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司馬遼太郎「播磨灘物語」

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NHKの大河ドラマで、黒田官兵衛の物語をやっている。

「軍師官兵衛」だ。

最近は図書館や書店でも、黒田官兵衛のコーナーが設けられている。

各種研究本や、黒田官兵衛を扱った小説などが並べてある。

特に兵庫県姫路市とその近隣市町村などは

大河ドラマの舞台になっていることもあり、かなりの熱の入れようだ。

研究本や小説などは多々あるが、黒田官兵衛のことを詳しく知りたいと

いうのであれば、一番のお勧めは司馬遼太郎の「播磨灘物語」だ。

黒田官兵衛の活躍を描いた小説であり、

戦国時代の播磨地方を、まるで見てきたように書いている。

当時の時代背景、登場人物の来歴など、緻密な取材を伺わせる。

……。

いや、正直に言えば、司馬遼太郎のそれは、緻密などという

生温い言葉で表現してはいけないほどに圧倒的だ。

なまなかの研究本のなど、質、量ともに問題にならない。

そこいらの研究本の10倍の資料を、さらに10分の1に煮詰めたものが

小説の中にビッチリと詰め込まれている、と言えばわかってもらえるだろうか?

噂によれば、司馬遼太郎が小説を書き始めると、付近の書店から

関連資料が1冊残らずなくなったということだ。

もちろんその小説の、膨大かつ濃厚なことと言ったら、並ぶものがない。

たとえ話をしてみよう。

戦国時代の小説で、敵方の武将が伝令を走らせるシーンがあるとする。

普通の作家の小説だと、ただそれだけのシーンだ。

せいぜい勢いよく走っていったとか、幟が風にはためいたとか、

その程度のことを書くだけだろう。

これが司馬遼太郎の筆にかかると、まず伝令の名前が出る。

極、当たり前に、当然のように出る。

そこからその伝令の人格、来歴、家族構成などが書き綴られる。

普通の作家がここまで書けば、気違いと呼ばれるだろう。

だが司馬遼太郎の恐ろしい所は、これで終わらない所にある。

さらにその伝令の父、祖父のエピソードに突入し、家系の出所まで披露する。

それが終わると、子供、孫のことなどに言及し、

ひどい時には直系の子孫にあって、インタビューまでしていることがある。

さらに言えば、司馬遼太郎お得意の「なお余談ではあるが~」が始まり

途中で別のエピソードを入れてきたりする。

ここで改めて断っておくが、これは主人公が伝令を走らせたシーンではない。

あくまでも、敵方の武将が伝令を走らせたシーンにすぎない。

一事が万事とまでは言わないが、ほぼこの調子でストーリーが進んでいく。

読者に突きつけられる、莫大な情報、情報、情報……。

そのためにメインのストーリーの進行はかなり遅い。

司馬遼太郎の小説は、大体が分厚いハードカバーの数冊組だ。

ほとんどの場合、全てのページが上下2段にわたり

細かい活字がびっしりと隙間なく詰め込まれている。

もちろん挿絵などない。

いや、挿絵どころか碌に隙間すらない。

読書力の弱い人間が目にすれば、引きつけを起こしかねない文字量だ。

だが、司馬遼太郎の小説の一番恐ろしい所は、面白い所だ。

その面白さに引きつけられて、この遅々として進まぬ物語を

懸命に読み進めていかざるを得なくなる。

素人の推測にすぎないが、司馬遼太郎の小説の書き方はこうだ。

まずは手に入れることのできる限りの資料を収集する。

そしてそれらの資料の全てに目を通し、そのひとつひとつの信憑性を

考察していく。

そうして残った資料から、当時の状況を再現していく。

普通の作家の場合、それは通り一遍のものだが、司馬遼太郎の場合は

当時の人間の書き残した文章、逸話、行動などから、

人間の人格までも再生させていく。

そうしてよみがえらせた人物を、同じようによみがえらせた過去の時代という

舞台の上で動かしていく。

司馬遼太郎の取材力、調査力は群を抜いている。

というより、次元が違う。

恐らくその取材力、調査力は人類史上に並ぶものがいないのではないか、

そう思わせるに充分すぎるほどのものだ。

それをもとにした小説は、圧倒的な説得力を持つ。

「播磨灘物語」についてというより、司馬遼太郎について

書いたようになってしまった。

だが、ネタばれをするように、ちびちびとストーリー等について書くより、

返って「播磨灘物語」の中身をきちんとイメージしてもらえると思う。

これ1冊を読めば、他のものはいらない。

そう言えてしまうほどに、濃密な1冊だ。

黒田官兵衛に興味のある人は、ぜひご一読を。
 

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