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バジル

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ちょっと前に、友人から「バジルシード」を貰い、
これを食べてみたことについて、記事にした。

ゴマ粒ほどの大きさの「バジルシード」を水に浸けておくと、
これが水を吸収、タネの周りがゼリー状のグルコマンナンに包まれ、
なんとも不思議な食感の食べ物になった。
この「バジルシード」は、似たような特徴を持つ
「チアシード」と同じく、含有している栄養価が豊富で、
巷ではスーパーフードなどと呼ばれている。
(一説によれば、「チアシード」と水だけあれば、
 人間は生きていけるらしい)
自分も「バジルシード」を水で戻し(?)、
ミルクティーや、カルピスなどに入れて飲んでみたが、
雑誌やネットなどで持ち上げられているほどの、
大きな健康効果は実感できなかった。
ただ、小さなゼリー状の粒の入ったドリンクは、
それ自体が飲んでいて面白く、むしろ健康効果よりも、
この食感の楽しさと、ちょっとオシャレな見た目の方が、
大きなアピールポイントだなと、感心したものである。

さて、「チア」の方はともかくとして、
「バジル」の方は、タネだけではなく、葉の方も食用に供される。
独特の香りを放つハーブとして、世界各国の料理に使われており、
日本国内のレストランなどでも、「バジル」を用いた料理を出す所は、
数え切れないほど存在している。
最近では、スーパーの野菜売り場の一画に、
この手のハーブが常備されるようになって来ているので、
これを買って、使って見たという人もいるのではないだろうか?

先日、うちの近くの産直市に出かけていくと、
ナスやジャガイモなどの日常野菜に混じって、
袋詰めにされた「バジル」の葉が、販売されていた。
ビニール袋がパンパンになるほど詰め込まれていて、100円である。
スーパーの野菜売り場で見てみれば分かるが、
普通のスーパーでは、ほんの7〜8枚ほどの葉がパッケージされたものが
200〜300円ほどの値段で販売されている。
正直、ちょっと買って手軽に使ってみようという値段ではない。
そんな「バジル」が、ビニール袋一杯で100円である。
迷わずこれを購入し、早速食べてみることにした。

「バジル」は、シソ科メボウキ属に属する多年草である。
しかし、日本ではこれを植えても冬場の寒さで枯死してしまうため、
1年草と同じ扱いを受けている。
熱帯アジア原産のハーブであり、
イタリアでは「バジリコ」の名前で知られる。
イタリア料理では、特に多用されるハーブであり、
スパゲッティ・ジェノベーゼ、インサラータ・カプレーゼ、
ピザ・マルゲリータなどのメニューは、
「バジリコ」がないと成り立たないといっていい。
「バジル」という名前は、ギリシャ語で「王」を意味する
「バジレウス」に由来している。
古代ギリシャでは、王家で「バジル」を香水や薬として使っており、
「王家のハーブ」と呼ばれていた。
「バジレウス」の名前は、このことからつけられたものだろう。
その香りの成分は、エストラゴール、リナロール、シネオール、
オイゲノールなどで、刺激性が低いため、
そのまま生食することも可能である。
品種によって香りにも違いがあり、
レモンバジルやライムバジル、シナモンバジルなど、
その種類も数も豊富であるが、我々がもっとも一般的に
「バジル」と呼んでいる品種は、「スイートバジル」と呼ばれるものだ。
この香りは、特にヨーロッパで好まれており、
「ハーブの王様」と呼ばれることもある。
(先の「王家のハーブ」といい、やたら「王」に縁のあるハーブである)

原産地は、熱帯アジア・モルッカ諸島である。
地図的にいえば、オーストラリアの直上、
ちょうど赤道上に位置する島々である。
ここから海を渡りインド、16世紀にはヨーロッパにまで運ばれた。
日本には江戸時代、タネである「バジルシード」の方が
「メボウキ」として持ち込まれたとされる。
「バジルシード」の、水につければゼリー状になる特徴を生かし、
目の中に入ったゴミを取り除くのに使われたそうである。
「メボウキ」は「目箒」だったわけだ。
当然、扱いは薬品としてのものである。
「バジル」自体は、日本で栽培することが出来ないが、
「バジルシード」は、長期間の保存にも耐えられるため、
中国などから、貿易品の1つとして持ち込まれたのだろう。
日本で最初に用いられたのが、「バジル」の葉ではなく、
「バジルシード」の方だったというのは、ちょっとした驚きである。

だが、この「バジル」が江戸時代に初めて持ち込まれたという説を覆す、
新しい説が出てきている。
奈良県桜井市の纏向遺跡(まきむくいせき)において、
3世紀中ごろの遺溝と見られる場所から、
「バジル」の花粉が見つかったというのである。
纏向遺跡は、邪馬台国があったとされる候補地の1つであり、
3世紀半ば、といえば女王・卑弥呼が亡くなったとされるころである。
この発見の1つのポイントは、「タネ」ではなく
「花粉」が発見されたということだろう。
この発見が真実であるのならば、当時の日本に「バジル」の花が
咲いていたということになる。
江戸時代、目の洗浄用として
「バジルシード」が使われていたことは書いたが、
これを植えて、栽培したというのは、
ずっと後の時代になってからである。
「バジルシード」は長期間保管していても発芽するし、
日本の気候であっても、初夏から夏の時期であれば充分に育つ。
纏向遺跡から「バジル」の花粉が見つかった、ということは、
3世紀当時の奈良において、誰かが「バジルシード」を発芽させ、
この花が咲いていたということである。
香り高い「バジル」は、王族などに好まれて使われた他に、
宗教的な儀式に使われることも多かった。
ひょっとしたら、邪馬台国においても、
「バジル」が儀式において、重要な役目を持っていた可能性もある。
古代日本の邪馬台国と「バジル」は、なんとも不思議な組み合わせだが、
そんなことが起こっていたとすれば、
「バジル」は我々が考えるよりも、ずっと日本に縁があるということだ。

さて、ビニール袋一杯に詰まっている「バジル」。
生食出来る香草であるので、とりあえず半量ほどをミキサーにかけ、
細かくすりつぶした後、塩胡椒で味を整え、
炊きたての麦飯に混ぜ込んでみた。
イタリアの、スパゲッティ・ジェノベーゼは、
同じようにすりつぶした「バジル」に
塩胡椒とオリーブオイルなどを加えて、
茹で上げた麺にまぶしたものである。
麺に絡むようにオリーブオイルが混ぜてあるが、
ご飯の中に混ぜ込むのであれば、これは要らないだろう。
結果、生「バジル」の香りがプンプンする、
「バジルご飯」が出来上がった。
いわば「ライス・ジェノベーゼ」とでも言おうか。

はっきりいって、これは失敗だった。
とんでもなく香草臭いご飯になってしまったのだ。
味自体が悪いわけではないのだが、
とにかく、生ですりつぶした「バジル」の香りが鼻につく。
炊飯器の釜の中で、麦飯とバジルを混ぜ合わせたのだが、
その後、ご飯を炊くと、ほんのりと「バジル」の香りのついたご飯が
炊けるようになってしまった。
(こちらの方が、どちらかといえば品のいい「バジルご飯」である)
恐るべきは、「バジル」の香りの強さである。

改めて、残りは普通にスパゲッティ・ジェノベーゼに
するつもりだったのだが、翌日、「バジル」の入っていた袋を見ると、
虫がたくさんついている。
どうやら、「バジル」の中に虫のついたものが混じっており、
1日おいたことで、袋の中に広まってしまったらしい。
さすがにちょっと食べる気がせず、全て廃棄処分となった。

そういえば、栽培方法を書いていたウェブサイトで、
虫がつき出すと、あっという間に食い荒らされる、とあったが、
産直市などで「バジル」を買う場合は、
よほど良く、中を確認してからにしないとダメなようだ。

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