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「もうやめにしよう」

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先の2月3日、節分のことである。

その昔は、節分といえば豆まきと相場が決まっていたのだが、
ここ20年ほど前くらいから、これに「恵方巻き」というものが加わった。
2月3日の節分の日に、巻き寿司を1本、
「恵方」と呼ばれる方向を向いて、黙々と食べるというものである。
もともとは大阪の方で生まれた、地方の食習慣の1つだったのだが、
コンビニエンスストアがこれに目を付けて、販促の1つとして、
節分の「恵方巻き」をアピールし始めた。
以降、この節分の「恵方巻き」という食習慣は、
じわじわと日本中に広がっていき、2006年ごろには
国民の90%以上が知る、メジャーなものへと変わっていったのである。

毎年、お正月が終わるころには、スーパーやコンビニエンスストアに
「恵方巻き」予約受付中のポスターが貼り出される様になり、
2月3日には、スーパーでもコンビニエンスストアでも、
売り場を占領する勢いで、大量の「恵方巻き」が並べられることになった。
通常の弁当や寿司類は、棚の端っこの方に追いやられ、
その大半のスペースを埋め尽くす、巻き寿司の山。
コンビニエンスストアでは、わざわざ店先にテントを建てて
特売コーナーを作り、寒風吹きすさぶ中「恵方巻き」を販売した。
それはもう、大層なフィーバーぶりで、
年々、その騒ぎぶりはドンドンと拡大していき、
肝心の巻き寿司自体も、豪華な具材を使った高額なものが
多くなっていった。

もちろん、いいことばかりだったわけではない。
コンビニエンスストアでは、「恵方巻き」の販売量に
キツいノルマが課せられ、末端の店員がそれをクリアするために
これを大量に購入させられるという自爆営業も行なわれた。
一方のスーパーでは、毎回、余りにも大量の「恵方巻き」を用意したため、
割引をしてすらこれを売り切ることが出来ず、
大量の「恵方巻き」が廃棄処分されるという事態が発生した。
これらの問題に関しては、何も「恵方巻き」だけのものではなく、
その他にクリスマスケーキなどにおいても、同様のケースが起こっている。
ノルマのための自爆営業も、過剰生産による大量廃棄も、
ここの所、深刻な問題として話題になりながらも、
国や業界からは、これを改善するための指導も規制も
行なわれてこなかったのである。

今年の2月3日、夜になってからスーパーに買い物にいってみると、
その弁当・寿司売り場には、大量の「恵方巻き」が売れ残っていた。
それらは半額引きや、あるいはそれ以上の割引販売を
されているにも関わらず、売り場いっぱいに売れ残っている。
売れ残っている「恵方巻き」を見て、その理由が分かった。
値段が高いのである。
通常、そのスーパーでは巻きずし1本、300〜400円ほどの価格で
販売されている。
しかし「恵方巻き」ということで販売されているそれは、
1本600円以上もする価格で、
中には1本2000円近い価格のものもあった。
それぞれに半額引きシールは貼ってあるものの、
それでやっと通常時の販売価格で、ひどいものは半額になって尚、
1本1000円の高額である。
通常時の巻き寿司なら3本、いや、半額になっているのだから、
6本の巻き寿司が買える値段だ。
通常、300円ほどの巻き寿司を食べる人間が、
そんな価格の「恵方巻き」をホイホイ買うと思っていたのなら、
このスーパーの人間は、とんでもないアホである。
通常通り、300〜400円ほどの巻き寿司の数を
増やしているだけならともかく、値段までつり上げているのだから、
これが大量に売れ残るのは、当然の結果である。

インターネットの情報を見ても、やはり同じ様なスーパーは多いようで、
SNSなどには、大量に売れ残っている「恵方巻き」の写真が
何枚もアップロードされている始末であった。
ニュースサイトを見てみれば、
やはり大量の「恵方巻き」が廃棄されており、
中には、売り場に並ぶこともなく、廃棄された商品もあったらしい。
ここまでくれば、もう、ただ呆れるばかりである。

今年の節分は、そういうイヤなニュースが目についたのだが、
今日、ニュースサイトを見ていると、おおっ!と感心させられる
嬉しいニュースがあった。

「もうやめにしよう」恵方巻きの大量廃棄問題、
スーパーがチラシで異議を唱える

兵庫県姫路市を中心に展開するスーパー・ヤマダストアーが、
「今年は恵方巻きを昨年実績で作ります。
 欠品の場合はご容赦を」
というチラシ広告を出したのである。
見出しには大きく「もうやめにしよう」の文字が印刷されていた。
「恵方巻き」の大量廃棄が問題になる中、
これを販売している販売店の方から、
この現状に待ったをかけたわけである。
ヤマダストアーでは、従業員から
「このまま突き進んでいいのか?」という声が上がっており、
それらの声に答える様にして、「去年より多く作る」という方針を転換、
「昨年実績」に応じた数を生産・販売することにしたという。
その結果、8店舗中5店舗では完売。
残り3店舗では、作りすぎてしまったものの1店舗は割引後に完売。
2店舗では若干廃棄が出てしまったため、来年の課題にするという。
この「もうやめにしよう」の広告チラシは、SNSなどで取り上げられ、
大きな話題になった。
「素晴らしい」「感心した」という賞賛の声が多数で、
実際、店先で「恵方巻き」が欠品していたことについてのクレームが
入ることはなかったということだ。
それらの客の反応を見る限り、ヤマダストアーの今回の決断は
顧客の中に潜在している要望に、見事応えたといえるだろう。
年々肥大化していく「恵方巻き」市場に、
もうついていけないよ、という客が多かったということだ。

インターネットでの反応を見てみても、
基本的には、このスーパーの判断に賛成という声が多く、
中には、自分の子供のころには「恵方巻き」なんてなかったのに、
いつの間にか、節分には「恵方巻き」というのが定番になっていて、
違和感を覚えていた、という意見も多く見られた。
違和感を感じさせているということは、
それだけ、各企業による「恵方巻き」推しが性急すぎたということでは
ないのだろうか?
文化というものは、決して、無理矢理押し付けられるものではない。
個人的な意見としては、「丸かぶり」という食べ方はともかく、
節分に巻き寿司というのは、それほど悪いものではないと感じている。
巻き寿司という1つの食文化を継続していく上で、
1年に1日でも、巻き寿司に注目が集まる日があるというのは
結構いいことだと思うのである。

今回、「もうやめにしよう」を打ち出したヤマダストアーは、
イカナゴの漁獲量が減っているという現状に合わせて、
2017年のイカナゴの販売を取りやめた。
今回の「恵方巻き」の件だけでなく、このまま進めばヤバいものに関して、
キッチリと立ち止まり、引き返すことの出来る企業だということだ。
そういう企業が自分の地元から出てくるということは、
なかなかに誇らしいことである。

それにしても、「もうやめにしよう」というのはいい。
現在の日本の漁業などを見ていると、
この「もうやめにしよう」が必要な分野が多いように思える。
関係各者には、是非、この言葉をかみしめてもらいたい。

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