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ナタデココ

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日本人というのは、熱しやすく、冷めやすい性質を持っている。

その性質故に、日本では一過性の大ブームというものが起こる。
ひとたび「アレが良い」ということになれば、
日本国民の大多数がそれに飛びつき、これをもてはやすことになる。
小売店には、大量にそれらの商品が並べられ、
ブームに踊らされた人々は大行列を作り、
これらを手に入れようとする。
昨今では、インターネットの普及により、
これらの商品にプレミア価格がつけられ、
目玉が跳び出るほどの高価格で、オークションに出品されたりするのだが、
この手の大ブームは冷めてしまうのも早く、
ひとたびブームが去ってしまえば、それらの商品には
誰も目を向けなくなる。
結果、ブームの高波から転がり落ちた商品は、
かつてとは比べ物にならないくらいの捨て値で、
投げ売りされることになる。
何十年かの自分の人生の中でも、そういう例は枚挙に暇がない。

そういう一過性の大ブームを巻き起こすものの1つが、食品である。
アレがウマい、コレが健康に良い、ソレがダイエットに良いそうだ、
なんていう話が流れると、それこそ我先にと、それらを買いに走る。
食品の場合、このブームには2通りのパターンがある。

1つは、それまでにも馴染みのあった食品が、
TV番組に取り上げられるなどして、その健康効果やダイエット効果に
注目が集まり、皆がこれを買いに走るパターンである。
自分の記憶している中では、納豆やトマトなどで、
これらのブームが発生している。
結果、店の商品棚からはこれらの商品が消えてなくなり、
普段からこれらの食品を食べていた人間が
買うことが出来なくなり、大迷惑を被ることになる。

もう1つは、それまでに全く馴染みのなかった新しい食品が
大ブームを引き起こすパターンである。
こちらのパターンでは、健康・ダイエット効果を謳うものもあるが、
それ以上に、その「味」や「食感」などをアピールしていることが多い。
自分の記憶にある中では、「白い鯛焼き」や「食べるラー油」などが
これにあたるだろうか。
自分の感覚でいえば、こちらのブームの方が前者より大きく、
期間も長く続くようである。
ただ、そのブームの終焉後、「食べるラー油」の様に一定規模の市場を
持って生産され続ける食品もあれば、「白い鯛焼き」の様に
全く市場から姿を消してしまう食品もある。
大概の場合は、ブーム時の10分の1、
100分の1などといった規模で、細々と市場を形成するようである。

今回のテーマである「ナタデココ」も、
かつて、大ブームを巻き起こした商品である。
ちょうど、自分が大学生になったころに大きなブームになり、
しばらく熱狂的なブームが続いた後に、収束した。
自分はもともと、そういうブームには疎い質なので、
自分が初めて、この「ナタデココ」なる食品を食べたのは、
ブームが終わって、結構経ってからであった。
記憶の中にあるのは、小さなプラスチック容器の中に入った
「寒天」そのものと言っていい見た目の食品で、
シロップだったか、乳酸飲料的なものだったかに浸かっていた。
フタを取って、1つ口に入れてみると、
「寒天」のそれとは全く違う、弾力のある歯ごたえである。
グジュグジュと潰れる「寒天」の歯ごたえと違い、
どちらかといえばシコシコとした歯ごたえがある。
ただ、変わっているのは食感だけで「味」自体は
「寒天」のそれと変わらない。
早い話が、ほとんど無味無臭といっていい。
もちろん、厳密にいえば微妙に味はあるのだろうが、
「ナタデココ」が入っているシロップ(?)の味わいの方が強く、
「ナタデココ」自身の味わいや風味は、ほとんど感じることが出来ない。
はっきりいってしまえば、これは歯ごたえの違う「寒天」そのものである。
正直、どうしてこれが大ブームを巻き起こしたのか
全く理解できなかったのだが、そもそもの所、
大ブームなどというものはすべからく、そういったものなのかも知れない。

「ナタデココ」は、ココナッツの汁を発酵させたゲル状の食品である。
見た目は白く濁ったゼリー状の塊で、
全く「ナタデココ」の知識が無い人が見れば、
「寒天」にしか見えないだろう。
フィリピン発祥の伝統食品であり、
ココナッツの実の内部に含まれる「ココナッツ水」と呼ばれる液体に、
ナタ菌(アセトバクター・キシリナム)を加えて発酵させると
その表面から凝固していくので、その凝固した部分を切って食用にする。
いつごろから作られていたのか?ということについては、
詳しい情報が見つからなかったのだが、少なくとも100年以上前から
作られていたということなので、そこそこの歴史のある食品の様だ。
ただ、原材料のうち「ココナッツ水」に関してはわかるのだが、
これを発酵させるための「ナタ菌」というのがわからない。
恐らくフィリピンでは、どこかにこの「ナタ菌」が繁殖(?)しており、
これが「ココナッツ水」に入ったことによって
「ナタデココ」が誕生した、と考えられるのだが、
この「ナタ菌」がどういうものなのか?という情報については
その詳細が分からなかった。
調べてみた所によると、この「ナタ菌」は酢酸菌の一種で
この菌は「ココナッツ水」を発酵させることにより、
セルロースを発生させるらしい。
このセルロースの塊が、我々のいう「ナタデココ」なわけだ。
「ココナッツ水」の入手は日本でも可能なため、
これを使って「ナタデココ」を自作しようと試みている
サイトもあったのだが、それらはすべからくこの「ナタ菌」が入手できず、
失敗に終わっている。
では、本場であるフィリピンから「ナタ菌」を持ってくれば?
ということになるのだが、フィリピン政府は「ナタ菌」の輸出を
制限しているらしい。
日本では、昆布のフジッコが特許を持っているらしいのだが、
こちらも市販していないために、入手するのは不可能である。
「寒天」にそっくりな見た目から、簡単に自作できそうに
思えてしまうのだが、実際には「ナタデココ」を自作するのは、
全くの不可能であるといっていいだろう。

「ナタデココ」という名前であるが、これは本来、
「ナタ・デ・ココ」と区切って書くのが正解である。
この「ナタデココ」という言葉はスペイン語で、
これはかつて、フィリピンがスペインの植民地であったことに
関係しているらしい。
「ナタ」というのは「(液体表面上の)皮膜」という意味であり、
「ココ」というのは「ココナッツ」のことを指している。
つまり「ナタデココ」というのは、
「ココナッツ水の表面に浮かんだ皮膜」という様な意味になる。
「ナタデココ」という名前がスペイン語であるという点から考えると、
この食品が誕生したのはスペインの植民地時代であった
1565〜1898年の間のことだと考えられるが、
さすがこれでは期間が長過ぎて、ほとんど何も分からないのと同じである。

今から25年ほど前に、大ブームを巻き起こした「ナタデココ」。
その後、完全に消えてしまわず、幾分かのシェアを獲得したが、
その市場は決して大きいものとは言えない。
それには、個々人での自作が全く不可能であるという
切実な事情があったのである。

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