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クワガタムシ〜その2

更新日:

クワガタムシは、カブトムシと並んで、非常に人気の高い昆虫である。

一般的に子供はカブトムシを好み、
大人(マニア)はクワガタムシを好むというが、
少なくとも自分が子供のころ、クワガタムシの人気は
明らかにカブトムシのそれを上回っていた。
恐らく、日本国内において代表的なヤマトカブトムシ以外、
ほとんど採れないカブトムシと違い、
様々な品種の採れるクワガタムシの方が、子供心をくすぐったのだろう。

日本人は昆虫が好きだ。
子供のころに昆虫採集をしたことのある人は多いし、
大人になっても、様々な昆虫を飼育している人がいる。
日本人の昆虫好きは、海外のメディアでも、度々話題になるそうである。
今回のテーマである「クワガタムシ」にしても、
この虫を好んで飼育するのは、日本人だけだという。

どうして日本人は、こんなに昆虫を好むのか?という点については
今回は置いておくとしても、虫好きの日本人は
国内の昆虫を飼うだけでは飽き足らず、
外国の珍しい様々な昆虫を輸入して、これを飼育しようとする。
以前に取り上げた「外来魚」も、
同じように海外から輸入されたものであるが、
あれらの大半は昆虫のように飼育する(ペットにする)ために
持ち込まれたものではなく、食用にするため持ち込まれたものである。
だが、この昆虫に関しては、完全にペットにするのが目的であろう。
(調べてみた所、自衛隊のサバイバル訓練の中には
 「昆虫の食べ方」なるものも存在しており、
 そこにはクワガタムシ(幼虫・成虫とも)の食べ方も
 記載されているらしい)

もともと「クワガタムシ」は、自然の中で生息している成虫を捕獲し、
これを飼育するというのが主であった。
早い話、自分が子供のころ、やっていたスタイルである。
記憶が確かならば、当時、カブトムシだったかクワガタムシだったかを
幼虫の状態で捕まえてきて(腐敗したオガクズや、朽ち木の中を探すことで
これらの幼虫を捕まえることも出来た。もっとも、その幼虫が
一体、何の昆虫の幼虫であるかの判別は難しかったが……)
これを飼育し、サナギの状態を経て成虫へと育てる
飼育スタイルもあったのだが、これをやっているのは本格的なマニアだけで
自分の周りの子供たちについては、ほぼ100%、
山で成虫を捕獲して来ていた。

この状況が変わったのが、1990年代の中ごろである。
このころ、菌糸によるクワガタムシの幼虫の飼育法が確立し、
瓶詰めにされた幼虫のエサが流通し始めたのだ。
これによって成虫を産卵させて、さらにその卵を孵化させ、
次の世代を誕生させるという累代飼育、つまりは養殖で言う所の
完全養殖が可能となったのである。
さらにこの方法を使えば、自然界には存在しないほどの
大型の個体を飼育することも可能であった。
幼虫時代からの完全な飼育が、これを可能としたのだろう。
これにより、クワガタムシのファンは一気にその数を増すのだが、
1999年、これを後押しするような出来事が起こる。
農林水産省が、突然、外国産カブトムシ・クワガタムシの輸入禁止を
一部解除して42種類のクワガタムシの輸入を認めたのである。
さらにこの輸入禁止解除はこの後も続き、
2008年にはなんと700種以上のクワガタムシの輸入が
解除されたのである。

この一連の動きの「元」となったのが、
1995年に設立されたWTO(世界貿易機関)である。
これは自由貿易を促進させようという国際機関で、
これによって国際的なモノの動きはより活発なものとなり、
生物などもその煽りを受けて、輸入の自由化が進められたのである。

こうなると、もう、ブームは加熱する一方である。
ショップは乱立し、希少な種は高値で取引され、
さらには投機目的のクワガタムシ飼育まで行なわれるようになった。
現在の「生物多様性の保全」という観点から見れば、
まさに噴飯ものと言っていい状況だろう。
年間100万匹以上の外国産クワガタムシが輸入され、
それらがペットや投機対象として、日本中に散らばっていった。
もちろん、それらの中には逃げ出したり、捨てられたりすることによって
野に放たれるものも相当数いたはずである。
それらは、上手く日本の自然に馴染めず、死んだものも多かっただろうが、
中には日本の在来種と交雑することによって、
自らの子孫を残したものもいたのである。
当然、これについては当時の学者からも警告がなされていたのだが、
すでに日本には大量の外国産クワガタムシが
輸入されてしまっているという現状であった。
そこで当時の環境大臣は、クワガタムシを飼っている子供たちに対し、
「クワガタムシ捨てないで、逃がさないでキャンペーン」を行ない、
啓蒙活動を繰り広げることになった。
その成果?なのかどうかは分からないが、
幸いにして現在の所、外国産クワガタムシが日本国内において大繁殖し、
在来種を脅かすというようなことは起きていないようである。
ただ、自然に放虫されたクワガタムシたちと
もともと日本に生息していた在来のクワガタムシとの間に交雑が起こり、
遺伝子のかく乱が起こっているようである。

さて、ここまで書いた問題は、日本国内での問題である。
だが問題は日本だけで起きていたわけではない。
日本の大量輸入に対し、これを輸出していた各国でも
深刻な問題が起こっていた。
輸出用に大量のクワガタムシを必要とするため、
原産各国において、深刻な乱獲が発生したのだ。
これらの原産国の多くは、熱帯雨林を有する東南アジアの国々で
開発途上国である。
貧しい国といってもいいだろう。
そんな国に、そこら辺の森の中にいる虫を捕まえて日本に売れば、
高値で買い取ってくれるという話がやって来たのである。
クワガタムシなど小さな虫だし、これを捕まえるのに特別な道具もいらず、
元手など、ほとんどかからないといっていい。
人々はこぞって森に入り、クワガタムシを捕まえた。
その際、熱帯雨林の木々が削られたり、切り倒されたりすることによって、
貴重な自然が破壊された。
現地の人の中には、クワガタムシを売ったお金で家を建てたり、
車を買った人なども現れた。
いかに大量のクワガタムシが乱獲されたのか、
これらの例を見るだけでも推し量ることが出来る。
やがて日本のクワガタブームも沈静化して、
そこまで極端な乱獲が行なわれることは無くなったらしいが、
それでもこのクワガタブームが、
原産国の森林にダメージを与えたのは事実である。

最近では、我が家の周りもすっかり宅地化されてしまい、
かつての「穴場」なども、すっかり消えてなくなってしまったが、
それでもまだまだ近隣には、
カブトムシやクワガタムシのいそうな山は残っている。

これらを捕まえようという子供たちは、
果たして現代にも残っているのだろうか?

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