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大黒天

投稿日:

先日、お寺からお札が届いた。

何やら細長い和紙に朱印が押してあり、小難しい漢字が書かれている。
その文字列の中で「御祈祷」という文字が読め、
さらに金色の帯が施されているため、恐らくはお札的な
何か有り難いものなのだろうと推測しているのだが、
それが一体、何であるか、正確な所は分かっていない。
父親が生きていたころから、毎年、送られて来ているらしく、
父親はこれを全て仏壇の中に並べていたため、
父親が亡くなった後も同じように、これを仏壇の中に並べ続けている。
1年に1枚づつ送られて来ているので、
今回、送られて来たこれが、今年分ということになるのだろう。

我が家には、ある程度定期的に、お寺から印刷物が送られてくる。
まあ、お寺の季刊誌の様なもので、
中は全て、和尚さんが記事を書いている。
普段はそれほど深く考えることのない、仏教関連の話や、宗教の話、
果ては精進料理のレシピや、季節の和菓子などについても書かれており、
これらをあの和尚さんがせっせと考え、筆を走らせ、
さらにコピー機で1枚1枚印刷していると考えると、
何とはなしに、ほっこりとした気分にさせられる。
お彼岸やお盆には、お経を上げに来てくれる日程を
知らせてもくれるので、そういう意味では重要な季刊誌である。

そのお寺の季刊誌で、今回、冒頭で取り上げられていたのが、
「大黒天」である。
……。
ここで少し首をひねった。
あれ?大黒天(というか七福神)って、仏教の神様だっけ?
自分の住んでいる地区には、「七福神社」なるものがある。
まあ、その名前の通り、七福神が祀られているのだろうが、
問題はこれが「神社」である所だ。
「神社」に祀られていることを考えても、
七福神というのは、神道の神様ではないのか?
仏教のお寺の季刊誌で、いわば商売敵(?)である他宗教の神様を
取り上げちゃっていいのかな?と、疑問を持った。
そこで、改めて「七福神」について調べてみると、
この七神のうち、恵比寿は日本の神道由来の神、
大黒天、毘沙門天、弁財天は、ヒンドゥー教の由来の神、
寿老人と福禄寿は、道教由来の神、
布袋は唐の末期に実在したといわれる、仏教の禅僧であった。
つまり「七福神」は、日本において各宗教の垣根を越えて
かき集められた、おめでたい神様たちのグループだったのである。
(1人、禅僧がいるが……)
この宗教の垣根を越えた、おめでたい神様たちのグループは、
室町時代ごろから作られ始め、様々なメンバーの変遷を経て、
江戸時代にようやく、現在のメンバーに定まった。
現在でいうのならば、芸能事務所の垣根を越えて集まった
特別なアイドルグループといえば、その感覚に近いのかも知れない。
当時は、神仏習合によって、神様も仏様も
ひとくくりにされてしまっていた時代なので、
異教の神様同士を集めて、おめでたい神様グループを作るのに、
それほどの抵抗感がなかったのだろう。

ともあれ、上記の様に「大黒天」はヒンドゥー教由来の神である。
具体的にいうのであれば、ヒンドゥー教においてシヴァ神と
されている神が、「大黒天」の大元となっている。
日本ではヒンドゥー教自体、馴染みがうすく、
その神様の名前を聞いても、いまいちしっくりこないというのが
本音だろう。
そんなヒンドゥー教の神様の中にあって、シヴァ神は
まだ比較的、日本人に名前を知られている方だといえる。
少々古い事件になるが、かのオウム真理教の教祖が、
自らの教団の邪魔者を部下に殺害させた後、
「シヴァ神にポアされて良かったね」と発言したという件は、
当時の報道番組やワイドショーなどで、幾度も取り上げられた。
これを書くと、え?ひょっとしてシヴァ神って、
オウム真理教の神様なの?と思ってしまうかも知れないが、
これはまあ、他所の宗教の高名な神様の名前を
勝手に使っているだけだろう。
特に怪しい新興宗教などの場合、
そういうことは、ままあることである。
話を戻すと、このシヴァ神、別名を「マハーカーラ」という。
「マハー」は大(偉大なる)、「カーラ」は黒(暗黒)という意味である。
つまり「偉大なる暗黒」変じて「大黒」なのである。
「天」については、マハーカーラが仏教に取り入れられてからのもので、
位や役職名の様なものだと考えていい。

だが、ここで少し疑問が沸く。
「シヴァ」というワードでインターネットの画像検索をかけると、
ヒンドゥー教におけるシヴァ神の画像が画面いっぱいに表示される。
無論、画像によって多少の違いはあるものの、
そこに表示されているシヴァ神の姿は、

・スマートでやや筋肉質な男性
・肌は青い
・顔は美形
・たまに腕が4本のものがある

という様な共通した特徴がある。
一方、同じように「大黒天」というワードで画像検索をかけると、
画面に表示されるのは、

・太っていて、全身メタボ体型である
・肌は肌色である
・顔は丸く、福々しいが美形とは言い難い
・腕は2本で、それぞれに袋と、打ち出の小槌を持っている

という形態のものばかりである。
はっきりいって、容姿的にいえば全くの正反対といっていい。
大黒天がシヴァ神をモデルにしているというのであれば、
どうしてここまで見た目が変わってしまったのか?

実は、もともと大黒天はシヴァ神に近い容姿であった。
一面二臂、つまりは顔が1つに腕が2本、
要は人間と同じ体型であり、肌は青黒く、体つきもスマートで、
顔は憤怒の表情を浮かべていた。
中には、同じヒンドゥー教の神である毘沙門天、弁財天と合体し、
三面六臂の、阿修羅の様な姿のものもあった。
そんな彼がメタボ体型に変わってしまった原因は、
大黒天という、その名前にある。

その昔、日本では神仏習合が行なわれており、
日本古来の神様と、外国からやって来た神様が同じものと見なされたり、
合体させられてしまう様なケースがあった。
大黒天と同じものとされたのが、日本神話に出てくる大国主神である。
大国主神の「大国」は、読み方を変えれば「だいこく」とも読める。
こんな共通点があれば、これはもう、
ひとまとめにしてくれと言っている様なものだ。
かくして大黒天と大国主神は、
あっさりと同一視されてしまうことになった。
そう、ここまで書けば何となく分かるだろう。
現在、大黒天として知られているメタボ体型の彼は、
大国主神の影響が強く出たスタイルなのである。
もともとのシヴァ神は戦いの神だったのだが、
それがどういうわけか、中国において台所の神に変化してしまった。
それが密教と一緒に日本へと持ち込まれ、
そこで大国主神と同化することによってメタボ体型となり、
農業の神、商売の神、金運の神へと変わっていったのである。

遠くインドから、はるばると日本にまで伝えられた大黒天。
日本の神と習合され、見た目が変わり、性格も変わった。
そんな彼は七福神の中では、恵比寿様と並び、真ん丸とした顔と体型で、
商売繁盛の人気者である。

他所から取り入れたものを、合体させ、変化させ、
もとの面影がない程に作り替えてしまう。
この日本人の特性は、神様に対しても容赦がないようだ。

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