったということだろうか。
(漁師の場合、昼食とは限らないが……)

しかし、冷静にこの事実を見直してみると、少しおかしい所がある。
そう、舟の上で漁師がこれを作ったという所だ。
鍋や七輪、調味料を持ち込めば、船上でも簡単な調理が出来るので、
その点については良い。
問題は、その具材として使われたのが、アサリだったという点だ。
考えてみれば、アサリは砂抜きしないと食べられず、
(無理をすれば、食べられないことも無いのかも知れないが……)
なおかつ、食べる際には1つ1つ、殻から身を外さねばならない。
考えてみて欲しい。
舟の上にあるのは、獲れたばかりのアサリ。
もちろん、殻はついている。
これをそのままみそ汁にぶち込み、それを飯の上にかけたとしたら、
ご飯に大量の殻付きアサリがかかることになる。
食べる際に、これを1つ1つ殻から外すような面倒なことは、
食べ辛くてとてもやっていられるものではない。
だとすれば、みそ汁に入れる前に一度蒸すなり茹でるなりして口を開けさせ、
1つ1つ、殻から身を外す作業をしないといけないが、
賄い飯にわざわざそんな手間をかける漁師がいるわけがない。
不思議に思って調べ直してみた。
すると、もともと「深川飯」に使われていた貝はアサリではなく、
アオヤギ(バカガイ)であったという話が出てきた。
アオヤギはアサリに比べると、かなりサイズが大きい。
こちらなら3〜4個ほどで、十分なオカズになる。
さらにアオヤギは殻が薄くてもろいので、身を取り出すのも簡単だ。
3〜4個、殻を壊して身を取り出し、みそ汁に放り込むだけなら
さして手間もかかるまい。
明治26年に発行された『最暗黒の東京』という本には、
「深川飯……是はバカのむきみに葱を刻み入れ熱烹し、
 客来たれば白米を丼に盛りて其の上へかけて出す即席料理なり。
 一椀同じく一銭五厘 尋常の人には磯臭き匂ひして
 食うに堪えざるが如し」
と書かれている。
これによれば、明治26年ごろには「深川飯」を店で出すこともあったらしい。
そのころになってもまだ、アサリではなくアオヤギ(バカガイ)が
用いられていたようだ。
それにしても、「尋常の人には磯臭き匂ひして、
食うに堪えざるが如し」とは、なかなかにひどい評価である。
恐らくこの後、店で供されるうちにアオヤギ(バカガイ)ではなく
アサリのむき身が用いられるようになり、それが定着していったのであろう。
店で出す分には、アサリを殻から外す手間を惜しむようなこともないだろうし、
その後、アサリを使った「深川飯」が一般化した所をみると、
味の面でもアオヤギ(バカガイ)をつかったものより、
優れていたのかも知れない。

この「深川飯」については、一度だけ自作してみたことがある。
アサリのむき身とネギのみそ汁を作り、ご飯にかけてみたのである。
結果はちょっと微妙な味であった。
アサリとネギのみそ汁を作る時点で味を決めてしまったため、
ご飯にかけ回した際、全体の味が薄くなってしまったのだ。
「深川飯」にするためのみそ汁を作るのであれば、
後でご飯にかけることも考えて、少し濃いめの味付けにしなければならない。

この「深川飯」に関しては、そのうちリベンジしてみるつもりである。

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