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ハム

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日本人は、「ハム」というのは薄っぺらいものだ、と思っている。

これもまあ、無理からぬもので、
スーパーなどのハム・ソーセージ売り場を見てみると、
ハム製品のほとんどが薄くスライスされ、
パッケージングされて売り場に陳列されている。
丸いプレスハムが、5〜6枚ほどパッケージされ、
さらにそれがビニールテープで2〜3個ほどまとめられて
販売されており、消費者はこれを購入して、
ハムエッグを焼いたり、サンドイッチを作ったり、
サラダの具材として用いたりする。
最近では、サラダなどに用いる際にわざわざ刻まなくてもいい様にと
「刻みハム」なんていう商品も並んでいる。
「ハム」という商品が、いかに我々の食生活に馴染んでいるかが分かる。

この「ハム」という加工食品。
販売されている価格は、比較的購入しやすい金額になっているものの、
内容量との対比、コストパフォーマンスということになると、
結構お高い商品、ということになる。
もっとも安価と思われる「プレスハム」でさえ、
1パック、100円程度の値段である。
(実際には、3パックまとめ売りなどの形で、
 これよりも安価になっていることも多いが……)
大体1パック、35〜65gほど入っているので、
100gあたりの価格に直すと、2〜300円ほどということになる。
100gあたりでそれだけの価格ということになると、
普通の肉を買う場合でさえ、わりとちゃんとした、いい肉が買える。

この「ハム」という加工品が、普通の生肉より優れている点は、
・すでに加工が施されているため、そのままでも食べられる
・生肉に比べると、保存期間が長い
という所だろう。
生肉は食べる前に、しっかりと加熱しなければならず、
さらに冷蔵庫の中で保管していたのでは、
どんなに長くても3〜4日が限度で、肉の形状によっては
1日程度しか持たないようなものもある。
これに比べると、ハムは比較的長期の保存が可能だ。
未開封であれば、それこそ月単位での保管が可能だし、
一度開封していても、なるべく空気や雑菌に触れないようにして
冷蔵庫の中で保管しておけば、1週間くらいは保たせることが出来る。
毎日の朝食などで、1〜2枚ずつ使いたいなんて場合、
この保存性の高さは、かなりありがたいものである。
この辺りの使いやすさが、少々、割高であっても、
長く使われ続ける1つのポイントであろう。

「ハム」は、ブタのもも肉を塊のまま、塩漬けした加工食品である。
この定義だけを聞くと、え?「ハム」って、火を通していないの?
ということになるが、この定義は、
あくまでも原初の「ハム」の定義であり、
現在、我々がスーパーなどで日常的に購入することが出来る「ハム」は、
きっちりと加熱処理が施されている。
最初に定義したような、豚肉を塊のまま塩漬けにして、
その後、乾燥・熟成させたものは、現在では「生ハム」と呼ばれる。
さらに骨付きのもも肉を、そのまま加工したものを「骨付きハム」、
骨を抜いたものを「ボンレスハム」と呼ぶ。
「ボンレス」というのは「ボーンレス」、
つまり骨がないことを表す言葉である。
また、豚肉に限らず、馬肉、羊肉、兔肉など、
様々な種類の肉を小片にして、つなぎを加えて成型した
「プレスハム」と呼ばれるものもある。
原材料からして、本来の「ハム」からは大きく逸脱してしまっているし、
どちらかといえば、ソーセージに近い「プレスハム」であるが、
これは世界的に作られているものではなく、
日本独自の「ハム」であるようだ。
材料に使われる豚肉の部位は、先に書いたようにもも肉が正統であるが、
この他にも、ロース肉を使った「ロースハム」、
肩肉を使った「ショルダーハム」、バラ肉を巻いて作った
「ベリーハム」などがある。
ただ、もともと「ハム」という言葉は、
「ブタのもも肉」を指す言葉であるため、
そういう意味でいうのであれば、「ロースハム」も「ショルダーハム」も
「ベリーハム」も意味合い的におかしいということになる。
まあ、現在では、肉を使った加工品の固有名詞としての、
「ハム」という言葉が広まっており、
そちらの意味での使われ方をすることが、一般的である。

この「ハム」が、いつ、どこで作られ始めたのか?ということについては
ハッキリとしたことは分かっていない。
ただ、食用を目的としたブタの飼育が始まったのが、
紀元前7000年ごろのことで、
「ハム」(もっとも原初の定義、「塩漬けされた豚肉」)
がそのころから作られていた可能性も、充分にあるだろう。
また、中国でも、約4800年前からブタが飼育されており、
そのころすでに、「ハン」と呼ばれる
「ハム」らしきものが作られていたということなので、
(この「ハン」が、「ハム」の語源ではないか?という説もある)
洋の東西を問わず、かなり古い時代から
豚肉加工品が食べられていたことが伺える。

12〜3世紀ごろになると、ほぼヨーロッパの全域で、
「ハム」や「ソーセージ」が作られるようになった。
毎年、冬の前になるとブタを屠畜して、
これを「ハム」や「ソーセージ」へと加工した。
冬の時期に食べるための保存食だったのだ。
気温が低く、乾燥している冬の気候は、
「ハム」や「ソーセージ」を保管しておくのに
都合が良かったのだろう。
ある程度の大きさのある肉の塊は、そのまま「ハム」に加工され、
細かい肉片や内蔵、血液などは、
腸詰めにされて「ソーセージ」にされた。
捨てる部分は蹄しかなかったということだから、
かなり徹底的に、ブタを活用していたようだ。
これが、後に現在我々の食べている、
「ハム」や「ソーセージ」のルーツとなった。

一方の中国でも、10世紀、宋の時代に「金華火腿」と呼ばれる
「ハム」が誕生している。
そう、世界3大「ハム」の1つといわれる「金華ハム」である。
当時、名将といわれていた宗澤将軍が、
里帰りの途中で思いついたとされているのだが、
これは、ブタの足を丸ごと塩漬けにしたものであった。
ひょっとすると、軍隊用の保存食・携帯食料とするために
考えられたのかも知れない。
杭州の名産品として人気があり、
これを使ってスープのダシをとるらしい。
ひょっとすると、我々の食べている「ハム」というよりは、
「かつお節」などに近い立場の食材かも知れない。

ただ、これらの豚肉加工品としての「ハム」は、
あくまでも、それぞれの家庭単位で作られて、消費されていたもので、
これが1つの産業として、大量生産され始めたのは、
19世紀に入ってからのことである。
20世紀に入ると、作業工程の機械化が進み、
さらに冷蔵技術・輸送技術などが発展したことにより、
広く一般に行き渡るようになった。

日本で「ハム」は作られ始めたのは、
明治時代の初頭のことである。
アメリカ人からその製法を習った人が、長崎で製造を始めた。
後に札幌や鎌倉などでも、「ハム」が製造されるようになったが、
日本の「ハム」は、長らく超高級品であった。
大正10年の物価では、「ハム」1本が、米1俵と同じ価格だったという。
1俵が約60kgであると考えると、
価格にして、18000円ほどになる。
なるほど、これは超高級品である。

日本の「ハム」が、薄く薄くスライスされて販売されているのは、
ひょっとしたら、その時代の名残なのかも知れない。

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