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フィナンシェ

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去るゴールデンウィーク、神奈川県の川崎市から妹たちが帰省してきた。

この妹の持ってくる帰省土産というのが、
長らく崎陽軒の「シュウマイ」だったのだが、
ここ最近、そのパターンに変化が現れるようになった。
なんのことはない。
こちらでそのお土産を開けると、妹本人もお土産を食べることになるため、
本人が今、食べたいお菓子などを買ってくるようになったのである。
たしかに、ちょっと値段の高いお菓子などは、
日常のオヤツとして購入するには、勇気がいる。
その点、実家へのお土産という口実を設ければ、
ちょっと高めのお菓子であっても「お土産だから」と言い訳をして、
堂々と購入することが出来る。
もちろん、実家へのお土産ということなのだが、
実家に居るのは自分1人なので、もらったお土産にしても
「お茶菓子に……」ということで、その場で開封してしまう。
こうしてお土産は、その半分以上が妹たちの腹の中に還元される。
まあ、考えてみれば、なかなか良く出来た仕組みである。

そんな妹が、今回購入してきたお土産が「フィナンシェ」であった。
それもただの「フィナンシェ」ではない。
なんでもバターバトラーというブランドの「フィナンシェ」で、
今、東京で人気が爆発している逸品だという。
本来であれば、新宿の方まで出向かなければ
購入できないらしいのだが、これがどういうわけか、
横浜駅で売られていたらしい。
予々、これを食べてみたいと考えていた妹は、迷うことなく
帰省土産にこれを購入した。
そんなわけで、東京新宿から遠く離れた我が家に、
今、東京で大人気の「フィナンシェ」がやってきたのである。

「フィナンシェ」は、フランス生まれのバターケーキの一種である。
以前に取り上げた「マドレーヌ」とよく似ているのだが、
生地の中にアーモンドパウダーを加えている点、
全卵ではなく卵白のみを使っている点、
さらにいえば、使われているバターの種類や、全体の形状が、
「マドレーヌ」とは異なっている。
(実際には、「フィナンシェ」と「マドレーヌ」を
 混同してしまっている人も多いようである)
材料に関しては「マドレーヌ」と「フィナンシェ」で
共通している部分もあり、それぞれにアレンジが加わることによって
ますますその味わいの境界線があやふやになってしまうのだが、
形状に関しては、これら2つの差異がハッキリとしている。
以前書いたように、「マドレーヌ」は貝殻(ホタテ貝)を模して
作られているが、一方の「フィナンシェ」は長方形であり、
上面の方が底面より小さい台形状である。
もちろん、この形には意味があり、
インゴット(金塊)の形を模したものとなっている。
実際の「フィナンシェ」を見てみると、
その黄色がかった色合いも相まって、たしかにインゴットのように見える。

そうなると、何故?この様な形をしているのか?ということになるのだが、
一説には、19世紀の終わりごろに、
パリのサン・ドニに店を出していたルヌという名のパティシエが、
近所の証券取引所の金融家たちがスーツを汚さず、
手軽に食べられるお菓子を提供しようとして、作り出したという。
スーツを汚さない、ということであれば、
クリームやチョコを使わなければ、
そうそうスーツが汚れることはないだろうが、
それはインゴット(金塊)の形をしていることとは、無関係っぽい。
「フィナンシェ」という言葉の意味自体、
「金融家」とか「金持ち」という意味らしいので、
このお菓子がインゴットの形をしているのも、主な客である金融家たちに
おもねったものであろう。
ただ、資料によれば、ルヌが作り出した「フィナンシェ」は、
別にインゴットの形状をしておらず、
ボート型やサヴァラン型をしていたという話もある。
これがインゴットの形をとるようになったのは、
ずっと後年になってから、ということらしい。
恐らくは「金融家」という名前から、後の時代のパティシエが
それに合わせて形状を変化させたのだと思われる。

この「フィナンシェ」のもとになった、とされるのが、
17世紀、肉食が禁止されていた修道院で作られた
「ヴィジタンディン」というお菓子(?)である。
彼らは禁止されていた肉の代わりに、アーモンドを食べていたようで、
この「ヴィジタンディン」というのは、アーモンド、小麦、砂糖、
卵白、バターを材料にしていたらしい。
卵とバターは、肉食の中に入らないのか気になる所だが、
材料を見る限りでは、現在の「フィナンシェ」のそれと大差がない。
ただ、形は楕円系をしていたというので、
ひょっとすると「フィナンシェ」というよりは
「マドレーヌ」に近い仕上がりだったのかも知れない。

ただ、「フィナンシェ」の出自については異説もある。
そちらの説によれば、16世紀、イタリアの富豪・メディチ家の
カトリーヌ・ド・メディシスがアンリ2世のもとへ輿入れした際に、
フランスへ伝わったというものである。
このカトリーヌの輿入れと共に、高度な食文化が
フランスに伝わったのは事実で、この説はそれに乗ったものらしい。
カトリーヌの実家・メディチ家は銀行家であったため、
「フィナンシェ(金融家)」という名前のお菓子の出自としては
ピッタリ合っているのだが、返って話が出来すぎている感もある。
ただ、富豪とはいえ一般庶民の出であったカトリーヌは、
当初、アンリ2世からも、フランス国民からも歓迎されておらず、
アンリ2世が亡くなり、彼女自身が摂政となって実権を握るまでは
相当に屈辱的な生活を送っていたらしい。
その反動からか彼女は後年、怪しい予言者に入れ込んだりするのだが、
そのとき彼女が入れ込んだ予言者というのが、
以前、このブログでも取り上げた「ノストラダムス」である。

さて、話を妹の帰省土産である「フィナンシェ」に戻そう。
妹の買って来た、バターバトラーの「フィナンシェ」は
8個入りで1600円以上するという。
「フィナンシェ」のサイズは1片5㎝四方程度なので、
そこら辺にある「フィナンシェ」とそう変わらない。
つまり、この「フィナンシェ」は、
単純計算で1つ200円もするということだ。
なかなか強気な値段設定だ。
ただ、1つ袋から出してかぶりついてみると、
その値段の意味が分かった。
とんでもなく濃厚で、とんでもなくウマい。
厳選された良質なバターを、これでもか、というくらい使っているのが
伝わってくる味である。
まさに「カロリー」の味といっていい。
なるほど、これは人気が出るというのも頷ける味である。

もちろん、このバターバトラーの「フィナンシェ」に限らず、
「フィナンシェ」は概ねハイカロリーになものが多いので、
うっかり食べすぎて……、なんていうことになると、
後々、後悔することになるかも知れない。

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