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雑感、考察

汲取式トイレ

更新日:

先日、市内を自転車で走っていて珍しいものを見た。
バキュームカーである。
しかもそのバキュームカーは、走行していたわけではなく
ホースを伸ばして、し尿を汲み取っていた。

たつの市内も下水道の設置が進み、
ついぞバキュームカーを見かけることも少なくなった。
我が家のトイレも、20年ほど前には水洗化したので、
大体そのくらいが市内の下水化が進んだタイミングなのかも知れない。
同時に、そのくらいから、市内でバキュームカーが
汲取りをしている所を目にすることも無くなった。
だから今回、現役で稼働しているバキュームカーを目にして、
なんとも懐かしい気分になった。
恐らくは、20年ほどは目にしていなかった光景だからである。

もちろん、それが懐かしい光景であったとしても、
わざわざ足を止めて、繁々と見入るようなものではない。
し尿の放つ、強烈な臭気も辺りに漂っている。
珍しいな、とは思いつつも、そのまま自転車を停めず、
その場を通り過ぎたのだが、普段、自転車を走らせている範囲に、
今だトイレが水洗化されていない家があるというのは、
ちょっとした驚きであった。

さて、先ほど我が家のトイレは20年ほど前に水洗化された、と書いた。
だから普通に考えれば、それ以前は、我が家もバキュームカーによって
し尿の汲取をしてもらっていた、と考えてしまうだろう。
実は、これは大きな間違いである。
我が家がまだ、汲取式のトイレであったころ、
我が家にバキュームカーが汲取りにやって来ることは、
全く無かった。
え?じゃあ、たまったし尿はどうしていたの?と思われるだろうが、
実はこれらは全て、婆さんが汲み取って、畑に撒いていたのである。
早い話が、畑の肥料になっていたわけだ。
ある程度、し尿がたまった所を見計らって、
婆さんが畑の空いている畝にクワを入れて、大きな溝を作る。
そこへ便槽(古いトイレのし尿を溜めておくタンク)の中から
汲み上げたし尿を流し込んでいく。
し尿自体は便槽の中で、腐敗してしまっているのか、
完全な液体状になっているので、感覚としては
濁った臭い水を撒いているといっていい。
溝の中に撒かれたし尿は、完全な液体状であるため、
すぐに土の中にしみ込んでいく。
畑に作った溝にし尿を撒き終えると、
婆さんはクワなどを使って、この溝に土をかぶせていく。
これをしないと、いつまでの強烈な臭気を放ち続けることになる。
まあ、もっとも、この作業をしている段階で、
すでに辺りには、強烈な臭気が漂うことになるのだが……。
そんな強烈な臭気をまき散らして、
近所から文句が出ないのか?と、思う人もいるかも知れないが、
近所の家も全て汲取式のトイレであり、
うちと同じように、し尿を畑に蒔いて肥料にしていたから、
そのときの臭いについては、それぞれお互い様、というわけである。
そのころから20年以上たち、うちの周りには
新しい住宅が立ち並んで、ちょっとした住宅街になってしまった。
今、同じようなマネをしたら、
近所中から激しい抗議を受けることは必至だ。

さて、今ではほとんど目にすることもなくなった「汲取式トイレ」。
構造的には、トイレで用を足すと、それが下へ落下していき、
便槽(べんそう)と呼ばれるタンク(し尿溜め)に
溜まるようになっている。
汚物が落下していくことから、
「ボットン便所」などと呼ばれることもあった。
この「ボットン」というのは、汚物が落下していく擬音だ。
便槽には、臭気抜きのための
煙突のようなもの(臭突)がつけられており、
これには電動式のファンがついていて、四六時中回っていた。
この臭突がつけられているせいか、トイレの中にいても
悪臭が漂うというようなことは、まずなかった。
むしろ悪臭が漂ったのは、先にも書いた通り、
この便槽から溜まったし尿を汲み出しているときで、
それが人の手によるものであろうと、
バキュームカーによるものであろうと、
付近には強い臭気が立ちこめることとなった。
音や臭いに文句をいう人の多い現代であれば、
まさしく非難囂々の悪臭である。
畑などにこれを蒔いているときは、特に匂いが強く漂い、
食事時近くにこれをやられると、
もう食欲もへったくれもなくなってしまう始末であった。

さらにこの汲取式トイレには、衛生上の問題もあった。
このタイプのトイレのもっとも旧式なものでは、
便槽の中に、ドンドンと新しいし尿が
積み上がっていく仕組みであったため、
し尿に含まれている寄生虫卵や伝染病菌が、
死滅してしまう前に汲み取られてしまう場合があり、
これが肥料として畑に蒔かれることで、
土壌が伝染病菌や寄生虫卵に汚染されてしまうことがあった。
そのため、昔はし尿を撒いた畑で育てた野菜類に、
病原菌や寄生虫卵がついていることもあった。
かつての日本では、生野菜をそのまま食べるということが
ほとんど行なわれていなかったが、
その一因は、野菜類が汚染されていたため、
火を通したり、塩漬けにするなどの加工を施さないと、
これらを安全に食べられなかったため、ともいわれている。
後に、便槽内に改良が加えられ、
新しいし尿と古いし尿が混じりあわないものが開発され、
これが用いられるようになっていった。
(かつて我が家にあった汲取式トイレも、
 この手のものであったと思われる)

さて、先述したように、我が家の汲取式トイレでは
バキュームカーのお世話になるということがほとんど無かったのだが、
いざ、バキュームカーに汲取をお願いしたい場合、
一体、どういう手続きをとればいいのか?
この先、ほとんど役に立つことのない知識ではあるのだが、
一応、簡単に書き留めておきたい。

まず、し尿の汲取を希望する人は、
「し尿汲取券」というものを用意しなくてはならない。
これは市役所や、その支所の環境課や福祉課で購入できる。
価格は1枚140円。
これ1枚につき、18ℓのし尿を汲み取ってもらえる。
一斗缶1本分だ。
し尿が何ℓであっても汲み取ってはくれるようだが、
1回の汲取が90ℓ未満の場合は、
90ℓの料金(汲取券5枚)を支払うことになる。
金額でいえば、汲取は1回700円から、ということになるわけだ。
し尿の汲取は地域によって日程が決められており、
大体ひと月に1回、回ってきてくれる。
臨時の汲取を希望する場合は、その希望日の前日までに
汲取を委託されている業者に連絡を入れておかなければならない。
し尿が溜まっていないなどの理由で、汲取を希望しない場合は、
汲取口にそのことを張り紙しておけばいい。
これを高いと思うか、安いと思うかは人それぞれだが、
これを毎月利用するとしたら、
下水道料金よりも少し安いくらいの価格になる。
(あくまでもし尿の量が月90ℓを越えない場合の計算になるが……)

ちなみにここに書いた情報は、
一例としてたつの市のものを書いたものだ。
価格やシステムは、自治体によっても変わって来るので、
あくまでも参考程度、と考えてほしい。

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