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スイートポテトはどこから来たのか。

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日本で「イモ」といえば、ジャガイモかサツマイモだ。

里芋は、明らかにこの2つよりマイナー感があるし、
山芋に至っては、さらにマイナーである。
前に書いた「キクイモ」などは、マイナーどころか
全くの無名といっていい。

スーパーで、もっとも販売スペースを取っているのが
ジャガイモで、サツマイモはこれに次ぐ。
さあ、お前等、俺を使って存分に料理しろと、
いわんばかりの自信にあふれて、陳列されている。
里芋と山芋は、この2つのイモにおされ、
野菜売り場の隅の方で、どうか使ってやってくださいと、
いわんばかりの様子である。

世界的に見てみると、少し様子が変わってくる。
相変わらず、ジャガイモが世界トップの生産量を
誇っているのには違いないが、
サツマイモのシェアが、落ちるのである。
ジャガイモの生産量は3億2500万t、
サツマイモはそれに比べて3分の1ほどの、
1億605万tである。
生産量ランキング的に見ても、
ジャガイモが世界第1位であるのに対し、
サツマイモは第3位に後退している。
では、第2位にどんなイモが入っているかというと、
キャッサバと呼ばれる、熱帯のイモである。
こちらはほぼ、アフリカ、アジア、南アメリカなどで
主食として消費され、日本では姿を見かけない。
ただ、デザートなどに使われるタピオカは、
このキャッサバから作られている。

第3位に落ちたとはいえ、
サツマイモは全世界で1億t以上、生産されている。
その80%以上を生産しているのが中国で、
中国ではそのほとんどを、アルコール醸造に使っている。
そういう意味では、数字に比べると、
「食べ」られているサツマイモの数は、
かなり少ないということになる。

日本では、サツマイモは、
もともと飢饉に供えた救荒作物であった。
江戸時代に中国より、沖縄を経て鹿児島へと持ち込まれ、
「カライモ」、「サツマイモ」などと呼ばれた。
サツマイモは栽培が簡単で、痩せた土地でもよく育つ。
1732年の享保の大飢饉において、
西日本が深刻な食料不足に陥る中、
瀬戸内海の島々の中で唯一、
サツマイモを栽培していた大三島では、1人の餓死者も出さず、
余った食料を他にまわせたほどだった。
そういう経緯もあって、以降はサツマイモの栽培が奨励され、
その栽培区域は全国的に広がっていった。

そんなサツマイモを、洋菓子として加工しているのは、
日本だけである。
これはなんともおかしな話だ。
……いや、シャレではなく。
サツマイモの菓子加工には、大学芋、きんとん、
干し芋など、菓子としての加工が目立つ。
もちろん、天ぷらなど、総菜としての加工もあるが、
やはり、日本人はこれを菓子として見ている所がある。
そんなサツマイモは、明治時代以降、
洋菓子の材料としても用いられるようになった。
その最たるものが「スイートポテト」である。

実は、サツマイモは英語でスイートポテトと呼ばれている。
つまり「甘いジャガイモ」と言うわけである。
アメリカでは、イモの種類が少なく、
そのほとんどがジャガイモで、わずかにサツマイモがある。
里芋や山芋、キャッサバなどは、まず見られない。
つまりイモ=ジャガイモであり、
甘いイモ=甘いジャガイモとなるのだ。

話をお菓子に戻そう。
「スイートポテト」が初めて作られたのは
明治20年のことだ。
もともとは、サツマイモに鶏卵と砂糖を混ぜ、
サツマイモの皮に盛って料理としていたが、
これを小さく作り、表面に卵黄を塗ったものが、
菓子として作られた最初であったという。
どこの誰が作ったのか?という点については、
全くわからなかった。
年代が細かくわかっている以上、
ある程度、初めて作られた場所ぐらいは、
わかっていないとおかしいのだが、
そういう情報は見当たらなかった。

だからここからは、推測になる。
スイートポテトの作られる前に、
栗をつぶして砂糖を混ぜ、
これを丸めた「栗金飩(くりきんとん)」があった。
少なくとも、「栗金飩」の文字は
室町時代の文献に出てきているし、
そのころにはすでに作られていたものと思われる。
イモと栗、牛乳やバターを使わない、
卵黄を使わないという違いはあるものの、
スイートポテトと栗金飩は、かなり似通っている。
ちなみにお節に入っている「栗金団(くりきんとん)」は
名前と材料こそ同じであるが、形状が全く違い、
別物であるといっていい。
この「栗金飩」をもとにして、
スイートポテトは作られたのではないか?

「栗金団」の方では、栗を包むのに
サツマイモで作った餡を使うことがある。
つまり、そういうことが出来るほどに栗とサツマイモの
親和性は高いのだ。
ならば「栗金飩」をサツマイモで作るという発想は、
極めて自然な発想だ。
そこからスイートポテトの発想が生まれたのだろう。

そう考えると、恐らくは「栗金飩」を知る洋菓子職人が、
サツマイモを使った料理をもとにして、
同じものをサツマイモで作ろうとした、と考えられる。
ただ、「栗金飩」には鶏卵は含まれていない。
そのため、とりあえず、
サツマイモの中に鶏卵を混ぜ込むのを止め、
元の料理の名残として、
卵黄を塗って焼くことにしたのではないだろうか?
やがて、洋菓子の材料である牛乳やバターを入れ、
「栗金飩」との違いを強調したのだろう。
安価な材料を使い、
どことなく和菓子の雰囲気を持った洋菓子。
このころはまだ、スイートポテトの名前は
無かったかもしれないが、
後に様々なサツマイモ系のお菓子を生み出す、
土壌になったのではないだろうか。

スイートポテトは、丁寧に作るとなると面倒だが、
その手順は、かなり省略することが出来る。
茹でたサツマイモをつぶし、
これに砂糖、牛乳、バターを混ぜ、成形し、
表面に卵黄を塗って、オーブントースターで焼けば、
わりと簡単に作ることが出来る。
したがって、小さな子供と一緒でも作ることが出来るし、
芋の成形は、粘土遊びに通じる楽しさがある。

この、日本で生まれた、ホックリと甘い洋菓子は、
まさに家庭のオヤツ向けのスイーツだ。

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