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フレンチトースト

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先日、昼飯用にパンでも買おうとスーパーに入った所、
パンコーナーに20%引きのシールが貼られた「フレンチトースト」が
置かれていた。

よくよく思い返してみれば、自分がこれまで
「フレンチトースト」を食べた回数というのは、決して多くない。
今までの人生の中で、何回、これを食べたかと思い返してみても
恐らくは片手で足りる程度の回数しか、これを食べていない。

そんなわけで、随分久しぶりになるが、
たまには「フレンチトースト」を食べてみるか、という気になり、
これを購入してみた。
他の菓子パンなどと同じように、袋詰めにされていて、
一袋の中には厚さ4センチほどの
四角い「フレンチトースト」が入っている。
大きさ的にはちょうど普通の食パンをスライスした程度だ。
パンの表面には切れ目が入っているので、
実際にはいくつかに、切り分けられているのかも知れない。

早速、袋を開けてみると、思っていた通り、
「フレンチトースト」は縦半分に切り分けられている。
ただ、それ以外にも小さな切れ目が入れられているのは、
「フレンチトースト」のキモである卵液を
パンに染み込みやすくするためだろうか?
とりあえず、そのうちの1つを掴んで引っ張りだしてみた。
……。
透明なパッケージの外から見た感じでは、
しっかりと全身に卵液がまぶされているように見えたのだが、
実際に手に取ってみると、卵液がついているのは
本当にトーストの表面の部分だけである。
食パンの切り口の部分を見てみると、
全くといっていいほど卵液がかかっておらず、
真っ白な普通の食パンのままである。
正直、やられたと思った。

まあ、これは個人的なイメージかも知れないが、
「フレンチトースト」とは、パンの中心部にまで卵液が染み込んでいて、
わりとビタビタな感じのパンだったはずである。
その自分の持っているイメージからすると、
今回、買った「フレンチトースト」は、あまりにも卵液が少なすぎた。

「フレンチトースト」とは、溶いた卵に牛乳、砂糖などを加えて
卵液を作り、この卵液をパンに染み込ませた後に、
フライパンなどで焼き上げたものである。
フライパンなどで焼く際、バターなどを使うと風味良く仕上がる。
アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、世界的に広く食べられている。

もちろん、各国でのレシピは一様ではなく、
牛乳の代わりにオレンジジュースを使ったり、
ナツメグやシナモンなどの香辛料を加えたり、
調味液にバニラエッセンスを加えるなど、それぞれに違いが見られる。
さらには、卵のみで作った卵液を染み込ませ、
塩味をつけて作るものや、卵を使わず牛乳にだけ浸して作るもの、
牛乳を使わずに生クリームを使うものなど、
お菓子・軽食としての「フレンチトースト」ではなく、
普通の食事としての「フレンチトースト」を食べている国もある。
日本では、先に述べたように卵・牛乳・砂糖で作った卵液に
パンを浸すのがメジャーなレシピになっているが、
世界的な規模で見てみれば、卵、牛乳などに浸して焼いたパンと
定義した方が、その真の姿に迫っているかも知れない。

「フレンチ」と名前についていることから、
「フレンチトースト」がフランスで生まれたと思われがちであるが、
実は「フレンチトースト」の名前の由来には、
全くフランスは関係していない。
この料理が「フレンチトースト」と名付けられたのは、
18世紀のアメリカでのことで、当時、酒屋を営んでいた
ジョーゼフ・フレンチなる人物が、命名したらしい。
要は、フレンチさんが作ったから「フレンチトースト」というわけだ。

もっとも、この卵液に浸したパンをフライパンで焼いた料理は、
この命名以前から存在しており、当時のアメリカでは
「ミルクトースト」とか「ジャーマントースト」などと
呼ばれていたらしい。
一説によれば、それまでは「ジャーマントースト」と呼ばれていたものが、
第1次世界大戦でアメリカとドイツが敵対したために、
「ジャーマン」を「フレンチ」に変えたという話もある。
(逆にアメリカとフランスの仲が悪くなったときには、
 「フレンチフライ」が「フリーダムフライ」という名前に
 変わったこともあるそうだ)
ただ、どうしてわざわざ「フレンチ」という言葉を選んだか?
ということに関しては、詳しい話は見つからなかった。
まあ、恐らくは名前の響きから連想された後付けの話だろう。

歴史上、もっとも古い「フレンチトースト」についての記録は、
4世紀終わりごろから5世紀にかけて編集された
古代ローマの料理書「アビキウス」の中にある。
この中には「アリテル・ドゥルキア」という、
パンを牛乳に浸して作る料理のことが記載されている。
この「アリテル・ドゥルキア」というのは、
「もうひとつの甘い料理」という意味らしいが、
記載されている作り方では、卵のことについては触れられていない。
ただ、「甘い料理」とのことなので、
何らかの調味料を使って、パンを浸す牛乳を甘くしていたか、
あるいは焼き上がった後に、何かをふりかけていたのかも知れない。
それなりには、現在の「フレンチトースト」に
近い味だったのだろう。
ここから時代はグッと下り、14世紀のドイツ、
15世紀のイタリアの料理書の中においても、
これと同様のレシピが掲載されているようである。
これが古代ローマの「アリテル・ドゥルキア」の流れを汲むものなのか、
あるいは全く新しく、各国で考案されたものなのかは分からないが、
現在の「フレンチトースト」に近い料理は、
古代から世界中で食べられていた、ということだろう。

「フレンチ」という名称から、その関連を疑われていたフランスだが、
当のフランスではこれを「パン・ベルデュ」と呼んでいる。
日本語に直訳すれば、これは「失われたパン」という意味らしい。
どうしてそのような名前が付けられたかだが、
もともとこの調理法は、古くなって固くなってしまったパン、
つまり(柔らかさが)失われたパンを、もう一度食べられるように
するためのものであったらしい。
そのため、フランス人にとって「パン・ベルデュ」は、
貧しい人たちの食事という様なイメージがあるため、
これに「フレンチ」という名前をつけられることに関しては、
あまりいい顔をしない、という話もある。

日本で「フレンチトースト」が広まったきっかけは、
1980年に上映されたアメリカ映画
「クレイマー、クレイマー」だとされる。
この映画の中に、妻に逃げられた男が息子に
「フレンチトースト」を作るシーンが出てくる。
これが1つのきっかけとなり、
日本で「フレンチトースト」ブームが巻き起こった。
この映画上映以降、日本でも「フレンチトースト」は
メジャーな料理として人々に知られるようになっていくのである。

さて、冒頭で書いた、卵液が表層部分にしか染み込んでいない
スーパーの「フレンチトースト」。
正直、かなりがっかりした気持ちでこれを食べたのだが、
意外にしっかりと卵液の味がして、中心部分は白い食パンのままなのに
わりと美味しいのである。
ひょっとすると、卵液をつけるのが表層部分だけということを考慮して、
その味の濃度を上げているのかも知れない。

昔食べたビタビタとしている「フレンチトースト」とは違っていたが、
なかなかウマい「フレンチトースト」であった。

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