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アガー

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山梨県の銘菓の1つに「信玄餅」というのがある。

これは、求肥加工をした餅にきな粉をまぶし、
さらに黒蜜をかけて食べるもので、
ちょっと独特な食べ方をするのが特徴の、よく知られた和菓子である。
一説によれば、かの武田信玄がその味を絶賛したことから、
「信玄餅」の名前がつけられたとの話もある。
(他の説としては、武田信玄が出陣の際、非常食としていた
 砂糖入りの餅に由来しているという話や、
 安倍川餅から由来したという話もある。
 もっとも安倍川餅に関していえば、晩年の徳川家康に由来しているため、
 時代的に辻褄が合わなくなってしまう)

2013年、この「信玄餅」を扱っている和菓子店から
この「信玄餅」の新たな商品が発売された。
それが「水信玄餅」である。
地元の名水を寒天で固めたもので、透明度の高い半球状の
ゼリーの様な水菓子である。
水を固めるための寒天をギリギリまで減らしているのか、
この「水信玄餅」の透明度は非常に高く、
また、寒天らしからぬプルッとした食感が大きな特徴となっており、
これを「信玄餅」と同じように、きな粉と黒蜜で食べる。
ただ、寒天をギリギリまで減らしているためなのか、
型から器に移した瞬間から、水がしみ出し始め、
30分もすれば形が崩れてしぼんでしまうそうで、
こちらは店頭で食べる分のみを、夏期に限って販売しているそうである。
(調べてみた所、どうも土日のみの販売らしく
 それも午前中に全て売り切れてしまうほどの、人気ぶりだという)

この「水信玄餅」によく似た菓子は、アメリカにも存在している。
「水信玄餅」をモデルに、アメリカのシェフが作り出した
「レインドロップケーキ」というのが、それになる。
こちらも「水信玄餅」と同じように、
透明度の高い半球状の水菓子となっており、
これが発表された際には、大きな反響を呼んだ。

この「水信玄餅」にしても、「レインドロップケーキ」にしても、
プロの菓子職人が、試行錯誤を繰り返して、作り出したものである。
特に「水信玄餅」などは、その透明感と食感を作り出すために
ギリギリまで凝固剤(寒天)の使用量を減らした結果、
持ち帰りの出来ないほどの、繊細な仕上がりになっている。
その繊細さから素人には、
とてもマネできなさそうに思えるのだが、
実はインターネット上で「水信玄餅」「レインドロップケーキ」の
レシピを探してみると、結構な数がヒットする。
それらのレシピをよく見てみると、それらのレシピのほぼ全てで、
「アガー」と呼ばれる材料が用いられている。

適当な「水信玄餅」のレシピの材料を書き出してみると、

・ミネラルウォーター 250ml
・アガー       8g
・砂糖        小さじ1
・きな粉       適量
・黒蜜        適量

となっている。
きな粉と黒蜜は、完成した「水信玄餅」につけて食べるものだから、
「水信玄餅」の材料は、ミネラルウォーター(水)と砂糖、
そして「アガー」ということになる。
正直、「アガー」という言葉を聞いたこともない、という人が
多いのではないだろうか?
一体、「アガー」とは何なのか?

改めて、この材料を見直してみると、
本来、あるはずのものが入っていない。
そう、「水信玄餅」を作る際に、ギリギリまでその量を減らしたという
「寒天」である。
材料的に見るのであれば、本来、「寒天」があるべき所が
「アガー」に置き換わっているといっていい。
つまり「アガー」とは、「寒天」に変わる「凝固剤」なのである。
そして「寒天」の代わりに、この「アガー」を使うことによって、
素人でも「水信玄餅」や「レインドロップケーキ」によく似たものを
作ることが出来るのである。
(もっとも「レインドロップケーキ」の方は、
 凝固剤として「寒天」ではなく、「アガー」を使っているため
 よく似たというよりは、そのものといってもいいだろう)

和洋問わず、果汁などを固めてお菓子を作る際、
その凝固剤として多く使われるものは、「ゼラチン」と「寒天」だ。

「ゼラチン」は、牛骨や牛皮、豚皮などの動物性タンパク質を
原料として作られた、動物由来の凝固剤である。
美容にいいとされる「コラーゲン」なども、これにあたる。

一方の「寒天」は、テングサやオゴノリなどの海藻類を原料とした
植物由来の凝固剤だ。
成分のほとんどが食物繊維でできており低カロリーで、
これまた美容・ダイエットに効果的だといわれている。

今回取り上げている「アガー」は、「寒天」と同じく
植物由来の凝固剤である。
その原料となっているのは海藻であるスギノリやツノマタで、
これらに含まれている「カラギーナン」と呼ばれる成分によって固まる。
そのため「アガー」は「カラギーナン」と呼ばれることもある。
(ちなみに「寒天」が固まるのは、
「アガロース」という成分のためである)
「ゼラチン」が淡黄色、「寒天」が白色に濁っているのに対し、
「アガー」は無色透明であり、
「寒天」の溶けにくさ(口の中では溶けない)と、
「ゼラチン」の弾力(寒天は弾力が少なく、固い)を併せ持っている。
(厳密にいえば、「寒天」よりは溶けやすく、
 「ゼラチン」よりは固いのだが……)
「ゼラチン」は、20度以下の温度で溶け出すため、
これを使って作られたゼリーなどは、
冷蔵庫などで保管しておかなければならないのだが、
「アガー」を使って作られたゼリーは、常温であっても溶けることがない。
つまり、常温で販売されているゼリーに使われているのは、
「ゼラチン」ではなく「アガー」だということだ。
「アガー」の材料となる海藻は、現在、
その8割がフィリピンで養殖されている。
現在では「アガー」も手に入りやすくなっているため、
「水信玄餅」もどきや、「レインドロップケーキ」などは、
家庭でも作ることが出来る。

まるで水をそのまま固めた様な、
透明感のある仕上がりが期待できる「アガー」。
お菓子作りや料理に使ってみれば、とても面白いものが作れそうである。

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