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クマ VS ヒト、時間無制限1本勝負〜その3

更新日:

ここまで2回にわたり、クマとヒトとの遭遇・戦いについて書いてきた。
今回が、その最終回となる。

一昔前までは、山でクマに出会った際には、
「死んだフリをしろ」というのが有名であった。
それがいつのまにやら、あまりいわれなくなった。
インターネットでクマに出会った際の対策を検索してみても、
「死んだフリ」は絶対にダメ、と書いているサイトが多い。
その根拠として書かれているのは、
クマは普通に屍肉(動物の死骸の肉)を食べるので、
目の前で死んだフリをすれば、喜んで食べにくる、というものであった。
なるほど、実際にクマに襲われて殺されてしまったヒトが、
クマの食害にあったという話は聞いたことがあるし、
ツキノワグマなどのオスの中には、同種の子グマ(オス)を
殺して食べる個体もあるという。
これを信じるのであれば、確かにクマの前で死んだフリをすれば、
あっさりと殺されて食べられてしまうことになる。
ただ、過去の新聞記事の事例を見れば、
死んだフリをして無事に生還して来ている例は、結構多い。
いくら識者や学者がクマの習性から理屈をこねてみた所で、
実際にそれで助かっているという数々の前例の前では、
それらは全て戯言に過ぎない。
理屈は常に、事実の後を追うものであり、
事実から導き出された理屈は、厳しい目で実証されなければならない。
いくつかの事例を挙げてみよう。
「男性4人が親子3頭のクマと遭遇、
 一斉に地面に伏せ無傷」
「水汲みの男性が遭遇、「死んだマネ」をしたら、
 同人の肩を2、3度叩き、無傷」
「農作業中の女性が遭遇、「死んだマネ」。
 クマは同人の後頭部を叩いて通り過ぎ、軽傷」
「熊が人を襲うとき」に掲載されている事例では、
かなり古いものが多いのが印象的だが、
これはやはり、昨今の
「死んだフリ」はクマ対策として間違いであるという説を
信じている人が増えたせいであろうか。
ただ、結果のみを見てみれば、「無傷」で済んでいる例が多く、
これは、他のクマと戦ったものと比べても、
非常にいい結果といえる。
中には、突然背後からクマに襲われ重傷を負ったものの、
そのまま「死んだフリ」をしたら
(と、いうよりは、それしか出来なかっただけかも知れないが……)
その後、クマが去っていったという事例もあった。
「助かる」「助からない」や、ケガの度合いなどで見た結果、
かなり優秀な成績を収めているのが、この「死んだフリ」である。

ただ、このようにかなりの高確率でいい結果を生む「死んだフリ」だが、
これをやった場合、クマがその場に居座るという事例もある。
そのまま、じっと「死んだフリ」しているヒトを
監視しているのである。
こういう場合、起き上がった瞬間にクマに襲われる場合が多々ある。
前回も書いたが、こういう場合のクマはねちっこく、
数時間もその場に留まることがある。
こうなると、死んだフリをしている人間にも忍耐が必要になってくる。
クマの集中が切れるか、ヒトの集中が切れるかの、ガマン比べだ。

現在では、すっかり行なわれなくなった「死んだフリ」であるが、
現在でも、これを推奨している人たちもいる。
もちろん、正確に言えば、「死んだフリ」というよりは、
地面にうつ伏せになって、手で首の後ろを守るという
防御態勢をとれ、ということなのだが、
余計な反撃をするよりは、概ね無傷や軽傷で片付く公算が高い。
地面にくぼみでもあれば、そこにはまり込むようにして伏せれば、
その防御効果はさらに高くなるだろう。
人間の体は、背中部分の方が防御力も高く、
首などの急所を腕でカードすれば、
かなりしっかりと防御することが出来る。
もちろん、人間を襲って食べる気のクマであれば、
この防御態勢もそれほど効果を出せないかも知れないが、
そうでないクマ(ほとんどのクマはこちらだろう)の場合、
これはかなり有効なはずである。

数々の事例の中で見られるクマ(ツキノワグマ)の行動からは、
人間でいう所の「臆病さ」が感じられてならない。
体力的にいえば、圧倒的に優位なはずなのに、
積極的に襲いかかってくるということは少ないし、
人間に襲いかかって来る場合でも、恐怖感によるパニックから
ヤケクソ的な攻撃をとっているのではないかと思われる事例も多い。
そのため、人間にダメージを与えた際にも、
人間が動かなくなれば、そこで一旦攻撃の手を止めて、
立ち去ったり、距離をおいて監視したりする。
補食が目的で、攻撃性の高い動物の場合は、
こういう行動はとらないだろう。
クマが屍肉を食べるというのは、確かに確認されていることであるが、
それでもその食性は、知られている限り、
木の実などの植物性のものが、圧倒的に多くなっている。
恐らくは体が大きく、他の動物に比べて動きが鈍いため、
他の動物を狩らなければならない肉食にはなり切れず、
基本的には「草食」というのが、クマのスタイルなのだろう。
だからその攻撃のほとんどは、「臆病さ」からくる過剰な防御行動であり、
いくつかの事例では、クマに噛みつかれた際、
体の力を抜いたらクマも攻撃を止めたというものがある。
だとすれば、全くクマを刺激せず、防御態勢を固める
「死んだフリ」は、かなり理屈にあった行動だといえるだろう。

さて、そうはいっても、いざとなれば恐怖に駆られて
冷静な判断が出来なくなってしまうのは、ヒトも同じである。
「戦う」という判断をとってしまうのは、仕方が無いにしても
相手が鋭い牙と爪、さらには人間以上のパワーを
持っていることを考えると、せめてこちらも何らかの武器を持ちたい。
こういう場合、もっとも有効な武器といえば、
もちろん「銃」ということになるだろう。
威力は高いし、飛び道具なので相手の間合いに入らずに戦える。
しかし残念なことに、日本では「銃」を持つのは難しい。
そうなると、途端に武器のレベルが下がってしまう。
せいぜい手にあるのは、ナタやカマ、ナイフ程度が精々で、
どれをとっても、敵と戦うための武器ではなく、
決して戦いに向いているとは言い難い。
だからといって、徒手空拳、つまり素手で戦うというのは
あまりに無謀すぎるのだが、クマと戦った事例を見ていると
存外、素手で戦っているヒトが多いのである。
こうなってくると、まさにクマとヒトのプロレス、となるのだが、
実際の戦いになると、殴ったり蹴飛ばしたりが精々で、
プロレス的な投げ技や関節技は用いられることは無い。
個人的には、こういった投げ技や関節技こそ、
単純な殴ったり蹴ったりではない、格闘技の本領があると思うのだが、
対クマ戦においては、これらが使われるということはほとんど無い。
もちろん、素手でクマと戦うのだから、
大きな傷を負う場合も多く、決して好き好んで選択する
方法ではない。
これをするのは、「死んだフリ」が
通用しなかったとき位でいいだろう。

では、いざクマと戦う場合、どうやればいいのか?
素手、あるいは武器を持っての近接戦闘は危険度が高く、
できれば、遠距離で戦いたい所だが、
「銃」が使えない以上、これはちょっと難しいように思える。
ここでプロレスに視点を移してみよう。
プロレスは、基本、相手と組み合ってからの技の掛け合いになるので、
遠距離攻撃というのは、全く存在していないように思える。
しかし1つだけある。
それが毒霧攻撃だ。
口の中に含んでおいた染料を口から霧状に吹き出し、
相手の目を潰す攻撃である。
一時的とはいえ、相手の視覚を封じることが出来るため、
これが決まれば、一気に形成を逆転することも可能である。
はっきりいって、結構、卑怯な技なので、
これを使うのは、一部の悪役レスラーだけである。
これと同じようなことが、対クマ戦で出来ないか?
もちろん、口の中に染料を含んで
クマに吹きかけるなんてことをやるわけではない。
催涙効果などのある薬品を霧状にして、クマに吹きかけてやる。
そう、クマ撃退スプレーである。
これはかなり高い効果を示しており、近年では山林など
クマ出没の危険の場所で働く人たちには、必携となっているらしい。
このように、高い効果を期待できるクマ撃退スプレーだが、
問題はこのスプレーは、クマだけではなく、
人間にも効果があるということだろう。
これを使う場合、あたりの地形、風向きなどを考慮して使わないと、
思わぬ失敗をしてしまうことになる。

さて、ここまで「熊が人を襲うとき」という本の中に収められた
クマとヒトとの遭遇、戦いについて書いてきたが、
その結果、導き出された有効なクマ対策は

・金属音をたてる、大声を出す
・爆竹で脅かす
・死んだフリをする
・ヘルメットや厚手の衣服で、防御を高める
・クマ撃退スプレーを使う

など、奇抜な方法は無く、わりとよく聞く方法ばかりである。
やはり定番のクマ対策は、効果があるからこそ
定番になったということだろう。
TVやネットで大々的に騒がれるような、
人の目を引くことを狙っただけの奇抜な方法ではなく、
昔から使われ続けているクマ対策を、抜かり無くやるというのが、
実は、一番有効なクマ対策なのかも知れない。

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