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処刑〜その2

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人体にとって、「首」というのは、
それ自体が重要な働きをしている器官ではない。
ただ、その細くくびれた部分の内部には、
人体の活動、生命維持に必要な重要なラインが、ギュッと集中している。
空気を取り入れるための気道、食物を取り入れるための食道、
血液の流れる血管、各種の神経などである。

血管や神経などは、首以外の部分にも存在しているが、
首に存在しているこれらは、他の部分よりも重要な意味をもっている。
仮にここで神経が切れてしまえば、体は一切動かなくなるだろうし、
ここの血管が詰まったり、切断されてしまえば、
人間はかなりの高確率で命を落とすことになる。
これは、首の先についているのが「頭」という
人間にとって最重要な部位だからである。
首の神経が切れてしまえば、頭からの指令が体に伝わらなくなるし、
首の血管が切れてしまえば、頭(脳)への血流が止まってしまう。

それだけ重要なラインの集中している部位なのだから、
もっとしっかりとしたガードがなされていても良さそうなものなのだが、
人間のそこは、キュッと細くくびれており、
他の部分と比べても、やや脆弱な感じは否めない。
そういう意味では、人間にとって「首」というのは、
大きな弱点である、ということができる。
だから「処刑」というものを考えたとき、
この「首」をどうにかすることによって、命を絶とうというのは、
極めて当然の考え方であり、事実、
「首」をどうにかする処刑法というのは
古代から現代に至るまで、連綿と実行され続けているのである。

さて、一概に「首」をどうにかする、といっても、
その方法は大別すると3つに分けられる。
すなわち、「切る」か「絞める」か「折る」かである。

「切る」というのは、わかりやすい。
一般的に「斬首」と呼ばれるものがこれで、
刃物などを用いて「首」を切断するというのが、この方法である。
古来は、剣や斧などを用いて、人の手によって「首」を切断するのが
一般的であったが、この方法では処刑執行人の技量によって
その成功率が左右され、新人や、下手な処刑執行人に
当たってしまった囚人は何度も首を打ち据えられ、
ひどい苦痛を味わうことになった。
「斬首」は専門の執行人が行なうものというイメージがあるが、
実際には、軽微な犯罪を犯した軽犯罪者などが
「斬首」執行人をやらされることもあった。
もちろん、こういう臨時の執行人に技術などあるはずも無く、
さらには「首」を切ることを嫌がり、泣きわめくこともあったようだが、
どうもこの役目には懲罰的な意味もあったらしく、
無理矢理、剣や斧を握らされ、囚人の「首」を切らされた。
当然、そんな状況であるだけに「斬首」はてこずり、
そんな執行人に当たった死刑囚は、ひどい苦しみを味わうことになった。
なお、囚人の首を切り落とすにあたっては、
斧の場合、持ち手が1本の手斧が、
剣の場合は、剣先が丸くなっている専用の剣が用いられた。
剣の方はともかく、片手用の手斧では扱い辛く、
かなりの数の不手際があったようである。

さて、上手くいけば苦しむ時間も少ない、剣による「斬首」であるが、
この処刑方法では、その正否は処刑人の技量に大きく左右される。
当然、処刑執行人は囚人の首を切る前に、
様々な訓練を行なっていたようだが、
いざ、実際に生きている人間の首を切り落とすということになると、
緊張から失敗し、不手際を行なうことも多かったようである。
このころ(と、いうよりはほとんど近代までは)は、
囚人の「処刑」は一般公開されていたため、
不手際が発生すると、これを見ている観衆から
処刑執行人がなじられたり、暴行を受ける様なこともあったらしい。
そういう不確実性を無くし、「処刑」の効率をあげるため、
1782年、フランスで首を切断するためだけの装置が発明された。
そう、ギロチンである。
(これ以前にも、ギロチンの原型となった斬首装置は存在していたが……)
このギロチンの完成度は高く、あまりにも効率的だったため、
それまでは身分の高い囚人のみに限られていた斬首刑が、
階級に関わらず、全ての死刑囚に用いられるようになった。
このギロチンが採用された当初、あまりにもあっけなく
「処刑」が終わってしまうため、観衆からの評判は悪く、
以前の「処刑」方法に戻せ、という声も挙っていたが、
効率化によって「処刑」の頻度が増し、
一度に何人もの「処刑」を執行していくと、
だんだんと見応えが出てきたらしく、
そのような不満も無くなっていった。
ちなみにギロチンは、効率主義の強いドイツでも「処刑」に用いられ、
腕のいい「処刑」執行人は3分に1人というハイペースで、
「処刑」を執行していったというから恐ろしい。
フランスでは1939年まで、ギロチンによる公開処刑が行われており、
ギロチン自体は1977年まで使用されていた。
これらの事実を見ても、この斬首装置の完成度の高さが伺えるだろう。

「首」を絞めて死刑囚を「処刑」する、ということを聞けば、
多くの人が「絞首刑」を連想するだろう。
正に、当初の「絞首刑」は、首を絞めることによっての
窒息死を狙ったものであり、多くの囚人たちは、
この「処刑」方法によって、一定時間苦しんだ末、窒息死していた。
しかし、実はこの「絞首刑」には2種類のやり方があり、
そのやり方によって、「処刑」にかかる時間というのは大きく違ってくる。
では、一見、同じように見える「絞首刑」において、
一体、どこに違いがあるというのだろうか?

「絞首刑」におけるやり方の違いは、そのロープの長さによる。
比較的、短いロープによって行なわれる「絞首刑」を
ショートドロップといい、こちらは囚人の体重によって
首にかかっているロープが絞まり、呼吸を阻害し、
やがて窒息死に至らしめるというものだ。
我々が一般的に「絞首刑」と聞いてイメージするのはこちらだろう。
もう1つのやり方は、比較的長いロープを用いる
ロングドロップという方法で、こちらの方法では落差を付けることによって
ロープの衝撃で首の骨を折り、囚人を即死させる。
ただ、こちらのロングドロップの場合、囚人の体格や体重などによって
用いるロープの長さを細かく調整する必要がある。
ロープが短すぎれば囚人の首が折れず、
ショートドロップの場合と同じように窒息死するまで苦しむことになるし、
逆にロープが長過ぎれば囚人の首に衝撃がかかり過ぎ、
その首がちぎれてしまう。
こちらの場合は、まあ、囚人は即死するであろうが、
大量の血を一帯に撒き散らすことになるため、後の処理が大変である。
19世紀、イギリスのウイリアム・マーウッドという人物が、
このロングドロップについての研究を進め、
囚人の体格、体重、年齢などを考慮した、
適切なロープの長さの相関表を作り上げた。
さらに彼は、ロープの結び目をコイル状にすることで
より素早く、より確実にロングドロップを成功させて、
囚人を苦しませずに「処刑」出来るようにした。
このロングドロップは、効率よく「処刑」が執行できる上、
死刑囚が苦しむ時間も少ないため、人道的な「処刑」方法と考えられており、
日本でもこの方法によって、「絞首刑」が行なわれている。

さて、今回は人間にとっての急所、「首」を使った「処刑」について
書いてみた。
次回は、比較的近代的な「処刑」方法を書いていく。

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