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いつの間にか生えてません?南天

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庭に生えている南天の木に、実がついた。

これがなかなか鮮やかな赤い実で、
この季節、殺風景になりがちな庭の
貴重な彩りになっている。
家の表と裏、何カ所かに南天の株があり、
それぞれ細い木が群生しているのだが、
よくよく考えてみれば、家の庭に南天を植えた記憶がない。
どうもどこからかタネがやってきて、
それをもとにして成長したようだ。
南天の実は、鳥の大好物なので、
うちの南天も、鳥がタネを運んできたものだろう。

南天は、メギ科ナンテン属の常緑低木だ。
ひとつの株から、何本もの細木が群生しており、
手入れをしないと、あっという間に
ボサボサの密林状態になってしまう。
1本の木には、頂部分にしか葉や枝が出ておらず、
そのため同じ株の他の木と、
光を取り合うように成長していく。
樹高は2mくらいになるのが普通だが、
先に書いたように、他の木と競うように成長した場合、
4~5mも育つことがある。

初夏に、極小さな白い花をつける。
これがもう、本当に小さくて、よくよく注意してみないと、
花が咲いているのを、見落としてしまいそうになる。
小さく目立たず、派手な実に比べても地味な花だが、
花の時期になると、その蜜を求め、蜂などが飛来する。
普通、花が終わるとすぐに実がなるものだが、
南天は花と実の間に、かなりの期間がある。
晩秋から初冬にかけて、小さな赤い実を実らせる。
この赤い実は正月飾りなどにも、使われることがある。
中国が原産地で、日本では西日本、四国、
九州などに自生している。
いつくらいに日本にやってきたか?という点については、
いくつかの説がある。

ひとつは平安時代初期に、
弘法大師(空海)が中国より持ち帰ったという説。
804年、中国より帰ってきた空海が、
その手に持っていたのが南天製の杖で、
これを石垣に突き刺した所、南天が根付いたという。
どうも、空海伝説にかこつけた感じは否めない。
ただ、南天は挿し木で根付かせることが出来るので、
一概に作り話と断ずることは出来ない。
空海が持ち帰ってきたのは「杖」ではなく、
最初から移植を目的にした、
「苗木」だったのかもしれない。
当時、中国に留学した僧侶たちは、
仏教の他にも様々なものを持ち帰っており、
南天もそのひとつであった可能性は大きい。
後で書くが、南天には薬効があるからだ。

もうひとつは「出雲国風土記」の記述だ。
これは天平5年(733年)に完成したもので、
空海が生まれる前に完成している。
この「出雲国風土記」の中に、「南天燭」の文字があり、
これは中国での南天の呼び名だ。
「出雲国風土記」には、薬用植物の記述が多く、
この「南天燭」もそのひとつだ。
もし、この「出雲国風土記」が書かれた時点で、
出雲に南天があったとしたら、
空海が中国より南天を持ち帰る以前に、
日本には南天が存在していたことになる。
しかも薬用植物として書かれていることから、
出雲の南天も、中国から薬用として
持ち込まれたもののようだ。

このうち、どちらが正しいのかは断言できないが、
どちらかといえば、「出雲国風土記」の記述の方が、
記録として信用できそうだ。
一方、空海の説は、どうしても伝説の域に
留まっている感じがする。

以上のように、南天伝来は「薬用」という言葉が、
キーワードになっている。

南天の葉は、南天葉と呼ばれる生薬であり、
健胃・解熱・鎮咳に効果があるとされる。
また、赤飯などの上に南天の葉を置くこともあるが、
この葉には「ナンニジン」という成分が含まれており、
これが赤飯の熱と、水分によってシアン化水素を発生させる。
このシアン化水素に防腐効果がある。
このシアン化水素は猛毒であるが、量が微量であるため、
健康への影響はない。
さらに常緑樹である南天の葉の緑色は、
赤飯の赤色を引き立てる、視覚的な効果もある。
これは駄洒落になってしまうが、
「南天」が「難を転じる」に通じるということで、
縁起担ぎに南天の葉を入れているという話もある。
ただ、影響がないほど微量であるとはいえ、
毒が出ていることには違いないので、
赤飯の上にのっている南天の葉を食べるのは、
止めておいた方がいいようだ。
(誰も好き好んで、食べたりはしないと思うが……)

南天の実には、殺菌と鎮咳の効果がある。
江戸時代の「松屋筆記」には、
「南天実(南天の実を乾燥させたもの)を砂糖と混ぜ、
 煎じて飲めば、咳に効果がある」
と書かれている。
これは、葉に含まれていた「ナンテニン」が
実にも含まれているためで、
この成分は口腔や胃腸から吸収され、
気管の筋肉と咳中枢に作用して咳を鎮め、
殺菌・鎮静作用で喉の痛みと炎症をやわらげる。
現在では、医薬品の薬効成分として認められている。

一番最初に、家の庭に南天が生えている、と書いた。
この南天、かなり繁殖力が旺盛で、
まめに手入れしておかないと、かなり見苦しいことになる。
毎年、古い木を間引いて、
茂りすぎないように調整しているのだが、
間引いた南天の木も、余計な枝を落とし、
裏庭に保管してある。
最近見てみると、これがかなりの量になっていて、
どうみても、100本以上ある。
古いものだと、もう何年も前のもので、
ずっと陽当たりの良くない、家の裏にまとめておいたのだが、
全く腐ったりしている様子がない。
南天材というのは、湿気に強く、劣化しにくいようだ。

とはいえ、全く使い道がないというのも事実だ。
来年も南天を手入れすれば、また間引き材が増えるだろう。
さて、何か良い利用法はないものか?

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