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カワハギ

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世の中に、ウマい魚というのはいくらでもいる。

タップリと脂ののったウナギやブリ、サンマサバなどは
上手く焼き上げるとホッペタが落ちそうなほどウマいし、
同じように網目状にサシの入ったマグロなどは、
刺身で食べると口の中でとろけてしまうようにさえ感じる。
ブリなどは大根といっしょに煮込んでもうまいし、
サバを味噌でじっくりと煮込めば、それこそご飯が何杯でも食べられる。

それぞれの魚には、それぞれの持ち味があり、
単純にそれらを引き比べて、どの魚が一番ウマいか?なんてことを
決めるのは、本来であれば全く意味のないことである。
ただ、そうはいっても、個人的な事情や思い入れもあり、
大方の人は、自分にとって1番ウマい魚は「○○」だ、という魚を
それぞれに持っているだろう。

自分の場合、その一番ウマい魚にあたるのが「カワハギ」である。

人によっては、ずいぶんミョーな魚を選んだなぁと、
呆れる人もいるかも知れない。
しかし、自分にとって、これまでに食べてきた魚の中で
そのウマさに驚いたのは「カワハギ」が一番であり、
特にそのキモのウマさに関しては衝撃的ですらあった。

自分と「カワハギ」の出会いは、決して良好なものではなかった。
自分が生まれて初めて「カワハギ」という魚を知ったのは、
釣り船の上でのことである。

こういう風に書くと、ああ船で「カワハギ」釣りに行ったんだな、と
思われるかも知れないが、そうではない。
自分がそのとき、釣りに来ていたのはメバルであった。
船の上から小エビをエサにつけた胴付き仕掛けを落とし、
底をとってから少しだけ巻き上げ、メバルが喰ってくるのを待つ。
メバルが喰ってくれば、竿先にアタリが出て、リールを巻き上げる。
そういうシンプルな釣りだったのだが、
釣りを続けているうちに、アタリもないのに
エサが無くなってしまうようになった。
エサの小エビは、尻尾の先から針を通し、体の中を通してあるので、
ちょっとやそっと揺れたとしても、自然に外れることは考えられない。
不思議に思っていると、一緒に釣りに行っていた父親が、
「エサ取りが出たな」というのである。
なんでも、エサをついばむようにして食べる「カワハギ」という魚がおり、
これがエサを食べても、竿先にはほとんどアタリが出ないという。
その後、連続してエサ取りにエサをかすめ取られ、
すっかりやる気をなくしていた所、仕掛けをあげようとリールを巻くと
何やら魚がかかったらしく、竿先が引き込まれた。
久しぶりに釣れた魚に、気を良くして釣り上げてみると、
針にかかっていたのは、なんともミョーチクリンで不細工な顔の魚である。
どうも、この不細工な顔の魚が「カワハギ」であるらしい。
結局、その日はたくさんのメバルと、何匹かの「カワハギ」を
釣って帰ることになった。

「カワハギ」は、フグ目カワハギ科に分類される海水魚である。
縦に平べったい体をしており、手で掴んでみても魚独特のヌメリは
あまり感じない。
どちらかといえばザラザラとした感触の体表で、
一見した所、ウロコのない魚の様にも思えるのだが、
実は「カワハギ」のウロコは棘状になっており、
触ったときに感じるザラザラとした感触の原因が、このウロコなのである。
頭の上には角状の棘が1本生えていて、
小さなおちょぼ口が、前方へグッと突き出ている。
どうも、この突き出たおちょぼ口が、
その面相を剽軽なものにしているようだ。
色は青灰色であったり、褐色であったり様々で、
個体によってはこれにまだらや縦縞などの模様が入る。

「カワハギ」の皮はかなり丈夫で、
「カワハギ」の体を外敵から守っているのだが、
いざ、これを料理するということになった場合、
驚くほど簡単に皮を剥ぐことが出来る。
その特徴から「皮剥ぎ」がそのまま「カワハギ」ということになった。
別名も数多くあるのだが、その中でも特に多いのが
「ハゲ」と「バクチ」という名前を含んだものである。
(それぞれ「ハゲ」「バクチ」だけで、名前として成立している所もある)
「ハゲ」の方に関しては「剥ぎ」が変化したものなのだが、
「バクチ」というのは、ちょっと意味が分からない。
実はこれは、「カワハギ」の皮がキレイに剥げる様が、
博打に負けて身ぐるみを剥がされる様に似ていることから、
つけられた名前である。
この他、変わった別名として「ウシヅラ」というものがある。
漢字で書けば「牛面」である。
これは「カワハギ」の仲間で、より口が長く突き出ている
「ウマヅラハギ」に比べて鼻先がさほど突き出していないため
「ウシヅラハギ」ということになったのだが、
そのうちに「ハギ」の部分が無くなってしまって、ただ「ウシヅラ」とだけ
呼ばれるようになったものの様だ。

日本国内では、青森県から九州南岸にかけての
水深100mよりも浅い砂地などに生息しており、
日本海、太平洋沿岸のみならず、瀬戸内海にも広く分布している。
夏と秋に旬が2回あるのだが、夏の旬には身が、
秋の旬にはキモがウマくなる。
先にも書いた通り、小さな口で器用にエサを食べ、
釣り針についたエサを、アタリも感じさせずに食べてしまうため、
エサ取り、エサ取り名人などと呼ばれることもある。
他の魚を狙っている場合には、非常に厄介な外道ということになるのだが、
逆にその釣り難度の高さから、「カワハギ」を専門に狙う釣り師もいる。
ゲーム性が非常に高く、この釣りの上手い人は「カワハギ」師などとも
呼ばれる。
身は白身で歯ごたえがありるが、脂肪分は少ない。
この辺りは、同じフグ目の仲間のフグと、性質が似通っている。
一方のキモは、脂肪分をタップリと含んでいてコクのあるウマさだ。
その濃厚な味わいから「海のフォアグラ」と呼ばれることもある。
近年では養殖も行なわれており、中にはキモを特に大きく成長させた
「フォアグラハギ」と呼ばれる商品も作られている。

さて、冒頭に書いた船釣りで釣れた「カワハギ」だが、
こちらの方は持って帰って、ちり鍋にして食べることになった。
正直、船上ではメバル釣りの外道として扱われていたため、
味の方も大したことがないんだろうと思い込んでいたのだが、
実際に食べてみると、今までに食べたことがないほどウマい魚で、
釣りのメインであったメバルの煮付けよりも、
ずっとウマかったのを覚えている。

後にスーパーの鮮魚コーナーなどで
「カワハギ」を見かけることもあったのだが、
やはりウマいだけあって値段も高く、実際に買ってみたことは
数えるほどしかない。
それらにしてみても、やはり最初に食べたときほどのウマさは感じず、
肩すかしを食う結果ばかりであった。

やはりあのウマさは、自分で釣った鮮度の良いものを
新鮮なまま料理してのものらしい。

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